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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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18話 100%主観


 試験までまだ3週間弱もあり、授業では試験範囲なんて全然終わっていない現状ではあるけれど、僕はとりあえず過去問はもう解けるという状態になっていた。


 部活中、パソコン室の回転椅子に寄りかかりながら、僕は生物の資料集を眺めて満点潰し問題の予想を立てていた。


 すでに定期試験は3回も経験し、傾向はつかめている。満点潰し以外の問題は過去問を3年分も解いておけば間違いなく類題が出題されているが、満点潰し問題は先生がその場の気分で作っているんじゃないかと思うくらい多種多様だ。


 先生の性格が読みやすい世界史と数学はいいのだが。英国物生は正直この問題にやられることも多い。


 資料集にある図と解説を読んで、重箱の隅をつつくような問題を出すならと頭を回す。


「お、生物? なら、わたしの得意分野だよ!」


 4人で黙々と勉強をしていたはずなのに、なぜかこちらを見た先輩が声をかけてきた。


「いや、先生、何出すだろうなぁと考えていただけなんで」


「1,2問は変な問題出るからねー。わたし、絵を描かせる系の問題嫌い。特徴を捉えてればいいとか言われても、そんなの文章で書かせろって思う」


 うちの生物教師は、観察してそれを正確にスケッチする能力も重要だと考えているらしく、試験にも時々絵を描かせる問題が出る。僕としてもあまり好きなタイプの問題ではない。無駄に時間かかるし。


「正解がわかっているのに、物理的に答えを書くのに時間がかかるのは嫌ですよね」


「そもそもさぁ。今の時代、スケッチなんてしないで写真撮れって話じゃない? フックの時代とは違うんだから。わたしの書いた絵と写真じゃ、写真の方が信用できるに決まってるし」


「まぁ、そりゃそうですね」


 基本的にスマホは持ち歩いているのだから、写真が撮れないという状況は今の時代では珍しい。逆に、紙がなくてスケッチができないという状況の方が多いと思う。


「先生がこれを学ばせたいって思ってること、時々ズレてるよね」


「でも、先輩は世間一般からズレてるでしょうし、先輩がズレてると感じるから本当にズレているかはわかりませんけど」


「蒼くん。わたしの世界では、わたしが1番一般人」


 僕は100%主観や100%客観なんてものはないという思想を持っているが、先輩と話していると100%主観的に思考しているのではないかと思わなくもない。


「先輩の世界、変人がすごく多そうですね」


「そだね。わたし、一般人かなぁって思える相手、蒼くんと紅ちゃんくらいしか会ったことないかもしれない」


 そんな少数派を一般と言い張る精神性はある意味すごい。


「俺は変人っすか」


 僕と先輩が雑談を始めたために部屋の空気は弛緩して、勉強に集中していた大白先輩も会話に参加してきた。紅林さんも顔を上げて、こちらの会話に耳を傾けているようだ。


「うん。大くん、ちょっと変だよ」


「それ、菜子先輩に言われると、あなたに言われたくないって返したいっす。ものすごく」


「大くんの世界ではわたしの方が変人なのかー。そっかー」


 棒読みでそう返しながら、身振りでは大仰に肩をすくめてみせた。


「白々しいっすね」


「この部屋の中ならわたしの方がきっと多数派だし。ねっ?」


 先輩に話を振られ、僕と紅林さんは「まぁ、はい」といった感じの曖昧な肯定を返した。


「俺もだいぶこっち側に染められてる気するっすけど。まだテストまで3週間近くあるってのに、もう大丈夫じゃねとか思ってる自分にびっくりっす」


「それが普通だから」


「絶対普通じゃないんすけど……」


 実際、ここにいる4人は、今の時点でもうだいたい大丈夫だろうという感じで試験勉強をしている。あとはここのメンバーに勝てるかどうかであって、9割取れないとかはあまり想定していない。


「なんか、この油断してる感じフラグっぽくない? 試験日になって4人ともインフルエンザで倒れたりして」


「不吉なこと言わないでください」


 まだ罹ったという話は聞かないが、試験は12月だし流行り始める時期。結局、試験対策以上に体調管理が重要っていうのはある。


「みんな、不戦勝とか面白くないから、インフルは絶対ダメだからね」


 そう言われて罹らないようにできるのなら最初からそうしている。家に受験生もいるし予防接種はしたが、それも絶対とは言えない。

 

「絶対、絶対にだよ!」


「なんで積極的にフラグを立てるんすか……」


 こんな雑談に興じているあたり、やはり中間試験の時に比べて気が抜けている感じがする。いや、肩の力が抜けているという風に言い換えれば悪いことでもないかもだけれど。どっちにしろ、それで本当にインフルエンザにでも罹ったら笑い話にもならない。


「大人数の勉強会なんて開いたら、そこに1人でも感染者がいたら一気に広がるかもだよねー」


「それは生徒会主催の勉強会に参加することへの牽制っすか?」


「大くん、ほんとに参加するの?」


「一応ああいう返事したんで。てか、田中先生からも結構言われたんす。お前、学年トップだろって感じのこと」


 大白先輩の返答に、先輩は不満そうにふくれる。


「わたしだって学年トップだし、紅ちゃんも中間トップだよね。蒼くんもトップ経験者。でも、参加するのは大くんだけ。タナ先にしつこい勧誘を受けたのも大くんだけ。やっぱり大くんはちょっと変」


「もうそれでいいっすよ」


 大白先輩はぞんざいに返した。ちゃんと相手にするのは面倒くさいといった感じか。


「大くんが冷たい」


 そう言ってこちらを見る先輩。


「先輩、面倒くさがられてますよ」


 僕が現実を突きつけると、先輩は紅林さんの方を向く。


「蒼くんまで冷たい」


「えっと、そ、そうですね」


 乾いた笑みを浮かべて謎の同意を返す紅林さん。なんだ、これ? コント?


「むぅー。絶対負けないから!」


 そして先輩は勉強へと戻っていった。


 ちゃんと相手をしてもらえないと拗ねる。子どもかよ……。先輩は意図的に子どもっぽく振る舞っているところはあるが、どこからが演技でどこまでが素なのだか。


 案外、今 拗ねたのは素なのではと思わなくもなかった。


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