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30話 ……お前たち、本当に仲良いな


「素数表、シャボン玉、カイロ。プレゼントの個性が強すぎないっすか……」


 大白先輩は相当困惑した様子で受け取った。


「てか、俺、プレゼントとか用意してないんすけど……」


 まぁ、クリスマスプレゼントを贈るなんて話は出てなかったし、シャボン玉も素数表も完全にネタだ。紅林さんだって、使い捨てカイロの方はテキトーだろう。


「別にいいんじゃないですか? 僕も半分悪ふざけに近い形で持ってきただけですし」


「シャボン玉だもんな」


 手に持ったシャボン玉セットをしげしげと見つめ、「なぜ?」という顔をする大白先輩。特に理由もないので説明に困る。


「案外楽しいよ。大くんもやろ」


「それで校舎裏だったんすね。カイロ、今使ってもいいか?」


「はい、使ってください」


「普通にありがたい。あっ、生徒会からあまりのうまい棒とチロルチョコいくつかもらったから、ショボいけど俺からはそれで」


 大白先輩はバッグからビニール袋に無造作に詰められたうまい棒とチロルチョコを取り出した。


「シャボン玉もいいんすけど、3人とも昼飯は食べたんすか?」


 今日は終業式とLHRのみで11時頃には授業が終わった。それからワイワイしていたが、まだ時間は12時過ぎ。


「食べてなーい」

「食べてないです」

「まだです」


「食べないんすか?」


「せっかくここまで来たんだからシャボン玉やってけよー」


 そう言って大白先輩にシャボン玉を吹きかける先輩。大白先輩は思わず顔をそらす。


「あー、はい。わかりました。わかりました」


 雑めに頷くと、大白先輩もシャボン玉の会に参戦する。


「シャボン玉とかいつ以来だ?」


 そんなことを呟きつつ、「ふー」と大白先輩はシャボン玉を飛ばす。やはり似合わないが、想像したよりかは幾分かマシだった。

 なんか、お父さんが子どもの遊びに付き合ってあげてる感がある。


「じゃあ、誰が1番大きいのが作れるか勝負ね!」


 なんて生産性のない勝負だろう。そんなことを思いつつも、ストローにシャボン液をつける。案外僕もこのシャボン玉会を楽しんでいるらしい。


 4人がそれぞれゆっくりと息を吹き込み、できるだけ大きいシャボン玉を作る。

 その光景が滑稽に思えて笑いそうになり、僕のシャボン玉はその瞬間に割れてしまった。


「あ」


 僕のリアクションが間抜けだったのか、他3人もそこで笑いかけてシャボン玉を割った。


「あー!! 蒼くんのせいだーっ!!」


「これで引き分けってことで」


「蒼くんが最初に割れたもん!」


「大きさは全員0なんで」


「もっかい!」


 そんなどこか地に足がつかないような、ふわふわとしたシャボン玉タイムは10分くらい続いた。気づけば先輩だけでなく、4人とも小学生みたく楽しんでいた。


「……なにしてるんだ、お前たち?」


 僕たちが我にかえったのはその言葉を投げかけられてだった。


「文芸部の生徒がこの寒さにもかかわらず校舎裏で何かしてるらしいって言われて来てみたんだが……」


 そう言う顧問は本気で状況がつかめないようで、僕たち4人の間で視線を彷徨わせる。


「シャボン玉してた!」


 先輩は元気よく端的に返事をした。まぁ、それ以上でもそれ以下でもない。


「いや、それはそうなんだろうが、なんでシャボン玉? というか、なんでそんなもの持ってるんだ?」


 意味がわからないという様子で「え? ん?」と繰り返す顧問。


「蒼くんからもらった。クリスマスプレゼント」


「いや、すまん。意味がわからん。蒼井がシャボン玉をクリスマスプレゼントに真白に贈った?」


「先輩にというか、文芸部全員にですね」


「なぜ?」


「妹との会話がきっかけで、まぁ、成り行きで」


「どんな成り行きだよ……」


 顧問は「ダメだ。聞いてもわからん。高校生の発想は奇想天外すぎる」と頭を抱えた。

 奇想天外とまで言われるか……。


「持って来た流れは、わからんけどわかった。で、なんでこの寒さなのにここでやってるんだ?」


「持って帰って1人でやっても虚しいと先輩が」


「だってそうでしょ?」


「まぁ、実際、高校生が1人でシャボン玉やっても虚しいだけだとは思います」


 顧問が「だったらなんでシャボン玉贈ったんだよ」と呟いた気がしたけど無視する。いや、正論なんだけど。


「いや、シャボン玉で遊ぶのは別に注意するようなことじゃないしいいんだが、寒くないのか?」


 そう問われると、先輩は顧問に詰め寄った。またあれやるのか。


「タナ先、寒いね!」


「だよな。寒いよな」


「あったかいね」


「は? いや、は?」


 そして降りる沈黙。


「なんだ? 意味がわからないんだが?」


「タナ先、蒼くんも紅ちゃんも大くんもわかったのに、国語教師のタナ先がわからないのはダメだよ」


「は?」


 顧問は先輩に対して「頭おかしいんじゃないか、こいつ」という感じの視線を向ける。


「寒いねって言って、タナ先も寒いねって返したんだよ」


「だからなんだ」


「それで、わたしがあったかいねって言ったら、わかるでしょ?」


「いや、お前、意味不明すぎるぞ。なぁ?」


 顧問は同意を求めてきたが、僕たち3人はそれでわかった側なので頷けない。


「なんでよっ! 俵万智じゃん!」


「は? あ、ん、ああ……。って、わかるか!」


「普通わかるもん! この中でわかんなかったのタナ先だけ!」


「……お前たち、本当に仲良いな」


 顧問は何かを諦めたようにボソッとそう漏らした。


「別にシャボン玉やるのはいいんだけどな、風邪引くなよ。あと、真白は三者面談あるだろ。忘れないように」


「あー、あったね、そんなの」


「あったねってな……。サボるなよ」


「大丈夫。14時からでしょ。覚えてる覚えてる」


「ならいい。思う存分シャボン玉を楽しめばいい。たしか、砂糖を入れると割れにくくなるんじゃなかったか」


「タナ先、シャボン玉はすぐに壊れちゃうところがいいんだよ」


 この人さっき、すぐに壊れるものを作って何が楽しいんだろうって思っていたとか言ってなかったか?


「そうか、そうか。たしかにそうかもな。じゃあ、私はすぐに終わりもしない仕事に戻る」


 顧問は「寒っ」と肩を震わせて校舎の中へと戻っていった。残された僕たちの間にはなんとなく沈黙が降りる。


「なんか、タナ先のせいで変な空気になっちゃったね。タナ先のせいで」


 大事なことなので2回言ったのだろう。


「お昼食べます?」


「どこで? ここで?」


 パソコン室は飲食禁止。いつもこの壁にぶつかる。


「ここはいくらなんでも寒くないですか?」


 テンションがおかしかったさっきまでならともかく、冷静になった状態でこの寒さは堪える。


「大丈夫だよ!」


 えぇ……。先輩の目は冗談を言っている風ではない。この人はそういう目で冗談を言うことも多々あるが、今のは本気で言っているっぽい。


「冬空の下、凍えながらみんなでご飯。いいじゃん。クリスマスっぽい!」


「先輩のクリスマス観おかしいですよ。ねぇ」


 同意を求める。ここで反対意見が僕だけだと押し通される。先輩と1対1では、なんか勝てる気がしない。


「他に場所がないなら、私はここでも大丈夫ですよ」


「あー、女子2人がいいなら、俺も無理ってことはないっすね」


 ……なんで?


話が一向に進まない……。

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