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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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17話 『友達のためだから』なんて理由で行動する人間には


 勉強をする。そう宣言しても、言葉だけで全く実行には移さない高校生は案外多い。


 佐伯さんたちとの勉強会の一件が保留になってから、今日でちょうど1週間になる。試験まですでに3週間を切り、余裕はどんどんなくなっている。


 そんな状況で、佐伯さんはしっかりと勉強を実行していた。主に紺野さんを、時に僕を巻き込んで勉強をし、全くわかっていなかった基礎基本が、とりあえず身についていると言える状態にはなった。佐伯さん()


「最近、あかりんほんとに勉強してるよねー。たまには息抜きに遊び行かない?」


「私、今回は本気なの。少なくとも平均点は取らないとだから。でも、1日くらいなら、息抜きも必要?」


 佐伯さんの仲良しさんたち、御堂さん、黛さん、和泉さんは勉強する気があるようには見えなかった。


「こんなに早くからそれだけ勉強してるんだから、1日遊ぶくらいしてもね。息抜きとかリフレッシュとかした方が効率上がるかもだし」


「そうそう。週末とか、久し振りに4人でどっか行こ」


 昼休み、昼食を食べ終えプリントを眺めていると、そんな会話が聞こえてきた。周りに流されて、佐伯さんも遊ぶことに同意して予定を決め始めた。こういう前向きな予定はすぐに決まるようだった。


 まぁ、実際、勉強の息抜きに1日の休憩を設けるのは僕もアリだとは思う。それが本当に1日の(・・・)休憩で済むのなら。


 勉強をしている相手に遊ぼうと誘いかけるのは、別に悪友ではないだろう。一緒に遊びたいと単純に思ってくれるいい友人なのだと思う。


 でも、それが数日に及べば勉強の支障になるのは想像に難くない。


 そんなことをふと思ったけれど、僕が佐伯さんを心配することもないし、彼女たちに割って入って、「勉強した方がいいんじゃない?」なんて言うわけもない。


 僕はただ、質問をされたら答えるだけ。


「蒼井、ちょっといいか?」


 僕が実りのない考えをしているところに声をかけてきたのは百瀬くんだった。


「なんですか?」


「勉強会って、結局どうなってる? LINEの方は特に動きがないみたいだから、ちょっと気になってさ」


「別に何も。保留のままです」


「……大丈夫なのか?」


「佐伯さんは勉強してるようですし、ある程度は、たぶん?」


「曖昧だな……。俺、今週の金曜から月金なら参加できそうなんだけどさ」


「LINEでその発言をすれば進展するんじゃないですか?」


「他人事だな……」


 百瀬くんには苦笑されたが、僕にとってこの勉強会は、道徳の試験対策という面はあるものの、基本的には他人事だ。


「まぁ、佐伯さんが良い点を取ろうが取るまいが、僕には特に影響ありませんし」


「いや、蒼井は佐伯さんに勉強教えてるんだろ? 教えてる相手なら良い点取ってほしいって思わないか?」


「良い点を取るに越したことはないですけど、別にそうでなくてもそこまで影響はないかなと。結局は佐伯さんが頑張るか否かですし」


「頑張ってるだろ? 見るからに。友達としては、できるだけ手助けしたいとか思わないか?」


 まぁ、百瀬くんの言う通り、佐伯さんが頑張っていることは疑いようもないか。


「僕は、僕がしてもいいと思う範囲で手助けしてるつもりですよ」


 その範囲が、できる限りではないけれど。


「確かに、今のところ俺より手伝ってるよな。そうだ、蒼井のところに生徒会の手伝いの話は来たか?」


 百瀬くんにもあの話は行ったのか。まぁ、妥当な人選だ。


「断りました」


「なんでだ?」


 なぜ断ったか。僕にとってのメリットがあまりに少なく感じたから。加えて、生徒会長が苦手だからか。


「手伝うメリットを感じなかったので」


「友達を手伝うのに、メリットとかデメリットとか言い出すのか?」


「すみません。僕は言い出す人間なんですよ」


 百瀬くんは僕の返答に、別に非難めいた顔はしなかった。


「人間関係をそうやって割り切れたら、楽だろうな」


「僕は極力楽がしたいですから」


「でも、予想外のデメリットが発生するかもしれない」


「それは目算が甘かったと諦めるしかないですね」


「蒼井、人間関係ってのは楽にはいかないものだ」


 百瀬くんの言ったその言葉は、僕の判断の仕方に苦言を呈するものだっただろうか? ただ、たとえ百瀬くんが正しいのだとしても。


「それでも、僕はこのままの人間でいますよ。僕は、『友達のためだから』なんて理由で行動する人間にはなれませんから」


「清々しいくらいに自己中だな、蒼井は」


「僕は僕以上に自己中だと思う相手を知ってるんですけどね」


 僕はこんなこと言いつつも、どこかで『友達のため』という理由で行動する人たちのことを正しいと思い、僕自身の考え方を間違っているとは感じている。そんな僕は、あの人に比べればまだ。まぁ、あの人を比較対象にしてる時点でってところはあるけれど。


「その相手は、たぶん、蒼井の方が自分より自己中だって思っているさ」


「いや、それはないです」


 即答していた。いや、だってない。ありえない。

 即答に百瀬くんは引いているように見えた。


「とにかく、生徒会の手伝い、俺は少ししかできなさそうだから、本当に人手が足りなさそうなら声をかける」


「声をかけられても断りますよ」


「断られないように、その時は蒼井にとってのメリットを用意するさ」


 メリットか。例えばなんだ?


「……買収とかですかね」


「蒼井、案外金にがめついな」


「わかりやすいメリットを挙げただけですよ」


 別に金にがめついのは否定もしないけど。


「まっ、その時までに考えるさ」


「そうですか」


「あぁ。最悪、金なら靡くことはわかったしな」


「金額に寄りますけどね」


 本当に給料で雇われるなんてことはないだろうし、このやりとりはほとんど冗談のようなもの。


 百瀬くんは苦笑しつつ自分の席へと戻っていった。昼休みはもう予鈴直前。次の時間は教室移動だ。僕は教科書類を持って移動を始めた。


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