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32話 ロウソクの科学


 カラオケとかボウリングとか、その手の定番とも言えるアミューズメントは僕たちのキャラではない。


 単純にグーグル先生に尋ねたところで、この後の目的地に適当な場所は見つからなかった。


「いっそのこと先輩が戻ってくるまでに帰っちゃいましょうか」


 どうしようかとスマホを見つめる2人に対して、僕はそんなことを言って調べるのをやめた。


「それ、菜子先輩泣くぞ」


「かくれんぼですみたいな置き手紙残して帰ればなんとかなりません?」


 まぁ、いくらなんでも冗談だが。


「最終的に大声で喚きながら校内を探し回って、職員室で問題になるやつだな」


「ありえそうですね、それ」


「結局どうする? 誰も企画を用意してないイベントって、一度止まるとどうにもならんな」


 この後どうする?って話してる間に時間過ぎて、結局何もしない1日だったってなりかねないやつ。まぁ、僕としてはシャボン玉だけで充実していたけれど。


「俺としては無難にアミューズメント施設にでも行けばいい気がするんだけどな。ボウリングとかスポーツ系は菜子先輩アレかもだが、ゲーセンはありなんじゃないか?」


「わざわざクリスマスにって感じもしますが、もうそれでいいですかね」


 僕はなげやりに頷いた。考えるのが面倒になっていた。


「あの、ロウソクの科学が」


 僕と大白先輩が話している中、黙々とスマホを操作していた紅林さんが声をあげた。

 正直、いい案を出すならこの人だろうと期待していた。


「ロウソクの科学って、マイケル・ファラデーですか?」


「あー、クリスマスだな、あれ」


「はい。それにちなんだ子ども向けの実験教室を近く、えっとここから2駅のところの科学館でやるみたいです。真白先輩、こういうの好きそうじゃないですか?」


「実験のテーマはなんですか?」


「燃焼ですね。いろんなものを燃やすみたいです」


 燃焼ってアバウトなテーマだな。例えば、何だろう。


「塩化ナトリウムとかですか?」

「水素とかか?」


「炎色反応はありそうです。水素はわかりません。たぶん小学生向けで、年齢制限は8歳以上です」


 8歳って小3か? 理科の履修が始まるのが小3だったか。


「それ、俺たちが見て面白いか?」


 まぁ、何が起こるのか知っている実験ばかりな気はしてしまう。


「実験を楽しむというより、子ども向けに実験をするプロ集団のパフォーマンスを楽しむものだとは思います。あとは、それを見る純粋な子どもの反応とか」


 たしかに、内容を把握している実験を、その道のプロがいかに披露するかを見るというのは案外面白い、かも?


「まぁ、ゲームセンターよりも僕たちっぽくはありますね」


「ロウソクの科学を実体験するってのは、文芸部っぽいクリスマスな感じはするな。ゲーセンよりもネタとして面白いってのもある。内容が面白いかはわからん」


「面白い保証はないですけど、楽しい、面白いより、記憶に残るを優先していいんじゃないですか? 将来、あれ、ものすごくつまんなかったよねって笑えるのもありですし」


 これ以上考えるのも嫌だったので、僕はその案を肯定した。


「ちなみに開始は何時ですか?」


「17時です。日の落ちた後に薄明かりの中って雰囲気にするみたいです。時間は2時間で19時に終了。ただ、途中の入退室は自由と書いてあります。事前に予約は必要ありませんし、無料です」


 17時か。先輩が戻ってくるのは14時半くらいだろう。移動時間を考えても、2時間くらいは空きがあるのか。


「じゃあ、それでいいな。空き時間は、なんかテキトーに、な。俺、ちょっと生徒会の方に呼ばれたから、行ってくる。少なくともそれには間に合うように戻る」


「え、あ、はい」


 なんか大体全部後輩に任せて、大白先輩は行ってしまった。


「とりあえず、これで決まりでいいですか?」


「いいと思います」


 17時以降の予定は決まった。


「あの、話は大きく変わるんですけれど」


 紅林さんはスマホをしまうとこちらを向いた。


「なんですか?」


「校内でやった模試の結果、どうでした?」


 本当にクリスマスと何の関係もない話題になった。まぁ、たぶん2人になった時に話したかったのだろう。


「前に受けたセンター模試よりはだいぶよかったです。点数は覚えてないですけど、偏差値なら国語以外は70超えました」


 なんか、ちょっと自慢っぽいだろうか。まぁいいか。


「そう、なんですね。私、数学がちょっとイマイチで……。正直、定期試験の出来が良すぎたので、落差があって」


「なるほど」


 そんな話をされて僕にどう答えろと? なんと返答するのが正解なんだよ。


「国語の方が数学より偏差値が10以上高いのに、来年は理系の選択で提出したので間違えたかなって。大学そのものは文系で考えてるんですけど」


 いや、その相談は僕じゃなくて教師にすべきだろ。紅林さんの担任は先輩とも仲良くできるあの松田先生だし、フランクに相談してしまっていいと思うのだが。


「まぁ、理系選択で文系受けるのもできるって松田先生たしか言ってましたし、そこまで気にしなくて大丈夫だと思いますよ。数学だって平均より下ってわけじゃないでしょう?」


 たぶんこの学校、理系なのに数学の偏差値が50切ってる人普通にいるだろうし、紅林さんが授業で苦戦するってことはないと思う。


「はい。えっと、60くらいでした」


「気にしなくて大丈夫ですって。僕のセンター模試の偏差値は56ですから」


 70超えたとか軽率に言うんじゃなかった。紅林さんは国語70オーバーっぽいけど。


「謙遜しなくても。蒼井くん、今回冊子掲載でしたし」


 冊子掲載? え?


「そうなんですか?」


「見てないんですか?」


「えっと、はい」


 全国順位とかよく覚えてないが、3科目総合は、たしか3桁だった気がする。


「優秀者の後ろの方に載ってましたよ。今は持っていませんけど、たしかに載ってました。松田先生、ちょっと騒いでましたし。

 その、ライバル視してたのに、差ができちゃったなって」


 うちの担任は何も言って来なかったのに、松田先生は紅林さんに対してそれを騒いだのか……。


「いや、差なんて、僕だってライバル視してますし」


「今回は完敗でした。でも、次は健闘します」


 勝ちますではなく、健闘しますと言ったあたり、結構 堪えてるのかもしれない。でも、何と言えばいいかわからない。


「えっと……」


「ドーン! この後どうするか決まった!? ……あれ、大くんは?」


 突如 勢いよくドアを開けて登場し雰囲気をぶっ壊した先輩が、僕には救世主に見えなくもなかった。


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