16話 クリスマスイベント縮小計画
週も開けて月曜日。クリスマスまで1週間を切った。
朝のHRで、生徒会通信が配られた。どうも、生徒会のクリスマスイベントは今日から始まるらしい。
イベントといっても、なんか、アンケートに答えて豪華景品をゲットしようみたいなもののようで、特別に何か催し物があるというわけではないらしい。
結局、今日に至るまで『クリスマスイベント縮小計画』は一読もしていなかった。まぁ、他にも色々あったし。いや、あるし。
これに関しては大体終わっているみたいなので、今更ながら、昼食を食べつつ読んでみることにした。
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クリスマスイベントの問題点
1. 参加希望者が少ない ← 大問題! ショボい感じになっちゃいそう!
2. 場所が学校(体育館?) ← できることに制限が多い(はっちゃけ過ぎると怒られる) 先生が見てるパーティとか白けるよね
3. 予算が微妙 ← 楽器とか用意するのは無理(軽音部には断られたし) お菓子程度なら余裕あり
2, 3はどうしようもない。今更予算は増えないし、生徒会主催だと学校の監視は避けられない。
1について
(why) 主に2, 3のせい。わざわざ生徒会主催のイベントに参加する理由がない。友達と一緒に遊びに行った方が楽しいんだから仕方ない。
どうしたら人が来るか、実際に訊いてみた
・5分で帰れて、なんか物がもらえるなら行く
・放課後、ちょっと寄る(10分以内)くらいなら行ってもいい
・みんなが行くなら、行くかも
→ 拘束時間が長いと行きたくない!
つまり、大々的なイベントは需要なし!
提案. アンケートに答えるだけで豪華景品の当たるチャンス! (←スパムっぽいから言い方に注意)
生徒会室でアンケート(内容は役員で考えよう)を実施して、答えてくれた人にくじ(数字書かれてるやつ 宝くじ的な? できればラミネート処理とかしたい)を渡す(くじを渡す期間はちょっと長めに)。
クリスマス(25日)に当選発表して、景品と交換。景品はチロルとかうまい棒とか主体にして、あたりはちょっと欲しいかもって思うもの(役員で相談。予算の兼ね合いあり)。
人間はギャンブルが好き。リスクのないくじなら、やりたがる人は結構いそう。← 友達がやってるとやりたくなる(サクラも用意する?)。
うまくいけば、25日の放課後の数分は生徒会室に人が殺到(お昼のパン販売くらいのイメージ?)。生徒会の存在感はそれで示せる? ← 会長、納得するかな?
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企画書というより、自分用のメモという感じで、書き方も結構雑だし、本来なら人に見せるようなものではないと思う。
しかし、まぁ、佐伯さんはなんか色々考えようとしたんだなというのは伝わる。結論はありがちなアンケートだけど。
生徒会通信に書かれて配られている以上、佐伯さんたちは会長の説得に成功したらしい。
生徒会通信によると、目玉になっている景品は、モバイルバッテリー、イアフォン、1224円分のお菓子詰め合わせ、今年1年の定期試験の過去問(全学年)、生徒会役員の私物。
まぁ、モバイルバッテリーは普通に欲しい。それが当たる可能性があると思うと、5分使ってアンケートに答えるくらいはしていい気にはなる。
……ネタに走ったんだろうけど、最後に書いてある生徒会役員の私物ってなんだよ……。
これなら、それなりの数の生徒が参加する気はする。僕ですら、生徒会主催でなければ参加したかもしれない。あの会長から間接的にでも物をもらうとか嫌だから、参加はしないけれど。
大失敗はしなさそうな気がする。
ありそうなのは1人の生徒が大量のくじをもらおうとすることだが、僕がパッと思いつくのだから、生徒会も何かしらの対策を講じているだろう。
しかし、まぁ、ある意味でばら撒き政策みたいなものだし、完全に褒められるイベントかと言われるとそんなこともないけど。
公立高校だし、このイベント費用にも我々の血税が使われていると思えば、世間の方々は怒りに震えるかもしれないし。
まぁ、しかし、それを見た生徒の反応は「景品、モバイルバッテリーだってよ。ちょっと欲しくね?」「2000円くらい? 放課後行ってみっか」という、肯定的なものだった。金の無駄使いをするなと憤っている者がいた記憶はない。
結果、僕なんかが口を出すまでもなく、十分にうまくいっているように見える。
よかった。これなら、「蒼井くんが協力してくれなかったから失敗した」とか言われずにすみそうだ。
生徒会のイベントの方は、完全に僕には関係がなくなったと言えるだろう。
さて、今更こんな物を読んで現実逃避をしていたけれど、読み終わったし、昼食も食べ終えた。
これから、僕は部活に向かうことになる。
それが今日は少し億劫だった。
先輩と少々問題があったわけだが、先輩に会うのはさほど嫌でもない。なんか、テキトーにやり過ごせる気がする。
問題は……。
『真っ白最高: 紅ちゃんに愚痴ったら、紅ちゃんの方が蒼くんに怒り出しちゃった。なんか、ごめんね?』
昨日の夜に送られてきたこのメッセージ。
紅林さん、先輩のこと好き過ぎではないか……。
私の大切な先輩との約束を破るなんて許せない的な感じだろうか。それ、後輩の立場じゃないだろ……。
紅林さんからは『紅林: 明日ちょっと訊きたいことがあります』とだけメッセージが送られてきた。
紅林さんって、変なところで行動力があるから、こういう時はちょっと怖い。
しかし、気が進まないからといって、いつまでも中身のなくなったパンの袋を手に持って生徒会通信を眺めているわけにもいかない。
僕は少しだけ重たい腰を上げて、パソコン室へと向かった。