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19話 こだわりなんて別にない


『A.Saeki: 蒼井くん、本当に会長のこと嫌いすぎ』


 自室でダラダラとスマホで音楽を流しながら勉強をしていると、そんなメッセージの通知が来た。


 一瞬、なんだ唐突にと思い、昼に佐伯さんに送ったメッセージを思い出した。


『蒼井陸斗: 僕と同レベルで会長が嫌いで、でもくじ引きはしたい人がいるんです』


『A.Saeki: 蒼井くん自身がってわけじゃないんだ。会長、放課後はいつでも生徒会室にいるから、蒼井くんにだったら、私がアンケートと抽選ナンバーを教室で渡しても良かったんだけど』


 いつでもいるって、ほかに行くところないのか? いや、ずっと仕事していないといけないほど、生徒会長ってのは多忙なのか?


『蒼井陸斗: お手数ですが、そんな感じでパソコン室まで来てもらうことって可能ですか?』


 会長がずっといるとなれば、先輩が生徒会室に行くわけがない。そのくせ、くじ引きを諦めるのもたぶん嫌がる。いや、絶対嫌がる。ウキウキだったし。


 佐伯さんに借りを作るとかものすごく嫌なのだが、クリスマスの件を反故にした先輩への借りを返すためには仕方ないか。借りを返すために借りを作るとか、自転車操業かよ……。


『A.Saeki: なぜ突然そんなにかしこまるし! それくらい全然大丈夫だよ! 蒼井くんには色々お世話になったし。

 そのくじ引きたい人って、文芸部の人?』


『全然』は呼応の関係で『ない』がつくとすぐに思ったけど、ここでそんなくだらないことを指摘するのはもちろんやめた。


『蒼井陸斗: ありがとうございます。

 はい。文芸部の先輩です』


 本来ならとっくに引退しているはずではあるけど、まぁ文芸部の人ってことでいいだろう。


『A.Saeki: もっと考えてから質問しに来いって怒ってた人?』


 佐伯さんの中での先輩のイメージはそれなのか。苦手意識とかあるのかもしれない。普段の先輩を見ていれば、少なくとも怒ってた人というイメージからはかけ離れているとわかるのだけど。


『蒼井陸斗: その人です。一応ですが、先輩に怒りっぽいイメージとかありませんから』


『A.Saeki: 私の中では、かわいい見た目でエグいこと言ってきたイメージ。

 でも、自分のテリトリーだと思っていたところに見知らぬ女子がいきなりやってきて、お気に入りの後輩の時間を奪ってったから怒ったって感じなのかなって思ってる。

 たぶん、警戒心が強くて、不器用だけどいい人っていうか、かわいい人?ネコっぽいタイプ。蒼井くんが慕ってるんだし、怖い人じゃないんだと思う』


 んー、あの苦言にそんな意味があったかは知らないが、警戒心が強くて不器用ってのはわからなくもない。


『蒼井陸斗: そんな感じの認識でとりあえずはいいと思います』


 怖い人ではないと言っているのだから、それでいいだろう。


『A.Saeki: で、あの人と蒼井くんの関係は?』


 ……女子ってのはなんでそういう話に持っていきたがるんだ。


『蒼井陸斗: 先輩と後輩ですよ。3年学年トップの先輩と、1年学年2位の後輩です』


『A.Saeki: 恋バナよりも、蒼井くんが1位じゃないことに驚きだよね』


『蒼井陸斗: 1年のトップも文芸部なので、先輩の後輩ではありますね』


『A.Saeki: あの人と一緒にいたら頭良くなるの? 実は教えるのめっちゃうまいとか?』


『蒼井陸斗: 知識量は多いですし、一緒にいて頭良くなるって方は否定しませんが、教えるのはうまくないです。わからない人がわかるように話すって考えがないので。勉強の苦手な人に教えるのはできないタイプです』


『A.Saeki: たしかに、言われてみたらめっちゃそんな感じしてた。

 最近、生徒会をよく手伝ってくれる大白さんも文芸部だよね? あの人も2年生の成績1位だって聞いたような』


 大白先輩とは話すの仲なのか。大白先輩、思った以上に生徒会に食い込んでるのかもしれない。先輩が聞いたらまた荒れそうだ。


『蒼井陸斗: 大白先輩も文芸部ですよ。元々は文系科目は苦手だったみたいですが、最近はかなりできるようになったらしいですね。これも先輩の影響ではあると思います』


『A.Saeki: 部員全員学年1位2位とか、文芸部こわ……。

 関係ないけど、あのネコっぽい先輩は「先輩」で、大白さんは「大白先輩」なの? 蒼井くんのことだから、なんかそこにこだわりとか意味がありそう』


 こだわりなんて別にない。ただ、僕は人の呼称に好んで役割を使うというだけ。それが、僕とその人との関係を明確化するから。


 母親、妹、担任、顧問、それと同様の先輩だ。僕にとって、先輩といえば真白菜子その人を指すというだけ。


 大白先輩も当然に先輩だけれども、僕にとって、先輩という言葉と誰か個人を対応させるのなら、それは真白菜子。ただ、それだけのこと。


 こだわりなんて、別にない。


『蒼井陸斗: 特にこだわりなんてないですよ。僕にとって、先輩といえば、なんとなくあの人ってだけです』


『A.Saeki: そう言いつつ、その言い方にかなりのこだわりを感じるんだけど、それはいいや。

 アンケートとナンバーはいつ持っていけばいい? 明日だと、たしか火曜日って蒼井くん部活なかったよね?』


 なんで文芸部の活動日なんて把握しているんだと一瞬思ったが、火曜日は僕が唯一勉強会に参加していた曜日なのだから、知っていて不思議はないか。


『蒼井陸斗: 水曜日の放課後とか大丈夫ですか? 時間は下校時刻までのいつでも大丈夫だと思います』


『A.Saeki: OK. 参加者は1人? 蒼井くんもやらない?』


『蒼井陸斗: 僕は別にどちらでもいいです。たぶん、あと1人の文芸部員もそう言うと思います』


『A.Saeki: じゃあ3人だね。大白さんは既に回答済みだから、それで文芸部はコンプだ。全員の名前だけ教えて』


『蒼井陸斗: 真白菜子、紅林葵、蒼井陸斗です。よろしくお願いします』


『A.Saeki: こちらこそ。アンケート、ちゃんと答えてね』


 全部「特になし」でいいとか話していたけど、わざわざご足労いただくのだから、それはあんまりなのかもしれない。まぁ、本当に特にないなら「特になし」と書かざるを得ないけど。


『蒼井陸斗: ちゃんとというか、気楽にテキトーに答えますよ。アンケートってそんなものだと思います』


『A.Saeki: たしかにめっちゃ考えて答えるものじゃないけど、脳死で全部1とかやめてってこと』


 数字選択式なのか。まぁ、全部同じ数字とかそういうのはやめておこう。


『蒼井陸斗: わかりました。先輩にも言っておきます』


『A.Saeki: わざわざ言わなくても、さすがにそんなことしないとは思ってるけどね』


 全部3でいいって今日の昼に話したばかりなんだが……。先輩は本当にやりかねないし、ちゃんと言わないとダメだろう。


『蒼井陸斗: それはやれってフリですか?』


『A.Saeki: なわけないでしょ。とにかく、明後日の放課後にパソコン室ね。忘れそうだから、明後日の放課後にまた一声かけて』


『蒼井陸斗: わかりました。よろしくお願いします』


『A.Saeki: だから、友達相手にかしこまりすぎ。親しき仲には礼儀はいらないの』


『蒼井陸斗: その考えはかなり危ういのでやめた方がいいですよ』


『A.Saeki: じゃ、おやすみー』


 聞く耳を持ってはくれないか……。


『蒼井陸斗: おやすみなさい』


 生徒会イベントの話はとりあえずこれでよし。


 23日に三者面談、24日は妹と出かけ、25日はくじ引きの結果発表だしなんかありそう。で、26日は先輩と出かけると。


 なんか、クリスマス周りに予定が詰まっててリア充っぽいけれど、あんまり嬉しくない。疲れそうって先に思ってしまう。


 まぁ、でも、三者面談以外は一概に嫌だというようなイベントでもないし、気楽に楽しみにしていた方が吉か。


 僕はそんなことを考えつつ、やりかけになっていた問題集にまた向き合った。


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