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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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27話 愚痴


 勉強会を終えて帰宅すると、すでに妹も帰っていた。


「兄さんには意外に女の子の友達が多い。もしくは、男友達が異常に少ない」


 リビングに入るなり、そんな言葉が飛んできた。


「後者だな」


 そもそも妹から見れば友達が異常に少ない。数少ない友人が女子の方が多いのは、僕が友人を作るきっかけが勉強だけなのと、成り行きのせいだろう。


「夏美はカップルとか言ってたけど、あれ、ただ勉強してただけでしょ? 真面目な友達と」


「ああ」


 質問に答えつつ、冷蔵庫へと足を動かす。


「兄さんを1日捕まえれば5点くらい点数伸びそう」


「なんだ、その評価。高評価なんだか低評価なんだかわかりづらいな」


 5点、試験なら1問分の点。1問を解けるようにできるというのは、どうなんだ?


「兄さんが一緒に勉強するような人なんだから、もともと高得点取る人でしょ? なら、引くほど傾向分析してる兄さんから予想問題を聞いて、想定外だった問題が1つ想定内になるくらいじゃないの」


 なんか、あながち間違いでもない予想だ。

 冷蔵庫から飴を取り出して、そのまま部屋へ向かおうとするも。


「あの人さ、前も一緒にいたよね? 2ヶ月くらい前?」


 妹はまだ話を続けるつもりらしい。まぁ、受験生の気分転換なら付き合うか。


「中間の時な」


 ダイニングテーブルで参考書を広げている妹の向かいに腰をかける。


「あの時は他の人もいたよね?」


「ああ。昨日はそのメンバーで勉強会してた」


「昨日は結構疲れてるっぽかったよね。今日はそんな感じしない」


「僕の観察日記でも書いてるわけ?」


 なんでそんな見透かされるんだよ……。


「観察なんてしてないし。その発想キモい」


「辛辣だな」


 結構本気っぽいトーンで罵倒されたが、妹にキモいと言われてショックを受けるような精神はしてない。


「まぁ、昨日の方が疲れたのは間違いない。当然だけど、一緒に勉強するなら勉強できる人との方が楽だ」


「昨日の人は勉強できない人なの? 兄さんならそういう人と一緒に勉強しようって思わなさそうだけど」


 一緒に勉強という意識では確かになかった。


「試験のためだからな」


「ん? どういう意味?」


「道徳でクラスメイト関連の問題が出るんだと」


「そのためにクラスメイトと勉強? うわぁ、徹底してるー。逆に試験のためじゃなかったらそういうことはしない感じだよね、兄さんは」


「いや、教えるのは知識の確認になるし、僕だってする。ただ、本当に何もわかってない人を相手にするのは厳しいしあんまりしたくはないけど」


 言ってしまえば、今日のような勉強会なら今後も続けたいと思えるが、昨日みたいな勉強会は特別理由がなければ参加したいとは思えない。それが率直な心情だった。


「自分のプラスになるならやる。そうじゃないならしたくない。兄さん、超自己中」


「僕は自己中だよ。それの何が悪い」


 そう言いつつ、「いや、悪いだろ」と思っている自分もいる。自分が一貫してないな、僕は。


「そうやって開き直るの、どうかと思うよ?」


 開き直りきれていない方が僕自身としてはどうかと思う。いっそのこと先輩みたいになれればと思う。でも、僕という人間は結局 中途半端。


「別にいいだろ。これが僕だ」


 中途半端に拗らせている、それが僕。


「やっぱり開き直る。兄さん見てると、ちょっと頑張って友達と仲良くしてる私がバカみたいじゃん」


「大丈夫だ。バカなのは普通に僕の方だろうから」


 人間関係に関して僕と妹を比べて妹が間違っていると言う人はいまい。……いや、いるかも。というより、先輩なら言いそうな気もする。まぁ、例外を除いていないだろう。


「今日、騒いでる私たちにイラッとしなかった?」


「勉強してたし、騒がしいとは思ったけど、それが?」


「そういうの、私的にはどうなんだろって思ってるんだよ。周りの迷惑になってないかとか、気になるし。でも、夏美と詩歌があんな感じだったから、私が『静かにした方が良くない?』とか言えないし」


「お前、なんかよくわからない苦労してるな」


「む、そりゃ、兄さんにはわかんないよね!」


 ご立腹だ。しかし、僕にその話を共感しろというのは無理な話というものだ。


「周りの迷惑とか友達との雰囲気とか、そんなもの気にするなって言ったって気になるんだろ? そういうのをほぼ気にしない僕が、『そうだよなー』なんて薄っぺらな共感をしたところで、『何がわかんの? 知った風な口聞くな』って感じだろ」


 つまり、妹が立腹することは初めから決まっていたのだ。僕は単に愚痴を聞かされているだけ。まぁ、たった1人の兄妹だし、聞き流すから別にいいけど。


「兄さんのそういうところが空気読めないっていうか。今のはさ、『そうだよなー、大変だよなー』って薄っぺらな共感する方が、『どうせ僕にはわからない話だし』って開き直るより印象いいに決まってるでしょ」


「そんなもんか? 僕的には知った風な口聞かれる方がムカつく気がするけど」


「兄さんなんて基本的にあんまり理解されない人なんだから、それでムカついてたらムカつくことばっかりじゃない?」


「いや、まぁ、たぶん最低な言い方するけど、どうでもいい相手からどう思われようがどうでもいいし」


「うわ、本当に最低」


 そう言いつつも、妹は笑っていた。呆れられたか?


「あーあ、私も最近、人間関係が面倒になってきた。兄さんみたいなのもありかなぁ」


「いや、ないだろ。色々捨ててるぞ、たぶん」


「それ、自分で言う?」


「自分で言ってるから、何を捨ててるのかはイマイチわかってないけど」


「ふーん。でも、今の私よりマシかもじゃない? 学校での私とうちでの私が違いすぎてもはや多重人格レベルだよ、私」


「そうか。でも、女子高生とか女子中学生ってそういうイメージあるし、案外それが普通なんじゃないか」


「兄さんの女性へのイメージヤバくない?」


 今度は完全に呆れ顔だった。


「まぁ、1番話す女子高生が頭おかしいからなぁ」


「あの人かぁ、確かに……」


 先輩は妹の記憶にも焼き付いているらしい。そして頭がおかしいというイメージは共有している。まぁ、そのイメージが共有されるのは納得だけど。


「兄さんと友達になれる人なんて、そりゃ変な人ばっかりだよね」


「酷い言い草だな」


 否定はできないのだが。


「私も兄さんの妹だし、ちょっと変なくらいいっか」


「ああ、別にいいだろ」


 愚痴に対してまともな対応をする必要はない。僕はテキトーに頷いて席を立った。


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