表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/332

23話 面倒くさい人、ヤバい人、狂人、変人


 朝、ヨーグルトを冷蔵庫から取り出すと、朝ごはんなんか食べるなと妹に怒られた。


「食べ放題なんだから、限界までお腹を空かせていかないと!」


 ケーキバイキングってのは、随分と気合を入れないといけないらしい。そこまでしてケーキをたくさん食べたいとは思えないのだが……。


 あと、ネット情報だと朝食は軽めに食べろと書いてあったのだが。まぁ、ネットを安易に信用することのもアレか。妹が安易に信用できるかは知らないが。


 今日は両親ともに朝早くから夜遅くまでいないはずで、妹も気兼ねなく羽を伸ばせる予定だ。


「美月、今日食べ放題終わったら帰って勉強するの?」


「え? なにそのテンション下がる質問。するのっていうか、しろって意味?」


「いや、特にそういうつもりがないなら、買い物に付き合ってもらえないかなって」


「買い物?」


「文芸部でクリスマス会するって言っただろ。それ用のプレゼント、女子向けに何を買ったらいいのかよくわからない」


「……私の趣味で選んでも、文芸部の人には合わないんじゃないかなぁ」


「勝手に文芸部員を変な趣味の持ち主だと決めつけてるだろ」


「だって、変人でしょ?」


「小物とかの趣味は普通の女子と大差ないと思う。ネコを可愛いとか言ってるし」


 妹は少し黙って、それからニヤリと笑った。


「兄さんさ、文芸部でって言っているわりに、1人の女の子を念頭に置いてるよね?」


 妹は正直に話せと詰め寄るが、僕だってこんなことを妹に頼むにあたり、ちゃんと作り話を考えてある。


「4人で誰が誰にプレゼントを贈るか、先にくじで決めたんだよ。プレゼント交換とかすると、いらないものが当たることが往々にしてあるから、先に贈る相手を決めてしまおうって」


「なにそれ。ドキドキ感がないじゃん」


「ドキドキ感なんてものより実用性の方がいいってこと。極端な例として、僕がスカートとか貰ったら目も当てられないだろ」


「男子もいるプレゼント交換にスカート出すとか、その人狂ってる」


「いや、だから極端な例だって。ありそうな例だと、ゲームソフトを貰ったけどそのハードを持ってないとか」


「高校生なのにゲームなんて高いものをプレゼントするなんて、その人狂ってる」


「いや、ゲームくらいならやる人普通にいる気がするけど」


「まぁ、兄さんたちは遊び心よりも平和を取ったってことね」


 なんかよくわからないまとめだったが、もう別になんでもいい。


「まぁ、なんだ、そういうわけで、女子向けのプレゼントを用意しないといけないわけ」


「指輪とかいいんじゃない?」


「ふざけるな」


「そもそも、イブにその子よりも私を優先した時点でもうアウトだから、テキトーなものでいいんじゃない?」


「だから、単にクリスマスのプレゼント交換なんだって」


「私は疲れ目に効くホットアイマスクとか欲しいなぁ。ゲームよりは安いよ。充電タイプでも2000円くらい。欲しいなぁ」


 物欲しげにこちらを見る妹。僕はサンタさんじゃないっての……。


「そういうのもありか。アドバイスありがとう」


「えぇー」


「母さんからお前を甘やかすなって言われたし。さすがに2000円貢ぐのは甘やかしだ」


「兄さんはお金が絡むとケチになる。守銭奴」


「そんな守銭奴が大事な1000円をはたいてケーキバイキングに付き合うんだから、それで満足してくれ」


「1000円は兄さんが食べる分のお金でしょ。……でも、ありがとう」


 ありがとうとつけないと、僕が行かないと言いかねないのを察したのだろう。さすが、空気を読むのは得意か。


「ちなみに、ホットアイマスクが欲しいのは私だから、その人が欲しがってるかは知らないよ。結局、その人に欲しいものがないか直接訊くのが1番だと思うな」


「ネコって言われた。でも、家はペット禁止らしい」


「じゃあ、ペットOKの家を贈るのが1番だね。頑張って」


「無理だろ」


「冗談はさておき、そんな返答する人、『えぇー、私が何を欲しがってるか、ちゃんと考えて欲しいな』って言う女くらい面倒くさいよ」


「面倒くさい人だってのは同意するけど、例えがひどい」


「もう察したけど、プレゼント贈る相手って、文化祭の時に兄さんの話ばっかりしてた、あの小さい人だよね? あの人なら、兄さんの切った爪でも贈っておけば小躍りして喜ぶんじゃない?」


「お前、先輩にどんなイメージ持ってるんだよ……」


 妹のイメージの中の先輩が予想以上にヤバい人だった。妹は別にふざけて言っている風でもない。


「兄さんの偏愛者っていうか、メンヘラさん? ストーカーっぽくもあったかも。まぁ、そこは実際にはわかんないけど、兄さんのこと好きなのは間違いない」


「いやいやいや、先輩、そんな人じゃないから」


 文化祭の時、一体どんな話をしたというんだ……。


「もしくは、兄さんのことが大好きな女を妹の私に演じてみせる狂人」


「……そっちはあり得る」


「どっちにしろ変人なんだけどね」


「先輩が変人であることは否定のしようもない」


「兄さん、あの人と付き合うなら、相当の覚悟がいると思うよ」


 妹の顔は案外真剣そうなものだった。


「いや、そういうのじゃないから。本当に、ただのプレゼント交換だから」


「なら、食べ物とか、無難なものでいいんじゃない? まぁ、買い物、付き合ってあげてもいいよ」


「じゃ、よろしく」


「それじゃ、11時には家を出るから、それまでちゃんとお腹を空かせておいてね」


「OK. わかった」


 朝ごはんを抜いてケーキか。胃がもたれそうだ……。


 妹との会話は一旦それで終わった。

 部屋に戻ってスマホを見ると通知が1つ。


『真っ白最高: で、今日は何時に家を出るの?』


 ……妹の言ったこと、実は本当にそうだったりしないよな?


『蒼井陸斗: 昼過ぎに』


 僕はしれっと嘘を返した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ