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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
158/332

44話 驚愕の結果

 タイトル詐欺です。


蒼井 陸斗  1年2組 1番

科目   得点  クラス順位  学年順位

英語I  99点   1位     1位

国語総合 96点   1位     2位

数学I  100点   1位     1位

数学A  100点   1位     1位

物理基礎 97点   2位     2位

生物基礎 100点   1位     1位

世界史B 100点   1位     1位

保健   95点   1位     2位

家庭科  97点   1位     2位

情報   100点   1位     1位

道徳   96点   2位     3位


 試験結果と消しゴムを受け取って、僕は自席へと戻った。

 点数は大体思っていたのと変わらない。少し保健が低いが、まぁこんなものだろう。全科目平均は約98.2点。全体でした失点は20点。これだと、先輩との勝敗はちょっと予想できない。


 そして、結構驚きなのが物理のクラス2位だ。僕が間違えた問題はあの捨て問の1題のみ。つまり、1位の人はあの問題が解けたということ。完全にテキトーに書いても1/24で当たる問題ではあるが、それでも誰だか気になる。

 その人が学年トップでもあるはずなので、担任が誰に消しゴムを渡すのかの観察を始めた。可能性が高いのは紺野さん、百瀬くんあたりか。それとも、僕が知らないだけでこのクラスに別の秀才がいるのか。


「よく頑張りました」


 担任が消しゴムを渡した相手は紺野さんだった。紺野さんは少し恐縮した様子で消しゴムを受け取った。そして、驚いたことに、紺野さんが受け取った消しゴムは1つではなく3つだった。


 彫られている科目名までは見えない。3つということは少なくとも1科目は僕と同率。物理は間違いない。道徳もたぶんそうなんだろう。同率の科目はなんだかわからない。


 物理はまぁ、紺野さんなら納得もできる。あの問題はわからなかったと言っていたが、紺野さんなら1/8か、もしかしたら1/4まで絞れたのかもしれない。ならば、それを当てたのは運だなんて言えない。負けを運のせいになんてできない。


 だが、道徳で負けたなら、それはちょっと、どうなんだ? 僕はこれでもかなり本気で試験対策したわけで、それで負けるってのは……。紺野さんも道徳の試験対策をしたのだろうか?


 一方的に授業をしたわけではないにしろ、一応教えるというていで勉強した相手に点数で負けたというのは、ちょっと恥ずかしい気もする。


 いや、紺野さんは今回、佐伯さんの影響もあっていつも以上に勉強しているようだったし、負けたことが恥になるような相手ではない。まぁ、相手のことを少しは知っている分、受け入れられない負けではない。物理のあれはもう仕方ない気がするし。


 1学期に黒崎さんに家庭科で負けた時ほどのショックは受けていなかった。案外、こういうこともあると割り切れていた。何より、物理のあの問題は解けなくても仕方なかったと考えているのが大きかった。


 試験結果の返却が終わり、担任は残ったLHRの時間でプリントを配り始めた。


「2学期末には三者面談を行います。今 配ったのはその希望日程調査です。必ず、忘れずにお家の人に渡してください。締め切りは今週中ですが、できるだけ早く持ってきてください」


 三者面談か。正直、結構 嫌なイベントだ。母親が学校に来るというだけで、なんか嫌だ。母親の方は楽しみにしている節があるが、それがこちらの嫌悪感をより増長させている。

 しかし、嫌だと言って三者面談が拒否できるわけではない。まぁ、高々15分程度、そこまで気に病むことではないだろう。


「あと、三者面談の際に10月に受けた実力試験の結果を返却します」


 担任の言葉へのクラスメイトの反応は薄い。ついさっき期末試験の結果が返却されてそれに意識が向いているのもあるし、そもそも、2ヶ月近く前に受けた試験の結果と言われてももうあまり覚えていない。


 結果を母親の前で開示か。これもかなり嫌だな。失望をあらわにするか無駄に喜ぶかのどっちかだし。


「高校1年生から2年生になろうという今の時期が、学力の差が1番つくと言っても過言ではありません。今、将来を見据えて努力を始めるのか否かで、大きな差がつきます。その差を3年生になってから取り戻すのは難しいです。皆さん——」


 担任のお小言は僕にはあまり関係がないということにして、僕は先程 返された試験答案を見直し始めた。


 英語の減点は、英作文での言い回しが自然ではないとのことでらしい。文法ミス等はないが、まわりくどい表現になっており、あまり使うべきではないそうだ。そういう、間違っていないけど変という感覚を掴むのは難しい。


 国語は現代文の記述問題での減点が2問。完答に必要な言及が足りていないことによる減点。現代文の記述で丸を取るのはなかなか厳しい。紅林さんはそれをやってのけるので、国語では今までに勝ったことがない。今回も学年トップはたぶん紅林さんだろう。


 物理と家庭科はわかりきっていた減点だ。今更振り返ることもない。


 保健は1問にバツがついて95点。

 問題文にあるグラフから読み取れることを記せという問題。模範解答には教科書にあった文章のコピーのようなものが載っていた。その内容は試験時も頭に入っていたが、グラフだけからそこまでの情報が得られるとは思えず、グラフから確実に分かることだけを書いたらバツだった。

 ……ちょっと納得はいかないが、採点基準がそうだったというのなら仕方がない。保健の担当教師は、抗議をしたところで納得するような人間ではない。正解はこれだと言い張られるだけで時間の無駄にしかならない。


 あとは道徳。96点と、不安だった割にはいい点数と言えるだろう。当然 選択問題で間違っているわけもなく、4点の減点は最後の記述。しかし、道徳は返却された答案に減点の理由が書かれない。何をもって減点されたのか生徒にはわからない。復習のできない試験に何の意味があるというのか……。

 まぁ、とりあえず、今回は中間試験の時のような失敗はなかった。クラスメイトと関われという助言からの劇的な成功はなかったが、悪くない結果に収まったと思おう。


 僕が解答用紙を眺めながら思考に耽っている間に、担任の要約すると「ちゃんと勉強しなさい」というだけの内容の長ったらしい話は終わったようで、LHRの終わりを告げるチャイムが鳴った。


 月曜の6, 7時間目は芸術。僕は教科書と筆箱だけを持って音楽室へと向かった。



「蒼井くん、蒼井くん」


 音楽室へと向かう途中、佐伯さんたちに声をかけられた。佐伯さんの仲良し4人は僕と同じく音楽選択、紺野さんは美術選択なので一緒にはいない。


「なんですか?」


「じゃーん!」


 佐伯さんはドヤ顔をして試験結果をこちらに寄越した。


佐伯 朱理  1年2組 11番

科目   得点  クラス順位  学年順位

英語I  72点   9位     74位

国語総合 76点   7位     53位

数学I  69点   11位     76位

数学A  74点   8位     69位

物理基礎 61点   8位     60位

生物基礎 81点   5位     32位

世界史B 83点   6位     43位

保健   41点   21位     167位

家庭科  12点   34位     273位

情報   37点   29位     223位

道徳   89点   13位     100位


 家庭科のところに赤くマーカーが引かれている。たぶん赤点という意味なのだろう。ついそちらに目がいくが、主要科目は全て真ん中より上。佐伯さん的にはきっといい点なのだろう。


「生物とかクラス5位ってすごくない!? 蒼井くん、由那、百瀬くんを除けば、私より点数がいい人、1人だけだよ? ヤバくない?」


「あかりの、これ、驚愕の結果だよね!」


「正直、蒼井くんもすごいって思うでしょ?」


「あのあかりがこんなにできるようになるなんて、ほんと信じらんない」


 なんか、4人でワイワイと盛り上がっている。彼女らから見れば、きっといい点なのだろう。

 この状況で、「別にこれくらいの点数」とか言うのはいくらなんでも空気が読めなさすぎるだろう。僕は空気の読めない人間ではあるが、さすがにそこまでではない。


「佐伯さん、本当に勉強したんですね。僕なんか1日教えただけですし、佐伯さんと紺野さんが頑張った結果ですよ」


 実際、僕は佐伯さんに対して、これといって特には何もしていない。


「直接はそうかもだけど、蒼井くん、由那に教えてたでしょ? で、私は由那から教わったから、孫弟子的な?」


 紺野さんからはそれなりにLINEで質問とか来てたし、勉強関係のやりとりは結構した。しかし、弟子ではない。紺野さんの場合、一方的に教えていたわけでもないし。


「孫弟子じゃありませんよ。紺野さんだって弟子じゃないですし」


「そう? 私にとって由那は師匠っていうか、完全に先生だなぁ。でね、蒼井くん、折り入ってご相談がありましてですね」


 なんか嫌な感じがするのだが……。


「家庭科の再試の勉強を見てくれない? 由那に頼んだら、家庭科はあんまり自信がないって言われちゃって」


「僕も家庭科はあんまり」


「何点だったの?」


「……97」


「ほぼ満点じゃん!」


 こんな話をしている間に、僕たちは音楽室へとたどり着いた。


「家庭科、教えてくれる?」


「勉強用に作ったノートを貸しますよ。そこに書いてあることを覚えただけなので」


 家庭科なんて、僕だって大した勉強はしていない。授業で習ったことと教科書に載っていたことを覚えただけ。教えてと言われても、覚えてとしか言いようがないし、ノートを貸すだけで十分だろう。


「ほんと!? ありがと!!」


「まぁ、ノート貸すくらいなら大丈夫ですよ。あ、今日は持ってないので、明日持ってきます」


 音楽室の席は合唱のパートごとに分かれているので、男女は離れている。僕は佐伯さんたちに軽く会釈をし、会話を切り上げて席へと向かった。


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