18話 それこそが先輩
「生徒会がなんか謎のイベントっていうか、どっかの企業のキャンペーンみたいなことするってのは知ってる?」
アンケートに答えて景品ゲットってのは、そんなイメージになるのはわかる。
「知ってます。生徒会通信は一応読みました」
「私も一応知ってはいます。くじ引きみたいなものでしたよね?」
「うん。みたいなっていうか、完全にくじ引きなんだけど、その景品に大くんの私物が出品されるんだって」
景品の中に生徒会役員の私物ってのはあったが、大白先輩は役員ではない。なのに、なぜ?
「なぜ、大白先輩が?」
「なんか、期末試験の勉強会を手伝って以来、大くん、ちょっと生徒会と仲良しみたいなんだよね。信じらんないよ! まったく。
それで、今度のくじ引きでも少し手伝うことにしたんだって。今日いないのも、生徒会の方に行ってるから。大くんは八方美人過ぎるよ!
蒼くんが身内にだけ甘々な人なら、大くんは誰にでも甘いんだよ!」
大白先輩はみんなに優しいというか、ただひたすらに良い人みたいなところがあるからなぁ……。手伝ってくれと言われれば、少し文句は言いつつも手伝う人だと思う。
……僕は別に身内に甘々な人ではない。
「大白先輩の私物って具体的には何を?」
例えば、くじの景品として古着とかをもらったとして、嬉しいだろうか? 普段、古着を買わない僕からすると、なんかちょっと嫌というか、着る気にならないのだけど、それは僕が潔癖なのか?
「ゲームソフトだって。昔のハードの、ブックオフとかでワンコインで買える系の」
ゲームなら中古品でも抵抗はないな。僕にとって、服とゲームでは何かが違うらしい。
「あのくじ引き、元手がいらないので引けばプラス収支確定なんですよね」
「引く?」
「いえ、なんか、あの会長から物を恵んでもらうみたいで抵抗あります」
「もっのすごくわかるっ!」
先輩は僕の言葉に大きな共感を示してくれたが、紅林さんの方はそうでもないようで、「おふたりは本当に生徒会長のことが苦手なんですね」と苦笑した。
「アレが関わってないなら、引きに行くのにさっ」
先輩は不機嫌そうにそう言った。こういうギャンブル的なの、ちょっと好きそうだもんな。
「まぁ、この企画の発案者は会長じゃないですけど」
「そうなのっ!?」
何気なく呟いただけだったのだが、先輩は異常な食いつきを見せた。
「あっ、前に言ってた、クリスマスイベント抹殺プロジェクト?」
「抹殺ではないですけど……。まぁ、発案者は前に話した書記の人、いえ、もしかしたらその友達かもしれませんが、会長ではないですね」
「じゃあじゃあ、この企画が成功したら、アレの面目は潰れるかな?」
察した。先輩はただ単にくじを引きに行きたいのだ。しかし、会長が嫌いなので、理由なしに生徒会の企画に参加はしたくはないと。だから、何かしらの反会長の理由を作りたいのだろう。
「会長の面目が潰れるというよりかは、書記の人の評価が上がるんじゃないですかね、たぶん」
「その人、下克上しないの?」
「たぶんしませんが、会長の企画にケチをつけるくらいのことはするかもしれません。今回がそうだったわけですし」
「ふーん。なら、今回はその人を支援するために、わたしもくじ引きに参加しよーかなー」
ウキウキだし……。これで景品がうまい棒とかだったらちょっと荒れそうなので、ぜひあたりを引いて欲しい。
「くじって生徒会室で引くんだよね? アレのいない時間とか、蒼くんわかんない?」
「わからないですけど、ちょっと訊いてみます」
先輩のご要望なので、佐伯さんに尋ねてみよう。
『蒼井: 生徒会室に会長がいない時間とかわかりますか?』
既読がすぐにつくことはなかった。
「今日中の返信は期待できないかもしれません」
「そっか。なら、明日以降だね」
もう、くじを引きに行くのは確定らしい。
先輩、案外ゲームセンターとか連れて行けば無邪気に楽しんでくれるのかもしれない。
「くじって何本あるのかな? 大くんのゲームがあたる確率はどれくらい?」
そんなの知るわけがないのだが、テキトーに答える。
「1人が複数のくじを引かないのであれば、最大で、全生徒数プラス一応教師数で、900弱ですか? でも、景品の量を考えると、たぶんそんなには用意してないでしょうね。
景品は主にうまい棒1本とか、チロルチョコ1個とからしいので、平均20円くらいで概算するとして、予算が1万円あったとすれば、500個の景品が用意できますか。
なんか、それくらいでみればいいんじゃないですか? ハズレくじがあるなら当然変わりますし、実際のところは何もわかりませんけど」
「その仮定の下で、0.2%ってこと? それくらいなら、あたるかもだね!!」
0.2%をあたるかもしれないと言える精神性は素直にすごいと思う。でも、リスクのあるギャンブルは絶対にさせてはいけないタイプかもしれない。
「ちなみに、1人で何枚も引くのってありなの?」
「まぁ、普通に考えてなしでしょうね」
「名簿とかで管理するなら、アンケートって記名なのかもね」
「まぁ、アンケートはおまけみたいなものですし、テキトーに答えればいいだけですよ」
生徒会がそのアンケート結果を何に使う気なのかは知らないけど、真剣に回答する人は少数派だと思う。
ほとんどの人の興味の行き先は、くじと景品。ギャンブルなのだから。
「全項目『特になし』みたいな?」
「記述系ならそれでいい気がします」
「そだね。選択式なら全部3とかで」
「そうですね」
「おふたりとも、生徒会に協力する気は本当にないんですね……」
紅林さんにまたしても苦笑された……。
トップに対する私怨、いや、別に怨みはないけど、それで組織を嫌うのは不当だろうと思わなくもないのだが、まぁ、嫌いなものは嫌いだし。
「ないっ! わたしはアレが好きじゃないのだ! 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い! ましてや、アレがトップにいる組織が好きなわけがない」
そんな大々的に宣言するようなことではない。
「そうですね……」
これには紅林さんもより引きつった笑いを浮かべるほかなかった。
「わたしはね、大くんがアレとちょっと仲良くなったことがどうも気に入らないんだよ! そりゃ、大くんがどんな人と仲良くなるかなんてわたしが口を出すことじゃないよ。じゃないけどさっ!」
それから、話題は完全に生徒会長ディスへと移り、僕の妹がどうとかそんなことは蒸し返されなかった。
無理に話題が変わった気もするし、先輩に気を使われたのかもしれない。先輩がそんなことをするかと言われるとかなり疑問だし、考えすぎかもだけど。
そんなことを思いつつ、先輩の話を聞き。
「そもそも、大くんはアレの異常性がわかってないんだよ。大くん、アレのことを、頑張りものの普通にいいやつとか言ってるんだよ? ブラック企業の社長みたいなアレを捕まえていいやつって、ねぇ?」
会長の悪口を言う先輩を見て思った。この人、ただ話したいことを話してるだけだ。気遣いとか似合わなすぎる。
……まぁ、それこそが先輩。真白菜子という人間だろう。