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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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48話 負けたままで卒業するのやだ!


「全部数IIIとライティングのせいだー!! あんな計算量、試験時間内に終わるわけないもんっ! 工夫のしようもなかったし、あんなの誰も完答できないもん!! ライティングはライティングで、授業中に言った答えじゃないからバツとか意味わかんないしっ!! 間違ってないしっ!! あのおばさん嫌いー!!」


 子どものように言い訳をまくし立てる先輩。まぁ、先輩が言うのだから、本当にそういう悪問が出たのだろう。結局、学年が違う以上 同じ問題で勝負というわけにはいかないのだ。仕方がない。


「わたしの実力で負けたんじゃないもん。問題のせいだもん。ふんっ」


「先輩、あれだけ負けたいとか負かしてとか言ってたじゃないですか……」


「ほんとに負けたら全然楽しくなかったのっ!! 悔しいのっ!!」


 いつもの子どもっぽさはどこか演出している風なのだが、今のは素のように感じる。


「わたし、全科目学年トップなんだよ! 3年生の中では圧倒的1位なのっ! なのに、なのにーっ!!」


 今にも噛み付いてくるのではないかと思うほどの勢いでまくし立てる先輩。全科目トップというのは、さすがだ。


「僕と紅林さんの2人でも1年生の全科目トップは取れてませんし、先輩、すごいですよ」


「勝者が敗者にすごいとか言うなーっ。全部 教師のくせに頭悪いあのおばさんのせいだし。わたしの答え間違ってないもんっ! 1点でも増えれば蒼くんには勝てるのにー!!」


 先輩は机をバンバンと叩き、教師への不満を爆発させる。……これを宥めるのは無理だな。


「だいたい、英作文で模範解答以外のものは認めないなんて、もう採点で楽するための教師の怠慢でしかないよ。あのおばさんのサボりだよ。全部おばさんのサボタージュのせいだ! わたしは悪くないっ!!

 あのおばさんはまず問題の作り方がよくないんだよ。科目はライティングなんだから、英語を自分で書いて表現する力を測らないといけないわけだよ。それなのにさ——」


 それから僕たち3人は、先輩が英語教師への怒りを早口でぶちまけるのを、ただただ黙ってひたすらに聞いた。勝ったのに、それはもはやちょっとした罰ゲームだった。


「——つまりね、あの人は辞書の代わりにはなれてても、教師にはなれてないわけだよ。わかる?」


「はい、もう十分にわかりましたから……」


 先輩、あれだけ負けたいとか言っていたくせに、実際は負けを認められない筋金入りの負けず嫌いだってことはよくわかった。


「それにしても、……あと1点だったのに」


 まだ不満というか悔恨というか、その手の感情が燻っている感じはするが、とりあえず先輩の愚痴は止まった。


「あと1点取れてたして、僕には勝てますけど、紅林さんには勝てませんから……」


「紅ちゃん平均98.6点とかおかしいよっ! 高すぎる!!」


 中間の時、先輩の平均点って98.7点じゃなかったっけ?


「頑張りました」


 軽く微笑んでそう言う紅林さん。その微笑みが、勝者が勝ち誇る表情に見えてしまうのは、僕が敗者だからだろうか……。


「なんだよぉ。前日にパーティーなんかして、わたしを油断させる策戦だったんだな? わたしを嵌めたなー!!」


「いえ、そんなことは……」


「やだぁ! 負けたままで卒業するのやだ!」


 なんか駄々をこねだした……。卒業までに負けたいって言った人だよな、この人……。


「今度は同じ問題で勝負しよ、ね? ね? ね? 検定とかさ、そういうの一緒に受けよ? ね? ね?」


「検定って、英検とか漢検とかっすか?」


「英検、漢検、数検、歴検、他にも危険物取扱乙種とか、みんなの希望があるなら、わたしはひよこ鑑定士とかでもいいよ! でも、勉強する系ね。水泳指導管理士とかは却下」


 検定というより資格試験か。先輩の中で、4人で何かを受けることがすでに確定したっぽい。


「ひよこ鑑定士って、ひよこの何を鑑定するんすか……」


「え、性別でしょ?」


「あぁ、そうなんすね。その資格、需要あるんすか?」


「ひよこ鑑定士の若者が減ってるらしいから、あるって話だよ。1つの専門職だから」


「ひよこの性別を見分ける職人がいるわけっすか」


 なんかひよこ鑑定士の話題になっているが、ひよこ鑑定士を受ける気なんてない。3人が熱烈にひよこ鑑定士案を支持したとしても……うん、ないな。


「ひよこ鑑定士を受けるのはちょっと……」


「私もそれはちょっと……」


「いや、俺だってひよこ鑑定士受ける気はない。大丈夫だ。ないから」


 僕たちがひよこ鑑定士の道へと進むストーリーは、まぁ、当たり前だがなかった。


「じゃあ、4人で1つずつ希望の試験をあげて、それをみんなで受ける!」


「受験料かさみそうですね……」


 口をついてその言葉が出ていた。検定って受験料5000円とかかかるイメージあるし。4つ受けたら2万円とかになる。資格が欲しいわけじゃないし、先輩との勝負の料金としては些か高い。


「わたしと勝負するのに蒼くんはお金が惜しいって言うの? わたしとお金のどっちが大事なの!!」


「いや、金は惜しいですよ。でも、僕は人間とモノを比べるようなことはしません。どっちも大事です」


「人間とお金の間には比較演算が定義されてないって、蒼くんはそう言うんだね」


 ……僕、そんなこと言ったのか? いや、まぁ、別にそれでいいか。


「まぁ、じゃあ、そういうことで」


「お金かぁ……。うん、それはちょっと仕方ない問題だもんね。じゃあ、ちょっとこの話は保留。

 それより、今回はわたしと大くんが負けたから」


「あ、またジュースっすか?」


「そうじゃなくて、ん? いや、そうだね。大くん、4人分ジュース!」


 大白先輩にとって試験後にこれが恒例になってしまっている……。


「はいはい。4人分買っても600円っすから、それくらいなら。いってきます」


 この展開は想定していたようで、大白先輩は特に文句を言うこともなく財布を手にパソコン室を出て行った。


「これで、本来のペナルティはわたし1人だね。わたしが自分で好きに旅行計画を立てて、みんなを連れて行ける。ふっ、ふふふふっ」


 笑い方が怖い。まさに、何か不穏なことを企んでいますと主張する笑み。いや、これは先輩の演出なんだろうけど、先輩の立てる計画…………紅林さん、なんで負けてくれなかったんですか?


「よしっ。まずは3月末の予定を提出してもらおうじゃないか」


 最後だからって無茶なこと言い出しそうなんだよな、この人……。愛媛に行こうとかは言わないだろうけど、蒼くんの家に泊まることにしますとか言い出しかねない。


「大くんが戻ってきたら、今日中に日付だけ決めるね。2泊3日……1泊2日? そんな感じだから。わたしが計画するから、もう決定だから。予算はちゃんと抑えるから大丈夫」


 決まってないだろ、それ。何泊するかの時点でブレてるし。……なんか、ものすごく不安だ。


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