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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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9話 質問


 勉強会への参加をどうするか、結局考えがまとまらないまま放課後になった。とりあえず考えるのは先延ばしにして部活へと向かう。


 パソコン室に着くと、いつものように3人はすでにいて個々に参考書やらノートやらを開いていた。挨拶だけして、僕もいつもの席に座ってノートを取り出す。


 4人とも話すこともなく勉強をする。いや、先輩はブツブツと問題にツッコミを入れながら解いているので完全に無言ではないけれど。


 そんなゆったりとした中に緊張感のある時間が30分ほど流れた頃。廊下から話し声が近づいてきて、パソコン室のドアをノックした。


「失礼しまーす」


 ドアを開いたのは見覚えのある女子。佐伯さんだ。後ろには御堂さんの姿もある。


「入部希望者? 文芸部改め勉強部にようこそ」


 先輩は勝手に部活名を改変して佐伯さんたちを出迎えた。先輩が対応したので、僕は何も言わずに様子をうかがう。


「入部希望じゃないんですが、勉強を教えてほしくて」


「よし来た、任せとけー」


 佐伯さんは明らかに僕の方を向いて言ったのだが、先輩はそんなことは無視して二つ返事をする。


「何が訊きたいのかな? 最近、後輩が優秀になりすぎて質問してくれなくてつまらなかったんだよ。いいところに来てくれたね、うん」


 なんか、先輩が解決してくれるみたいだし、僕は我関せずでいいか。


「えっ、あの、私たちは……」


「ほら、どこどこ?」


「あー、えっと、ここなんですけど」


 戸惑う佐伯さんたちも先輩に押し切られた。まぁ、僕よりも先輩の方が的確に教えてくれるだろう。


「……何がわかんないの?」


「何がっていうか、何をやるのかがさっぱりわからないというか……」


「この問題は面積を求める問題だよ? ほら、面積を求めなさいって書いてある」


「さすがにそれはわかってます!」


「なら、求めればいいだけじゃん。ヘロンの公式を使ってもいいし、普通にやるなら余弦定理から」


「それがよくわかんなくて」


「ん? 余弦定理? じゃあ、証明しよっか。三平方の定理はOK?」


「いえ、そうじゃなくて……」


 噛み合ってない感がすごい……。話を聞いた感じ、三角形の3辺の長さから面積を求めよってタイプの問題だろう。


 先輩に丸投げするのはダメっぽいので、仕方なく席を立つ。


「三角形の面積の公式はわかってますか?」


「いくらなんでもそこまでバカじゃない! 底辺×高さ÷2でしょ!」


 佐伯さんは憤ってそう答えたが、それが聞きたかったわけではない。


「それはそうですけど、辺の長さと角の大きさで面積を計算する公式を最近習いましたよね?」


 まぁ、本質的に同じものではあるけれど。


「それ確か載ってた。えっと、……これだ。2S = AB・BC・sin∠B = BC・CA・sin∠C = CA・AB・sin∠A」


 教科書読み上げて答える様子に大丈夫だろうかと不安になる。いや、大丈夫。試験まではまだ1ヶ月ある。


「はい、それです。で、問題見てませんけど、たぶん3辺の長さは与えられてるんじゃないですか?」


「うん! 蒼井くんすごい。さすが!」


「いや、話聞いてれば分かりますよ……。で、面積を求めるためにはあと何がわかればいいんですか?」


「角度?」


「確かに角度がわかればよさそうですが、角度までわからなくてもsinの値だけわかればよくありませんか?」


「同じじゃないの?」


「同じじゃないですよ。sin∠Aがわかっても、一般には∠Aは決まりませんから」


 まぁ、今の状況なら決まるだろうけど、有名角になる保証なんてない。


 そんな具合に、なんとか佐伯さんたちがわかったと言うまで解説を続けたところ10分ほどの時間が経っていた。


「なるほどー。sinがほしい時はcosを求めればいいんだね」


「なんか、全然わかってない感じが滲み出てるんですが……」


「それより、もっと3つの辺の長さから面積が一発で求まる方法ないの? これ、面倒くさい」


「ヘロンの公式ってやつがありますが、形は綺麗に書いてありますけど計算そのものは面倒ですよ。特に辺の長さにルートが入ると」


 辺の長さが全て自然数ならヘロンでやってもいいのだが、そういう問題は試験にはあまり出ない。


「ふーん」


「ねぇ、サエちゃんとミドちゃんだっけ?」


 それまで黙って聞いていた先輩が一通り終わったタイミングで口を出してきた。なんか嫌な予感がする……。


「えっと、サエちゃんって呼ばれることはないですけど……」


「私もミドちゃんって呼ばれたのは初めてです」


「そんなことはいいんだけど。聞いてて思ったんだけどさ、2人とも、考える気ある?」


 はっきり言うなぁ……。そりゃ、先輩からしてみればなんでこんな説明をって感じだっただろうけど。


「あ、あるからこうして質問に」


「そうじゃなくてさ、この問題、どれくらい考えたの?」


「「それは……」」

 

 佐伯さんと御堂さんはともに口ごもった。


「人に訊くのは悪いことじゃないよ。いいと思う。でもさ、さっきの話を聞いてると、2人がこの問題を自分で考えた形跡がないっていうかさ。蒼くん、なんか問題があってそれが解けなかったとして、どれくらい考える?」


 飛んできた質問を僕は考える。


「問題集の問題なんかだと、10分から20分くらい手を動かしてダメなら答えを見ちゃうことが多いです。問題によっては数日考えるってこともなくはないですけど。あぁ、これは数学とか物理の話で、暗記物は即座に答え見ますね」


「というのがわたしにとっての一般的な回答。さて、2人はこの問題、ちゃんと考えた?」


 僕の返答を勝手に一般的だと言って、先輩は2人に詰め寄る。


「で、でも、わからない問題っていくら考えてもわからなくないですか?」


 御堂さんはそう反論したが、その反論を先輩は受け流す。


「大くーん、パッと見てわからない問題はいくら考えてもわからないもの?」


「いや、数学とかは考えればわかるってことはザラっすけど、あんまり後輩をいじめない方がよくないっすか?」


「いじめてないよー。でも、こういう意味のない質問で蒼くんの時間が削られるのってさぁ」


 意味のない質問か。質問のレベルではなくて、質問者の心持ちを指しての言葉なんだろう。


「菜子先輩が口を出すことじゃないっすよ。蒼井は迷惑だったら迷惑って、気なんか全然遣わないではっきり言うやつっすから」


「そりゃそっか。じゃ、いいや。お小言はおしまーい」


 先輩はそう宣言すると佐伯さんたちから興味を失ったように自分の勉強へと戻っていった。


「えっと……」


 僕と佐伯さんたちの間には、とても微妙な空気が残っていた。


 面積の公式は普通1/2をかける形が書きますが、分数を入れるとかっことか面倒になるので文章中のような表記にしました。


 皆さま、良いお年を。

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