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34話 あんたたちらしいクリスマスにする必要ないんだから


「大学生スタッフのほとんどが教育系の学生で化学は専門外なわけ。イベントは小学生向けって話だったし。蓋を開けてみたらこれだったけど」


「ふーん」


「で、なんで真っ白たちがここにいるの? これ、小学生向けのイベントなんだけど」


「……なんでだっけ?」


 本当に、素直にアミューズメント施設でゲームでもしてればよかった。

 サラさんは実験の解説なんか何もせず、ただ雑談を始めた。話しているのはほとんど先輩、僕、サラさん。

 僕と先輩はサラさんとそれなりに話したことがあるが、紅林さんと大白先輩はそうでもないので仕方がない。


「なんか、記憶に残るイベントになるかなぁと。良くも悪くも」


「じゃ、どっちだった?」


「悪い方ですね。知ってる実験をしても普通につまらないです」


「だよね。もう帰ったら?」


 スタッフから帰宅を勧められるのか……。


「サラサラはクリスマスの夜になんでこんなことしてるの?」


「帰ったら?」には答えずに、先輩はちょっと失礼かもしれない質問をした。


「バイト。時給1400円。めっちゃいいでしょ? 真っ白たちと話してるだけで2800円になるんだから」


 時給がとても高いということもないが、業務内容から考えるといいのかもしれない。

 しかし、それを一応 客というか、ゲスト側に言っていいのか? 帰れって言ったり、この人、ちゃんとスタッフやってないと思う。


「いや、それにしても、クリスマスにみんなで実験教室に行こうなんて、仲良いね。ちょっと気持ち悪いレベル」


 容赦ないな、この人。


「今からでもイルミネーションとか見に行けば? 今日までってとこたくさんあるでしょ?」


「あの、さっさと帰らせて仕事終わらせようとしてません?」


「あ、バレた?」


 このイベントの運営って区だよな。これの給料、税金から出てるってこと? えぇ……。


「だって、このあとは炎色反応で花火の話だし。あんたたち、学祭の時 花火見ずに帰ったでしょ。花火とか興味ないってことでしょ、それ」


「そんなことないよー。リアカーなきK村、動力借りようとするも貸してくれない馬力で行こう!」


「はいはい。よく言えました」


「ラジウムの炎色反応は洋紅色」


「あっそう。それだけ知ってればこのあともいる意味ないから。代わりに本物の小学生連れてきてよ」


 先輩は偽物の小学生だと。まぁ、そんな感じではあるかも。


 サラさんとそんな話をしていると、なんかステージの方でよくわからない寸劇が始まった。


「あれだね。小学生に理科を教えるのも大変だね。小芝居までしなきゃいけなくて」


 先輩はそれを見て呆れ気味に言う。


「あの人たち、1人を除いて区の職員。実験のプロは1人だけ。で、現場スタッフはほぼ大学のバイト。

 そもそもが失敗前提みたいなイベントなのよ。理科離れへの対策を講じましたっていう口実作りみたいな」


 加えてサラさんから内部情報のカミングアウト。

 本気で今からでもイルミネーション見に行った方がマシかもしれない。


「ね、こんなところいないで、高校最後のクリスマスを謳歌しなさいよ。

 仲良し4人組で変なイベント行って微妙な空気なったなんて、将来笑い話にしかならないのじゃなくて、もっと青春しなさい」


「サラサラの帰れ推しがすごい……」


「あのね、あれでしょ。こんなところに来たのって、イルミネーション見てちょっとだけロマンチックな雰囲気になるのとか、カラオケでバカになって盛り上がるのとか、そういうのは『わたしたちには似合わない』って思ったんでしょ。


 それで、変に奇をてらっちゃったんでしょ?


 そんなの気にしないで、クリスマスくらい思いっきり普通の高校生っぽいことしなさいよ。せっかく仲良し4人集まったんだから。

 別に、あんたたちらしいクリスマスにする必要ないんだから」


 なんか、とても真っ当にいいことを言われている気がする。

 でも、この人はこのイベントのスタッフで、今やってるのは完全に職務怠慢……。


「まだ18時過ぎ。時間はあるんだから」


「サラサラが年上面する……」


「5歳も上でしょ。貴重なのよ、友達と過ごせる高校生のクリスマスは。来年このメンバーで過ごせる可能性なんてかなり低いんだし」


「サラサラが不吉なこと言う……」


「真っ白も大学に入ったら別の友達もできるだろうし、そっちの方がよく会うようになるのは当然でしょ」


「サラサラがウザい……」


「ウザっ、ウザいって何!? あたしはこれでも割と真剣に」


 また喧嘩か……。この2人の口論は平行線のままひたすら続きかねない。


「先輩、スタッフと喧嘩するくらいなら出ませんか?」


 紅林さんと大白先輩は本気でどうしたらいいのかわからなそうだし。完全に黙り込んでしまっている……。


「そうだー、帰れ帰れー」


 あんたはちゃんと2800円分の労働をしろ。


「やだ! サラサラの言いなりになるのはやだ!」


 こっちはこっちで面倒くさい……。

 小学生の喧嘩みたいになってる。隣の机の小学生がなんかちょっとこっち見てるし。というより、先輩が大きな声を出したものだから会場中の視線が集まってる。


「先輩、大人しくするかつまみ出されるかのどっちかみたいな雰囲気になってますけど……」


 周りからは、小学生向けのイベントに高校生が来て荒らしているようにしか見えないだろう。僕たちは明らかにお呼びでない。


「むぅ。……出る?」


 視線を無言でいる2人に向ける。


「そうしましょうか」

「そうっすね」


 というわけで、僕たちはそそくさと退散することにした。


「サラさん、いらない気を使わせたかもですが、なんというか、ちゃんと働いてくださいね。2800円分」


 去り際にそう言っておいた。返事は「嫌よ」の一言。さすが、先輩の大学での友達第1号。いい性格してる。


「ムカつくー!!」


 体育館を出るなり叫ぶ先輩。まぁ、ムカつくというのはわからなくもない。


「がうっ! があー!!」


 言葉にならない怒りに支配されて吠え出す先輩。公衆の面前なんだが……。

 紅林さんと大白先輩が『猛獣使いなんとかしろ』みたいな目でこっちを見る。えぇ……。


「先輩?」


「イライラする!」


「まぁ、はい。でも、それ以上にこの後どうするんだよ感が」


「イライラするから、蒼くんのこと殴ってもいい? ていっ!」


 質問と同時に先輩に肩をグーで殴られた。いや、そこまで痛くはないから別にいいけど……。


「落ち着きました?」


「もっと殴ってもいい?」


 可愛らしい顔でそう尋ねられても、「いいよ」と言うわけがない。


「嫌です。それより、この後どうします?」


 時間は18時半くらい。別に解散してもいい時間だ。でも、これで解散というのもなんかちょっと……。


「知らない」


「あの、すみませんでした。こんなイベント見つけて」


「いやいや、紅林さんが謝る必要なんて何も。僕だって肯定しましたし」


「ああ、紅林が悪いってことはない」


「なんか、シャボン玉で解散してた方がいい感じだったかもね。後半戦とか言ったわたしもダメだったかも」


 雰囲気がどんどん暗くなる……。とりあえず、このあとどうするのかだけさっさと決めたい。


「このまま解散して、なんかダメだったって笑い話にするのと、イルミネーション見に行くとか、カラオケ行くとかして、普通に楽しかったって感じにするか、どっちがいいですか?」


「思いっきりストレス発散したい!」


「つまり?」


「スカッとするゲームとか。大量殺戮!」


 なんとも物騒なワードを。さっさから行き交う人々が僕たちをチラチラとうかがっている気がする……。


「んじゃ、ゲーセンっすかね」


 先輩がそれを選んだのは、たぶん、サラさんの言った言葉の中に入ってなかったってのもあると思う。「サラサラの言いなりになるのはやだ」って言ってたし。


 僕たちはまだ少し微妙な雰囲気を残したまま、駅近くのゲームセンターへと歩き始めた。

 あんまり金銭を使いたくないのだが、さて、どうなることか……。


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