12話 保留
勉強会の参加をどうするか。僕はその選択に迫れていた。
時間は23時頃。そろそろ寝ようかと勉強の手を止めスマホを確認すると通知がいくつか。
『A.Saeki: いつ参加できるか、回答して』
『御堂響子: 木土以外ならOK』
『まゆ: 試験週間になるまでは月曜しか無理。ごめん(◞‸◟)』
『NAKO: 月金かなぁ。土日も空いてるは空いてるけど、正直、この時期から土日まで勉強したくないや』
『百瀬拓人: テスト2週間前くらいにならないと部活が忙しくて参加できそうにない。ごめん』
『A.Saeki: 1ヶ月も前から勉強会しようってのは私のわがままだから、みんな謝らなくていいんだよ』
『A.Saeki: てか、私だって火金は無理だし、他の日も仕事ができたら無理になるし』
『御堂響子: なんか私だけ暇人説ない?』
『御堂響子: これは私だけ超勉強できるようになるやつかも?』
『NAKO: 響子は他の人がいないとどうせ勉強しないから一緒』
『A.Saeki: 蒼井くんと紺野さんの回答待ちかなー』
『御堂響子: 蒼井くん本当に参加してくれるの?』
『A.Saeki: たぶん?』
『百瀬拓人: 蒼井の場合、会に来てなくても質問すれば答えてくれるんじゃないか?』
『御堂響子: 答えてはくれたね』
『A.Saeki: とりあえず回答待ちで』
トークはここで止まっていた。さて、既読もつけたことだし何かしらの返答はしなくてはいけないのだが、どうしたものか。
会に参加するメリットとデメリットは何か。
メリットは、道徳の試験対策になること。全科目の中で最も厄介な道徳に対応できるのは大きい。
デメリットは、単純に時間が奪われること。勉強会に出るために勉強時間が奪われるというのも変な話だが、自身の勉強時間が削られるのは事実だ。
つまり、どれだけの時間を道徳の試験対策に割くか。……さて。
『蒼井陸斗: 前回同様火曜日のみです』
すぐに既読がつくわけでもなかったのでLINEは閉じる。風呂入って寝よ。
15分ほどの短い入浴を終え、部屋に戻りスマホを確認するとレスポンスが来ていた。
『A.Saeki: 全然噛み合ってないー』
『A.Saeki: 火曜日、生徒会の活動日!』
『NAKO:
月曜 私、まゆ、あかり、響子
火曜 響子、蒼井
水曜 あかり、響子
木曜 あかり
金曜 私、響子
……これで大丈夫なの?』
『A.Saeki: 木曜日私1人!?』
『NAKO: 紺野さん待ちだけど、今のところ』
『A.Saeki: ええー』
まとめてくれているのでわかりやすい。木曜日も出れないことないが、今更撤回することもないだろう。……火曜日、御堂さんと2人ってのは気まずいな。
『紺野: すみません。火曜日だけでお願いします』
LINEを眺めたところでちょうど紺野さんのメッセージが届いた。
『NAKO:
月曜 私、まゆ、あかり、響子
火曜 響子、蒼井、紺野
水曜 あかり、響子
木曜 あかり
金曜 私、響子』
『NAKO: 火曜日だけ偏差値高い』
『A.Saeki: 響子ついていけないやつ』
『A.Saeki: 月曜日にわからないところまとめて、火曜日に提出?』
『NAKO: 会の意味ある?』
『A.Saeki: ある。きっとある。たぶん』
トークが流れていくのをただただ眺める。別に僕が話すことなんてないし。
『御堂響子: 今見た。だれか火曜日来て!』
『御堂響子: 私の頭が破裂しちゃう!』
『A.Saeki: ごめん。火曜日は絶対に無理』
『NAKO: 私も火曜日は無理なんだよねー。いいじゃん。響子、超頭良くなるかも』
『御堂響子: 無理だって! ちゃんと考えてますかとか言われるって!』
御堂さんは今日の先輩とのやりとりを気にしてるのか。これは、勉強会そのものが中止まで見えてきたかも。
『NAKO: 響子怯え過ぎ』
『御堂響子: 今日怖かったし』
『NAKO: 今日なんかあったの?』
『御堂響子: 文芸部に質問に行ったらなんかめっちゃ怒られた』
『NAKO: いきなり部活に押しかけたらそりゃ迷惑でしょ。そんなの私だって怒る』
『御堂響子: そういう感じじゃなくて』
『A.Saeki: 怒ったのは蒼井くんじゃなかったけどね』
『御堂響子: その人と蒼井くんめっちゃ仲よさげだったじゃん』
『A.Saeki: かわいい見た目なのに頭良さげだったよね。もしかして付き合ってるとか?』
『NAKO: マジ!?』
『A.Saeki: いや、知らないけどね』
『NAKO: 女子が彼氏を訪ねて部活まできたらキレるよ。完全に響子が悪い』
この人たちはこのグループに僕が入っていることを忘れているのか……?
『蒼井陸斗: あの、このトーク、僕も見てるんですが……』
『NAKO: 彼女が怒った話だよー』
『蒼井陸斗: 彼女じゃないですし、あれは怒ったというより、ただ思ったことを言っただけだと思います』
『NAKO: 全部間違ってるし』
『蒼井陸斗: それより、結局 勉強会はどうするんですか?』
『A.Saeki: うーん。ちょっと保留でいい?』
保留か。このまま試験2週間前くらいにはなるかもしれない。
『蒼井陸斗: 保留ですね。わかりました』
『A.Saeki: うん。でも、質問はガシガシするからよろしくー』
『蒼井陸斗: 答えられる範囲で答えますよ』
『A.Saeki: 答えられない問題なんてないくせに』
『蒼井陸斗: 過剰評価も甚だしいですね』
付いている既読の数は4。佐伯さん、御堂さん、和泉さんと、あとは紺野さんだろうか。
『蒼井陸斗: とにかく、勉強会については保留ですね』
『A.Saeki: うん。おやすみー』
時間を確認するとすでに0時を過ぎていた。
おやすみと書かれたスタンプが送られる中、『おやすみなさい』と返してLINEを閉じた。
結局 保留か。道徳の試験対策、どうしたものか……。