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2話 ただ太陽が沈むという、毎日あるはずの光景

 クタクタだった。

 その後、長谷寺、高徳院と回り、その時点で体力は完全に限界にきていた。僕だけでなく、4人全員。この後、時間があれば別のところにと考えていたのが嘘のようである。

 時間も18時を過ぎて、日も暮れてきた。


「帰りましょうか」


「うん。ちょー疲れたー。えっと、また江ノ電?」


「はい。江ノ電で鎌倉まで行って、そこからJRですね。歩くのはちょっと嫌なので」


 今から鎌倉まで歩きましょうなんて言われたら、断固反対する。


「ねぇ、江ノ電で海を一望できる区間があるって言ってたよね? 今の時間なら、それってものすごく綺麗なんじゃない?」


 夕暮れ。夕日の沈む直前。マジックアワー。確かに、その瞬間の海を一望というのは心惹かれる。


「ありっすね」


「なら、少し高くはなりますけど藤沢に行きましょう。藤沢からでもJRで大船には行けますし」


「そうしよー」


 その場の提案に即座に対応する紅林さんを素直にすごいと思った。僕がプランニングする羽目にならなくて本当によかった。



「南ってこっち側だよね?」


「はい。こっち側です」


 そんなやりとりもして、海側のドアの前に陣取った。抜かりはない。


 江ノ電に乗り込んで数駅、その光景が目の前に広がった。


「……」


 部長ですら言葉を失う光景。水平線から夕日がオレンジ色の光を放つ、言葉にしてしまえばそれだけの、しかし、そんな言葉では言い表せない光景。


「……やばい。これ、すごい! しゃ、写真! 写真撮らないと!」


 部長は持参したカメラとスマホそれぞれで写真を撮る中、僕たちも、僕たち以外に乗車していた多くの人たちも、写真を撮る。


 感動した。ただ太陽が沈むという、毎日あるはずの光景に。


「降りよっ!」


 部長に促されるままに僕たちは江ノ電を降りた。

 どこだかは知らないが、その駅からは海を一望できた。


 僕たちは夕日が沈み切るのをただ見ていた。会話はない。ただ、見つめていた。


 何分経っただろうか。長かったような気もするし、ほんの一瞬だった気もする。夕日は沈んでいた。


「……綺麗だったね。すごく」


「はい。それはもう」


「本当、すごかったっす」


「ええ、感動しました」


 文芸部なのに、それを表現する語彙なんて持ってなかった。


「いやー、このメンバーで見れてほんっとうによかったぁ。この旅行の提案したわたし、本当偉い。あと、紅ちゃんに感謝!」


「そうですね。部長、偉いです。紅林さんもありがとうございます」


「蒼くんが素直に褒めてくれた」


 部長は驚いたようにこちらを見た。僕だって素直になる時もある。


「この旅行は、来てよかったと率直に思いますから」


「そうだね!」


 それは満面の笑みだった。


「帰ろっか!」


「はい。帰ってご飯を食べて明日に備え……夕飯」


 紅林さんはハッとしたように時計を見た。


「……もう19時! すみません、宿に電話します!」


 電話越しに紅林さんは謝っていた。夕飯の時間を過ぎてしまったのだ。紅林さんだけに謝らせているのがとても申し訳ない。


「えっと、急いで帰りましょう」


 電話を終えた紅林さんはそう言った。


「すみません。色々任せっぱなしで」


 そう謝ると、


「いえ、私は大丈夫です」


 紅林さんは困ったように笑ってみせた。



「さて、みんな疲れた? 今日は早く寝る?」


 夕飯を食べ終え (宿の人に全員で平謝りすると、よくあることだと笑って許してくれた)、僕たちは4人、男子部屋の方に集まっていた。


「部長、目がもっと遊ぼうって言ってるっすよ」


 こういう旅行では、夜にみんなで遊ぶというのも醍醐味の1つだろう。


「いやー、みんながもう寝るって言うならそれでもいいんだけどさー」


 棒読みである。遊びたいというのがひしひしと伝わってくる。


「何します?」


「いいの? いいの?」


「今日はちょっと夜ふかししましょうか」


 紅林さんも乗り気のようだ。疲労感はあるが、まだ寝る時間でもない。


「トランプじゃちょっとと思って、色々持って来たんだー。ちょっと待ってて」


 部長はやっぱり遊ぶ気満々だった。


 部長が持ってきたボードゲーム類でその夜は多分に盛り上がった。


 実際、夕焼けはとても綺麗でした。自分にそれを言い表す語彙力がないことが悩ましい限りです。

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