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25話 チョコレート


「詩歌とか、美月は頭いいからなぁとか、最近そればっかり。頭よくないっての。塾も行ってないのにー、とか、その分 自分で勉強してるし。勉強時間は私の方が絶対多いし。

 やんわりそう言ったら言ったで、自分で勉強できるなんてやっぱ頭いいとか、もう、しつこいの。私に勉強できるキャラを押し付けてどうしたいわけ?」


 本人に訊けよというのが正直なところだ。僕にそれを言ってどうなる。まぁ、誰かに言いたいってだけなんだろうけど。


 愚痴を聞き始めて5分ほど経っただろうか。妹の話は友人の悪口とも取れるようなものばかりで、まぁ、話せるのは、興味なく聞き流す僕くらいなのだろう。


「自分より勉強ができる奴は頭がいいってことにしないと、自分がバカってことになるからなんじゃない? 知らないけどさ。受験が迫ってきて、自分はバカじゃない、自分よりできる人が特別なだけって思いたいとか」


「兄さん、どうせ、「ふーん」とか「へぇ」とかだけ言って聞き流すと思ってたら、案外ちゃんと答えるんだ」


「ちゃんとじゃない。かなりテキトーだから、真に受けるなよ。あっ、モンブラン、1口いるんだっけ?」


 妹は計4皿目になるチョコレートケーキを3/4ほど食べ終えた。それに対して、僕の方はモンブランの処理がやっと終わるというところ。

 バイキングの時間は半分を過ぎたくらい。妹は余裕で元を取る。僕は腹の具合的に難しそうだ。


「うん。もらうもらう」


 妹はモンブランを食べると「だよね」と言って頷いた。何が「だよね」なのかさっぱりわからない。


「じゃ、一応追加頼んでくるから」


「あっ、私も行く」


 皿に残っていたケーキを一気に頬張る妹。そして、「ガフッ、ゴホ」とむせ、飲み物で押し込んだ。

 いや、荷物番に1人残る方がいいのに、なんで無理して一気に食べるんだよ……。


「じゃ、先に行ってきて。荷物見てるから」


「え? あ、うん」


 妹が注文に向かうのをなんとなく見つつ、僕はゆっくり飲み物を飲んだ。妹の方はなんか名前のよく知らないお洒落な飲み物を頼んでいたが、僕のはただの烏龍茶だ。喫茶店とか行くことがないので、僕は飲み物の名前にかなり疎いらしい。


 視線を妹から他の客へと移す。とりあえず知り合いはいない。文芸部の面々はないにしろ、佐伯さんや紺野さんに偶然会うなんてことがなくてよかった。


 仲睦まじそうに談笑しながらケーキを食べる組。元を取るのに必死なのか、無言で黙々とケーキを平らげていく組。男性の方には明らかに食べる気がなく、どんどん食べるパートナーをにこにこと眺めている組。なんとも様々だ。


「お待たせー」


 戻ってきた妹のトレイの上にはチョコレートケーキが2つ。マジか。


「どんだけ気に入ったんだよ」


「めっちゃ美味しいから。兄さんもぜひ。あっ、1口もあげないからね」


 2皿完食は絶対にできると。

 妹はもう計5皿目となるはずなのに、始めと変わらない幸せそうな表情でケーキを口へと運ぶ。なぜ? 2皿食べた時点で、もう結構いいかなって感じなんだけど。


 妹の普段からはうかがえない食べっぷりに困惑しつつ、僕も注文に向かった。


 チョコレートケーキを食べるなら、あとはもうそれで限界だな。ゼリーで元を取るとか言っていたのはなんだったのか。蓋を開けてみれば全然だ。


 チョコレートケーキ1つを注文し、席へと戻る。その間に妹はケーキ1つの半分ほどを食べ終えていた。おかしいだろ……。


「お前、そんなに大食いだったか?」


 つい訊いてしまった。


「チョコは別腹なの」


 妹はチョコレートだけを高速で消化する胃を持った奇怪な生物らしい。身内にクリーチャーがいるとは思わなかった。

 そんな考えが浮かぶほど、僕から見て、妹の食べっぷりは異常に思えた。


 僕もチョコレートケーキを食べ始める。美味しいが、案の定 腹にかなり溜まる。1個食べれば十分満足できる気がする。


「ただただチョコレートを食べてる時は、嫌なこと忘れられるよねー」


「そりゃあ、よかった」


 妹が落ち込んだら、とりあえずはチョコレートを渡せばいいらしい。


「学校にお菓子持ち込むの禁止って不当じゃない? 私にとっての精神安定剤なのに。薬は持ってきてよくて、なんでチョコはダメなの?」


 今度の愚痴の対象は校則か。嫌なことを忘れると言ったそばから愚痴をこぼすとは、矛盾してる。


 中学の時は確かにお菓子を持っていくのは禁止されていた。糖分を取ることで勉強の効率は上がる気がするし、持っていってもいいと僕は思うのだが。

 まぁ、チョコレートと薬を同列に語るのはさすがにおかしいと思うけど。


「高校に入れば、チョコレートを持ち歩くくらいで注意はされない。まぁ、チョコの匂いを常に漂わせるのはどうかと思うけど」


 今の時期ならいいが、夏場にはチョコレートは溶ける。


「そっか、高校はチョコ持ち込みありなんだ。……バレンタインとか大変そう。友チョコ、面倒」


 持っていけるのは、それはそれでダメなのか。


「そんな面倒なら」


「やらなきゃいいって言うんでしょ? そういうわけにはいかないって。うちの中学から一浜に進学する人も結構いるし、高校に入ったタイミングでキャラ変も無理。あーあ」


「いや、僕に共感できる悩みじゃないけど、まぁ、なんか、あんまり頑張りすぎるなよ」


「そこは頑張れじゃないの?」


「自分が頑張ってないことを人に頑張れって言うのは嫌いなんだ」


「兄さんは人間関係、もっと頑張ったら?」


 この話題は僕の方に飛び火するのか。話をそらそう。


「三者面談でそんな話しされて、母さんは完全無視してた」


「うわぁ。想像できるー。担任の人、困ってなかった?」


「困ってた。ちょっと口論っぽくもなったし」


「詳しく」


 それからは共にわかる母親への愚痴に終始した。


 店を出るまで、僕はなんとかチョコレートケーキを食べ終え、妹はさらに2皿チョコレートケーキを頼んだ。

 最終的に妹はフルーツタルト1皿、白桃のゼリー1皿、チョコレートケーキ6皿を平らげた。チョコレートケーキに関しては1人でワンホール食べてる。


「ぐるしぃ……」


 まぁ、買い物どころではないか……。


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