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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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40話 家庭科


 全問解けて、解答欄が全て埋まる。定期試験なら、僕にとってはそれがあるべき姿。答案用紙はそうでなくてはならない。なのに。


 わからない問題1つの解答欄が空白になった解答用紙を前に、僕は必死に頭を回していた。


 科目は家庭科。たかが副科目のたかが1問。だが、ただの用語問題がわからないというのは、勉強不足そのものを示す。


 (4)によって引き起こされることのある神経障害の名称、なんだ、これ。前問の(4)がカンピロバクターであることは間違いない。カンピロバクターによって引き起こされることのある神経障害。神経障害……。

 ダメだ。全く記憶にない。授業で習った記憶も、教科書に載っていた記憶も、一切ない。


 覚えていない以上わかりようがない。


 あーあ、これで満点はなくなった。いや、全科目満点が取れるなんて元より思ってはいなかったが、こう、確実に間違っている問題があるというのは精神的にくる。


 例えば、昨日ちゃんと勉強をしていればこの問題も解けたかもしれないとか、そんなことを考えてしまう。


 1問空欄のまま、試験時間は終了した。


 試験初日が終わったが、ちょっとモヤモヤする滑り出しだ。試験はまだあと3日もある。切り替えなくては。


 そう思いつつも、わからなかった所が気になるのは仕方がない。HRでの担任の激励を聞き流しながら、僕は家庭科の教科書を確認した。


 載ってないんだが……。カンピロバクターについて書かれたページのどこにも、神経障害に関する記述なんてない。

 授業で言及したのかとノートを確認するが、やはり見つからない。


 教科書に載ってないし、授業でも習ってない知識を問う問題。主要教科なら、そういう問題にも対応できるように勉強をしているが、家庭科でそれをやられるとキツい……。家庭科は問題集とか資料集とかないし。


 やっぱり副教科はちょっと嫌いだ。勉強しづらい。


 まぁ、昨日勉強をしていたとしてもこの問題は解けなかっただろう。これはもう、仕方ないと割り切るべきもの。……答えは気になるからググるけど。


 ギラン・バレー症候群。なんか、どこかで聞いたことある気もする。

 カンピロバクターだけじゃなくて、サルモネラとかインフルエンザやマイコプラズマからも引き起こされると。結構なんでもありだな、これ。


 さて、僕が食中毒について調べている間にHRも終わって放課後。時間はちょうど12時を過ぎたくらい。


 クラスメイトにはこのまま友人たちと連れ立って昼食に向かったり、教室で弁当を広げたりする者も多い様子だが、僕はそんな友人なんていないし普通に帰る。……食中毒について調べたせいか、あんまり食欲もないし。


「蒼井くん、帰り? それとも部活?」


 荷物を持って立ち上がると、机に弁当を広げていた佐伯さんから声をかけられた。


「帰ります」


「ねぇ、家庭科って赤点あるんだっけ?」


 帰るって言ってるのに雑談をするのか、この人は。赤点を気にしたことがないので、そんなことは知らない。


「さぁ? 実技の方が重視される科目ではありますから、試験の結果だけで1が付くとは思いません。でも、試験を行っている以上、赤点というボーダーはあるのかもしれません」


「私、主要科目しか勉強してこなかったから、家庭科、ほとんど全部わかんなかったんだよね……」


 家庭科、情報、保健、道徳、この4科目に関しては、ほとんど勉強せずに試験に臨んでいる者もおそらく多い。

 しかし、副科目だからといって試験が簡単なわけでもなく、道徳を除く3科目については主要科目に比べて平均点も低い。


「家庭科って平均点が40点とかだったりしますし、赤点って20点以下とかですよ?」


「私、1桁すらありえる……。0点だってあるかも」


 いや、数問は一般常識で解けただろ。今回の主な試験範囲は料理関係。栄養素なんかは日常で意識していなくても、食材の旬の時期とか保存方法とかなら、日常でも意識する機会が多いだろうに。


「なんか、私のこと料理できない人って思ってる? あんな試験できなくても、別に料理は苦手じゃないからね」


 少し拗ねたようにそんなことを言ってきた。佐伯さんが料理をできるかどうかなんて知らないが、さっきの試験ができなかったなら、バナナを冷蔵庫に入れるような人ではあるのだろう。


「普通に普段料理してれば、あの試験、半分くらいはできるでしょ」


 そんな声が教室の出口の方から聞こえてきた。

 そちらに目をやると、黒崎さんが背中を向けて帰っていった。


 この2人、表立って言い合うようなことはないのだが、やはりあれ以来仲が悪い。基本的には相手をいないものとして扱うのに、こういう場面で嫌味は言う。雰囲気としては最悪だ。実害はないが。


「何あれ、感じ悪っ」


「まぁ、黒崎さんって1学期期末で家庭科学年トップですし」


 唯一クラスで2位を取った出来事だ、よく覚えている。まぁ、リベンジを誓ったとか言えるほど家庭科に力を入れて勉強はしなかったけど。


「あー、そうだっけ。じゃあ、あの消しゴム持ってるんだ。会長もいくつか持ってるんだけど、あれ、持ってるだけでうちの高校ではステータスだよね」


「学年トップであることを示すものですから、ステータスといえばステータスですが、ものとしてはただの消しゴムですよ」


 何個も持っている立場からすると、なんかもう別にいらない。先輩はあれをコレクトするのを楽しんでいるみたいだが。3年間で集めた消しゴムでドミノをするんだとか、前に言っていた気がする。


「私も何かで取れないかなぁ。狙い目の科目とかある?」


「いえ、どの科目でも佐伯さんには負ける気ないので」


 佐伯さんにはというより、紅林さん以外の誰にも負ける気はない。実際のところは結構負けた経験もあるわけだが。


「……蒼井くん、飛び級したら?」


「しません」


 そこで会話は途切れ、僕は教室を後にした。


 家庭科のことはとりあえず忘れて、残りの科目の勉強に集中しなくては。


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