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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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41話 僕を基準に安心されても……


 試験2日目。今日は世界史、物理、情報。情報は副科目の中では1番やりやすい科目だし、試験4日間の中では今日が1番楽だ。それなりにリラックスして臨める。


 1時間目の監督担当の先生が教室に入って来て、程なくして試験が始まった。


 世界史ははっきり言って難しくない。

 基本問題は当然解ける。教科書と資料集の内容をただ覚えているだけでいい。記述も先生が授業中に強調していたところから出ているので問題ない。

 そして、応用問題は予想通りに地図問題。細かい所を問う問題ではあるが、対策済みであるので関係ない。世界史の先生は地図が好き過ぎる。単純でありがたい。


 世界史は解答欄をすべて埋めて終えることができた。まぁ、傾向と対策をしていれば、世界史に関しては問題ない。たぶん紅林さんだって同じ感じだろう。


 続く物理。物理は世界史に比べて予測が立てづらい。さて、どんな問題が出るのか。基本問題を手早く消化していく。


 問8. 抵抗値が未知である抵抗器の抵抗値を求めるために、次のような実験を行った。図1のように——


 ん? これは。


 (1) この実験で用いた回路の回路図を記せ。


 ホイートストンブリッジを使って抵抗値を求める実験の回路図。可変抵抗と検流計の電気記号を覚えているか否かの問題。紺野さんに言ったヤマ、当たったのか。


 (2)以降はいくつかの計算と説明。キルヒホッフの法則がわかっていれば何のことはない。

 と、慢心するとすぐに現実に叩きつけられる。


 問9. 物理学の歴史に関して、次の問いに答えなさい。


 物理史……。過去問を解く中でもそんな問題は1問も出てなかったのに。


 アンペール、オーム、ボルタ、ワット、業績との対応はできても、時代感が全然わからない。誰が古いんだよ。


 右ねじの法則の発見、オームの法則の発表、ボルタ電池の発明、業務用蒸気機関の開発を年代順に並べ替える問題。


 ダメだ、わからない。電池の発明は右ねじとかオームより古そうな気はする。しかし、推測するにしても、蒸気機関が電磁気の分野じゃないせいで見当もつかない。


 これが捨て問なのはわかる。どうしようもない。理詰めで答えが出るものでもない。

 1/24の当てずっぽう。ボルタ電池の発明が右ねじの法則とオームの法則の両方より古いとするなら、1/8か。


 結局、何かしらわからない問題が現れるのか……。はぁ。


 とりあえず他の問題を解き終え、残りはこの問題だけという状態にはできたものの、この問題は時間を割いたところで解けるものではない。


 ワットは産業革命期だから、18世紀後半。しかし、他がいつなんだかさっぱりわからない。

 18世紀、19世紀であることは間違いないだろうし、これらの出来事の年代差はおそらく50年もない。10年とか20年とかその程度。そんなのを推測するのは難しい。


 やめた。他の問題の見直しをしよう。僕は結局テキトーな答えを書いた。


 5科目目にして2問目の確定ミス問題か。今回の試験、微妙かもしれない……。いや、今更そんなことを思ったって仕方がない。


 解答終了のチャイムが鳴る中、僕はもっと広い視野で勉強していればと後悔していた。



 試験2日目終了。

 情報に関しては特に難しい問題はなかった。なんか、嘘つきを当てろ系の論理的思考力を問うような問題が多く出題されていたが、あんなのはその場でちょっと考えればわかる。


 6科目の試験を終えて、4科目は変なミスをしていなければ満点を取れているだろうという感触。

 しかし、満点を取りづらい国語と英語はまだ受けていない。1学期は理系科目はすべて満点だったのに対して、今回は物理で落としてる。それを考えるとやはりちょっと微妙だ。


 まぁ、気にしすぎても仕方がない。さっさと帰って明日の対策をしよう。


 僕はまず、試験のために落としていたスマホの電源を入れた。


『紺野: 物理の問題、ありがとうございました』


 そうLINEが来ていた。紺野さんはまだ教室にいる。これくらい、直接言ってくれればいいのだが。


『蒼井陸斗: いえ、本当に出るとは正直思いませんでした』


 返信してスマホをポケットにしまうと、すぐにそれが震えた。


『紺野: 年代の並び替えの答えを教えてもらえませんか?』


 紺野さん的にもあれは解けないものだったようだ。答えが気になるのはよくわかる。僕だって教えてほしい。


『蒼井陸斗: わかりません。物理史は対策していませんでした』


 クラスメイトたちが連れ立って帰宅したり、弁当を食べたりしている中、僕は自分の机でスマホと向き合う。それも、同じ教室にいる相手と会話をするために。


『紺野: 蒼井くんも解けなかったと思うと、少し安心です』


 僕を基準に安心されても困るのだが……。


『蒼井陸斗: まぁ、明日以降も頑張りましょう』


 こんな会話は早く切り上げて帰ろう。


『紺野: はい。さようなら』


 顔を紺野さんの方に向けると、目があった。お互いにとても小さな会釈をして、スマホをしまった。


 そして、バッグを背負い帰宅しようとしたところでまたポケットのスマホが震えた。


 なんなんだよと紺野さんの方を見るも、紺野さんはちょうど教室を出るところでスマホを操作している様子はない。


 誰だ?


『紅林: 物理の最後の並び替え、解けました?』


 ……まぁ、あの問題は本当に予想外だったし、気になるよな。


『蒼井陸斗: いいえ、わかりませんでした。物理史は完全に想定外でした』


『紅林: ですよね。蒼井くんもそうなら、少し安心です』


 だから僕を基準にして安心しないでもらいたい……。


 LINEはここで切り上げて帰路についた。帰り道、明日の科目について考えればいいものを、今日解けなかったあの問題ばかりに意識が向いてしまった。


 モヤモヤして仕方ないし、家に帰ったらあの4人の偉人について調べるか。電池と蒸気機関のどちらが早く発明されたかというのは、案外気になるものでもあるし。


 本当に明日の対策に時間を割けばいいものを、僕は案外、自分の失敗に囚われてしまうたちらしい。


ちなみに、

蒸気機関→ボルタ電池→右ねじの法則→オームの法則

という順番です。ボルタ、アンペール、オームという順番はなんとなくわかっても、ワットがどこに入るのかが難しいと個人的には思いました。

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