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33話 なんなんだよ、この先輩は


「リチウム」


「虫」


「シーボーギウム」


「昔」


「シム」


「武蔵」


「システム」


「無印」


「執務」


「昔話」


「昔って言って、昔話って言うのはあり?」


「あ、ダメなんですか? しりとりのルールってよく知らないんですけど」


 時間つぶしにしりとり。なんとも生産性がない。大白先輩は未だ戻らず、紅林さんは飲み物を買いに一時退室している。


「まっ、ありでいいよ。下村 脩」


 ノーベル賞か。しりとりって人名ありなのか?


「無駄話」


「シュールレアリズム」


「……えっと」


 僕が言い淀んでいる間に、紅林さんがペットボトルを片手に戻ってきた。


「えっと、あー、麦わら帽子」


「シャム。にゃあ」


 『む』と『し』じゃ、そりゃ『む』の方が有利だよな……。


「麦飯」


「庶務」


「……えっと、ムラサキウミウシ? いえ、いるか知らないんですけど」


「調べよー。いなかったら蒼くんの負けね」


「別にいいですよ」


 しりとりの勝ちにこだわるつもりなんて毛頭ない。……先輩に負けるのはちょっと癪だが。


「ムラサキミノウミウシとムラサキアミメウミウシはいるらしいですが、ムラサキウミウシはいないみたいです」


 紅林さんがすぐにそう告げた。調べてたのか。


「わたしのかーちーっ!」


 別にいい。ただの暇つぶしだし。でも、その勝ち誇った顔はムカつく。ふざけたサンタ帽をかぶっているのがよりムカつく。


「蒼くん しりとりよわーい」


 煽るのかよ。


「はいはい」


「なんだよー。もっと悔しがれよー」


「あー、くやしいなー」


 ムカつくので殊更に棒読みにしてそう言った。先輩はそれを聞いて「くくっ」と笑った。


「あー、たのしいなー」


 全く同じトーンで返す先輩。まぁ、楽しそうでなにより。


「あとどれくらいで出発?」


「開始は17時ですが、開場は30分前なので、あと30分くらいしたら出発でいいと思います」


 そろそろ15時半になる。出発は16時くらいか。


「大くん、戻ってこないね」


「生徒会、何やってるんでしょう?」


「大くん、別に役員じゃないのに。生徒会、許すまじ」


「まぁ、こっちにいても今は特にやることもないですけど」


 しりとりをするくらいにはやることがない。生徒会はわざわざ呼び出したのだし、何かやっているのだろう。


「でも、大くんにはこっちにいてほしかったな」


 まぁ、無為な時間でも、1人欠けているのはなんとなく寂しいかもしれない。


「明日から冬休みかぁ。冬休みが開けて、少ししたらわたしはもう自由登校だもんね。卒業もすぐだよね……」


「いつになく感傷的ですね」


「わたしだってみんなと離れるのは寂しいもん。今すぐ高認取って大学に進学してよ」


 無理に決まってるのに、先輩は案外本気でそれを言っているように見えた。なんとなく紅林さんの方を見ると目が合った。


「それはちょっと無理ですね。先輩が留年する方がまだ現実的です」


「むぅ」


 ふくれる先輩。拗ねた子どもにしか見えない。


「私、真白先輩と同じ大学を受けようかなと思ってます」


「ほんと!?」


「はい」


「わーい!」


 紅林さんに勢いよく抱きつく先輩。紅林さんは当然戸惑う。

 2年後、本当にその大学を受けるかどうかは、今のところなんとも言えないだろうけど。


「蒼くんも元治大受けよう! ねっ!」


 紅林さんの抱きついたまま、顔だけこちらに向ける先輩。紅林さんが軽く振り解こうとするも、先輩は抵抗して離れないみたいだ。


「……受けるだけなら受けるかもしれません」


「滑り止めで受けるなら、わたし、蒼くんが他全部落ちるの祈っちゃうな。合格祈願の御守り、中身抜いて送ってあげるよ」


「やめてください」


 祈りというか呪いだ、それ。


「本気で一緒の大学じゃなきゃやだーなんて言わないけど」


 紅林さんから手を離し、先輩はこちらを向く。


「この辺の、蒼くんの今の家から通える大学に行ってほしいかな。紅ちゃんも、よく考えて選んで。でも、会える距離がいい」


「先輩、ふざけている時とまともな時の落差が大きくて、対応が追いつきません」


「なんだよっ! だったら何が何でも元治に来いっ! 三者面談で『憧れの真白先輩がいるから元治に行きます』って言って怒られろー」


 先輩は怒った口調で、顔は笑っていた。


「はいはい」


「蒼くん」


「はい?」


「本当に選ぶのが嫌になったら、そんな理由で元治にしていいんだよ。わたしと大学生活をエンジョイしよー」


 この人は、ふざけてるんだか真剣なんだか、時々わからなくなる。デフォがふざけすぎなんだ。


「まぁ、はい」


「紅ちゃんも、もっと高いところを考えても、紅ちゃんなら大丈夫だよ」


「えっと、でも……」


「紅ちゃんなら大丈夫」


「……はい」


 だから、突然いい先輩になられると落差に対応できないんだって。


「でも、大くんも入れて4人で大学生活って楽しそう。やっぱり元治にしよう。うん。3人とも元治ね。決定っ!」


「先輩、いいこと言った風だったのに、台無しですよ」


「いいことなんて言ってないからいいのっ!」


 なんだ、ただの照れ隠しか。


「というか、大くんは? なんで帰ってこないの? スタンプ爆撃してやる」


 僕と紅林さんは目を合わせて笑った。


 直後、スマホに大量の通知。


『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』

『真っ白最高がスタンプを送信しました』


「スタンプ爆撃をグループトークでしないでください!」


 なんなんだよ、この先輩は。


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