28話 勤労感謝の日
11月23日、勤労感謝の日。休日を利用して、僕はショッピングモールへと来ていた。
なぜかと言えば、フロイトの誕生日が12月3日だったから。もちろんフロイト生誕祭をするつもりなんて毛頭ない。僕が祝おうと考えている相手はフロイトではなく先輩だ。フロイトと同じ誕生日だと言われた時に、一応調べた。祝わないとネチネチ言われるだろうし。
それにしても12月3日とは間が悪い。期末試験初日が12月4日の月曜日。試験前日、しかも日曜。
昨日の部活で、完全に回復した先輩はいつも以上に騒がしく喋り、その中で試験前日の日曜日にみんなで勉強会しよう的な提案をそれとなくを装ってしていた。間違いなく誕生日祝えよアピールだろう。
そうなると一応祝う準備くらいはしないといけないわけで、試験前は勉強に集中したいので、今日の休日を利用して用意を済ませてしまうことにした。
さて、適当な小物をプレゼントとして用意して、おめでとうございますの一言を言えば満足すると思うのだが、その適当な小物を何にすればいいのかがよくわからない。
先輩って何をもらったら喜ぶのだろう。大白先輩が渡したネコのキーホルダーはバッグにつけているが、ああいうのがいいのだろうか?
もしくは実用性のあるものか。先輩なら実利があるものを嫌がりはしないだろう。
実用性のあるもの、筆記用具とか? いやでも、筆記用具って結構こだわりが出るから贈られても迷惑かもしれない。先輩の筆記用具をまじまじと観察したことなんてあるわけもなく、先輩がどういうものを好むのかわからないし。
プレゼントって、結局 本人に何が欲しいかを訊いてそれを贈るのがベストなんじゃないか? その手法をとっているサンタクロースは世界各国で活躍してるわけだし。まぁ、それでいいならもう現金を贈ればいいって話になるのだけど。
それに、先輩に欲しいものを訊いてもまともな答えが返ってくるとも思えない。大白先輩の時はネコが欲しいと言い張ったし、無理難題を言ってくる可能性が高い。面倒だな、あの人……。
何かいいものはないだろうかと、テキトーにショッピングモールを彷徨ってみる。しかし、どれもピンとこない。そもそもプレゼントを贈ったことのある相手なんて妹くらいだし、普通どんなものを贈るのかよくわからない。加えて、先輩に贈るなら普通ではマズい気もする。
だんだん考えるのが面倒になり、なんかもう本でも贈ればいいのではと、僕は書店へと足を運んだ。そこで1つのコーナーに目が止まる。
栞か。
そこには様々な種類の栞が売られていた。花のイラスト、動物のイラスト、何かのキャラクターなどなど、20種ほどはある。
栞、読書家に贈るプレゼントとしては結構定番か。
が、たぶん先輩、栞を使ってない。
これは僕も同様なのだが、どこまで読んだのかくらいわかるというか、わからないなら前から読み直せという話。読んでいたところをすぐに開けるわけではあるが、それが必要である気はあまりしない。
先輩、スピンが付いている本でも使っている様子はなかったし、栞は不要なのだろう。
しかし、本関連のものという発想はありな気がする。そう思いもう少し店内を見て回ると、ブックカバーのコーナーを見つけた。
ブックカバーか。
先輩も買った時に店でかけてもらえるやつは使っているし、不要ではないだろう。別に特別必要なものではないけど、『これ、使わないよ?』って返されることはない。
考えるのが面倒になっていた僕は、もうこれでいいということにした。あとは数種類ある中から先輩が気に入りそうなのを選べばいい。
無地、動物のワンポイント、星空のイラスト、花模様。イラストの括りとしては大きく分けてこの4つ。僕なら間違いなく無地を選ぶが、先輩ならネコのワンポイントとかだろうか?
考えたところで何がベストかなんてわからないし、無難なネコのワンポイントでいいだろう。先輩がネコ好きなのはたぶん間違いないし。
さて、値段的に革製のはなし。1万円弱とか高過ぎる。ブックカバーにこれだけかける人もいるのか。紙製のがとても財布には優しいが、まぁ、少し背伸びして布製のにしよう。値段は1000円強、これくらいが妥当だろう。
会計を済ませて僕は書店を出た。時間はちょうど昼時。両親は祝日でも仕事で、家には妹1人。昼食はどうするか。
『蒼井陸斗: 昼食どうする? 必要なら何か買って帰るけど』
メッセージを送り、返信が来るまでの時間潰しのため、僕はさっき出たばかりの書店に引き返した。
雑誌コーナーでパズル雑誌を手に取り、頭の中で解いて時間を潰す。書き込みができないだけでパズルの難易度は跳ね上がる。書き込めばすぐに解けるレベルの数独を頭の中でなんとか解き終わったころ、スマホが震えた。
『蒼井美月: チョコレート』
……は? 昼ごはんにチョコレート? いくらなんでも、それは偏食というか、もはや変食。
『蒼井陸斗: それ、昼ごはんはいらないって意味だよな?』
『蒼井美月: うん、冷食あるから。兄さんの分まであるかは知らないけど。あと、チョコレートよろしく』
僕はパシリか……? まぁ、相手は勉強頑張ってる受験生だし、いいのだけど。
『蒼井陸斗: 了解』
『蒼井美月: 袋に何個も入ってるやつと板チョコ何枚かよろしくー』
そんなにいるのか。勉強する時は糖分が欲しいのはよくわかるし、僕だって飴を買うつもりではある。にしても、あいつチョコレート本当に好きだな。
僕の分の昼食はないかもしれないらしいし弁当は買って帰らないとだが、ショッピングモールの中にそういう店はなかったのでコンビニで買うことにした。
板チョコ何枚かというのがどれくらいの枚数を指しているのかよくわからず、とりあえず10枚購入したら店員からちょっと変な目で見られた。加えて袋入りの飴とチョコレートも買っているから、まぁ、どんだけ甘いもの好きなんだよって感じではあるよな。
家に帰り、妹にチョコレートを渡すと無邪気に喜んだ。10枚買って正解だった。2枚とかなら、『これだけ?』って反応が返ってきたことだろう。
貴重な休日の半分はそんな風に終わってしまった。さて、午後はちゃんと勉強しよ。