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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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35話 真白先輩を祝う会


「日曜日の勉強会はどこでやる?」


 部活中、朝 佐伯さんから受け取った問題を解いていると、先輩自身がその話題を投げ込んできた。


「学校は試験週間なんで使えないんすよね?」


 今日は大白先輩も生徒会の方ではなくてこちらに来ている。風邪から復帰した会長のやる気がすごいそうで、大白先輩が手伝う必要などなくなったらしい。


「うん」


 本来であれば、試験週間は部活動は停止するはずのもの。放課後ならともかく、休日に許可を得て入るというのは無理がある。


「ファミレスとかっすか?」


「やっぱりそうなる?」


 まぁ、それが妥当なところだろう。おそらくそれなりに騒ぐし、図書館というわけにもいかない。


「蒼井くんの家はダメですか?」


「は?」


 紅林さんの発言に、思わず "あんた何言ってんだ" みたいな反応をしてしまった。


「蒼くんの家! いいね!」


「いや、よくないですよ。無理です。というより嫌です」


 そう即答した。僕は家に人を入れることに結構抵抗がある。


「無理なのはともかく、嫌なんじゃ仕方ないね」


 普通 逆じゃないか? まぁ、諦めてくれるならなんでもいいのだが。

 すぐに諦めてくれた先輩とは対照に、紅林さんは不満げ。あれか、先輩の誕生日祝いにファミレスはないだろって、そう思ってる感じか。わからなくはない。


「でも、やっぱりファミレスはちょっとって思いません?」


 紅林さんは実際そう思っていたようで、ファミレス案を否定する。


「勉強会なんてファミレスで十分じゃないか?」


 大白先輩は本当に勉強会をするという認識らしい。日曜日の意味がわかっていないっぽい。


「大白先輩、えっと、私たちは12月3日の話をしているんですよ?」


「次の日曜だろ、12月3日。……12月3日? …………あ。あー、そうだな。悪い。ファミレスはアレだな」


 なんだかんだで全員先輩の誕生日を把握していたようで、大白先輩も少し焦った様子だが、事情を察した。


「え? ファミレスじゃダメなの?」


 先輩1人が勉強会というていで話す。全員が察している今、ただの道化でしかない。


「やっぱり蒼井くんの家が最良じゃないですか?」


 誕生日パーティーというのであれば、誰かの家でやるのがいいというのはわかる。だが、だからといってうちというのは……。


「うちはやっぱりちょっと……」


「そんなに誰かの家がいいなら、うち大丈夫だよ?」


 名乗りを上げたのは先輩自身。これ、どうなんだ? 先輩の誕生日パーティーにして、ホストが先輩自身。なんかちょっと違う気がするが、ファミレスとどっちがマシだ?


「あの、一旦保留にしませんか? 場所は明日LINEで決めることにしましょう」


「なんで? いいよ、うちでも、ファミレスでも」


「とりあえず保留にしましょう。ね?」


「紅ちゃんがそんなに言うなら別にいいけど」


 先輩だって今の状況をわかっているだろうに。誕生日に勉強会を開催する時点で、先輩は言外に祝えと要求しているに等しいのだから。


「わたし、日曜日の勉強会、すっごく楽しみにしてるね」


 ほら、そういうこと言う。


「はい、頑張ります」


 結局、日曜日の話は保留になったまま下校時刻を迎えて解散になった。



『紅林があなたを《真白先輩を祝う会》に招待しました』


 帰り際に「グループ作ります」と耳打ちはされていた。すぐに参加する。ほぼ同時に大代なる人物も参加した。大白先輩がなぜ漢字を変えているのかはよく知らない。


『紅林: わかっていると思いますが、真白先輩のお誕生日祝いの企画のためのグループです。まず場所なんですが、蒼井くんの家はどうしてもダメですか?』


 可能か不可能かでいえば、たぶん可能だ。うちの両親の休日はカレンダー通りでは全くないし、たぶん日曜日も2人ともいないと思う。妹さえ嫌がらなければ、無理ではない。


 しかし、なんというかやはり、家に家族以外の人間を入れたくない。


『蒼井陸斗: やっぱりちょっと……』


『紅林: わかりました。なら、うちでやりましょう』


『大代: いいのか?』


『紅林: なんとかします』


 なんとかするという言葉に、本来なら無理だったのだろうというニュアンスが含まれているが、まぁ、なんとかすると言っているのでなんとかしてもらおう。


『紅林: 飾り付けとかしますか?』


 紅林さん、なかなかに張り切ってるな。まぁ、先輩はもう卒業してしまうのだから、これが最初で最後の機会になる可能性が高い。そう思うとやる気も出るか。


『蒼井陸斗: 勉強会というていを最初から捨てるなら、飾り付けとかして大々的に誕生日パーティーとしてもいいとは思います』


 翌日に試験ではあるが、文芸部の誰もが前日に焦って勉強しなくたって問題ない程度にはすでに完成している。先輩に勝つという面では悪あがきもしたいところだが、先輩を祝うということと天秤にかけるなら、後者を取っても後悔はない。


『大代: 菜子先輩がどの程度のお祝いを期待してるのかいまいちわからんよな。大々的にやろうとしたら、勉強しろってキレられる可能性すらある』


『紅林: 私は正直試験対策なんかより、ちゃんとお祝いしたいです』


『大代: 俺は普通に勉強へのモチベーションとかお前らよりずっと低いからな。勉強なんて忘れて祝いたい』


『蒼井陸斗: なら、満場一致で本気で祝う方針で』


『大代: おう。ただ、それで試験の出来が悪いと菜子先輩たぶんうるさくなるから、絶対にいい点取れよ。お前らは大丈夫だろうけどな』


『紅林: 当日の時間を真白先輩には11時と連絡するので、おふたりは9時に来てもらって準備するということでいいですか?』


『蒼井陸斗: それで間に合いますか?』


『紅林: それより早いのはさすがにちょっと……』


 そりゃ朝8時に家に来られても困るだろう。そういうことを言ってるんじゃない。


『蒼井陸斗: いえ、前日までにこちらで準備しておくこととかないかなと』


『紅林: 真白先輩へのプレゼントとメッセージカードとかですね』


 メッセージカードなんているのか。誕生日祝いってそういうものなのだろうか? ちょっとわからない。


『蒼井陸斗: それだけですか? 飾り付けとかは?』


『紅林: それは作ってたら間に合わないのでこっちで買っておきます。費用は後で割り勘でいいですか?』


『大代: 金はいいが、買い出し任せちゃっていいのか?』


『紅林: 大丈夫です』


『蒼井陸斗: 試験前ですし、その辺りの負担は分担した方がよくありませんか?』


『紅林: 実は今お店にいるので、そのまま買っていくから大丈夫です』


 今 店にいるのか。紅林さん、本当に張り切ってるな。


『蒼井陸斗: わかりました。よろしくお願いします』


『大代: それなら頼んだ』


『紅林: では、今日明日は必死に勉強をして、日曜日は楽しみましょう』


『蒼井陸斗: わかりました』


『大代: そうだな』


 1日だけならそういう余暇があってもいい。それが試験前日なのはちょっとどうかと思うが、案外頭がリラックスして悪くないかもしれない。僕は自分にそう言い聞かせた。


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