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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第7章 2学期期末試験編
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7話 ちょっとなんて知らない


「やってくれるの!? 昨日はあんなに断ってたのに、どうして?」


 朝、佐伯さんに勉強会に参加する旨を伝えると、案の定 驚いた声が返ってきた。


「担任から命令されたんで」


「先生ナイスっ」


 佐伯さんは喜んでいるというよりは安心している様子だった。


「まぁ、参加するんで。で、メンバーと場所と日時は」


 僕の口調はやる気なさげに聞こえたと思う。実際、あまりやる気はなかった。


「メンバーは、私、奈子、まゆ、響子、紺野さん、で、蒼井くん」


「……男子1人は勘弁してくれませんか?」


 この時点でもう参加したくない。


「なら、蒼井くんの方で他に男子誘っていいよ」


 佐伯さんは当たり前のようにそう言った。が、僕に勉強会に誘えるような友達はいない。そもそも、同学年の友達と言える相手って紅林さんくらいだし。紺野さんや佐伯さんは友達か微妙な感じだろう。


「……先輩でもいいですか?」


 僕の出した答えはそれだった。男子の友人が大白先輩しか思いつかないって、僕の交友関係さすがに狭すぎるか。


「先輩?」


「勉強を教えてもらうならいいかなって思うんですけど」


「うーん。奈子たちにも訊いてみるね」


 その後、「いやぁ、先輩はちょっと。気まずいし」という返答を受けた。……詰み。


「やっぱり不参加で」


「なんでー?」


「女子5人と僕1人とか、耐えられないんで。すみません」


 うん。道徳の試験は頑張って作文しよう。


「だから、男子誘ってもいいってば」


「いや、僕、そういう友達いないので」


 クラスの状況は知っているんだから、佐伯さんもそれくらいわかるだろうに。


「……男子1人でも大丈夫だよ。気にしなくてOK、OK」


 気遣わしげにそう言う佐伯さん。別に憐れみを受けたいわけじゃない。


「百瀬くんには声かけようと思ったんだけど、黒崎さんたちとずっと一緒にいるし、ちょっとね」


 ちょっと、か。そのちょっとがクラスの微妙な空気を作っているんだろう。


「じゃあ、僕が声をかけておきます」


 僕は空気を読まないことに定評があるあの先輩の後輩だ。ちょっとなんて知らない。


「えっ、あっ、うん。なら、うん、そうして」


 なんとも微妙な返答だったけれど、百瀬くんを誘うことに問題はないと。部活の合間を縫って出てくれるといいけど。


「じゃあ、メンバーはとりあえずそんな感じで、場所と日時は?」


「場所は前みたいにファミレスかなぁ。日時は……みんなの予定が全然合わないんだよね」


「まぁ、中間試験の時みたいに来れる日に来るって感じでいいんじゃないですか? ちなみに、僕は月水金が無理です」


 この勉強会の優先度はさすがに部活よりも低い。


「そうだね。とりあえずLINEグループをって、同じメンバーだから前のを使えばいっか。予定はあのグループで出し合うってことでいい?」


「僕は別に構いません」


「じゃあ、勉強会についてはそんな感じで」


「はい」


「あとさ」


 話は終わったと思って自席に戻ろうとしたところを引き止められる。


「なんですか?」


「数Aの宿題なんだけど」


「宿題くらい自分でやりましょうよ。それだって試験勉強になるんですから」


「だから! 答えを教えてってわけじゃなくて、どう解くの?」


「今日出てる宿題って、メネチェバ使うだけなんですが……」


 公式に当てはめるだけの問題。どう解くも何もない。ただの計算練習。


「メネチェバ?」


「メネラウス・チェバの定理。昨日授業でやりましたよね?」


「……寝てた、かも?」


「授業中に寝ないでくださいよ……」


「あ、蒼井くんだって、勉強してる時に眠いって思うことはあるって言ってたじゃん」


「いや、それは夜の話であって、授業時間中に眠くなったりは……。ましてや、昨日の数Aって1限ですし」


「数学ってだけで眠くなるものなの!」


 ダメだ、意味がわからない。佐伯さんは勉強する気になったはず。なら、授業中は基本的に考えている時間が主なわけで。それでどうして眠くなるんだ。十分な睡眠を取ってないのか。……たぶん、そういうことではないんだろうけど。


「夜はちゃんと寝た方がいいですよ」


「夜寝てても、数学は眠くなるの」


「ちゃんと寝てても、頭使ってる時に眠くなると……」


「蒼井くん、やっぱ変。授業中に眠くなるとか普通だし」


 このセリフを先輩が言ったならまだわかる。簡単すぎて考えるまでもないから眠くなると、それならわかる。でも、おそらくそうではないわけで。


「勉強、やる気になったんじゃないんですか?」


「やる気になったって眠いものは眠いんだから仕方ないでしょ!」


 終いには怒鳴られた。……価値観が違いすぎる。僕の思う勉強と佐伯さんの思う勉強は完全に別物である気がする。


「まぁ、そういうものなんですね。で、とりあえず宿題ですけど、これ、定理を使うだけなので。それで、その証明を昨日授業でやったんですけど」


「証明とかいいよ。覚えるから」


「証明せずに定理を使うんですか……」


 それ、気持ち悪くないのか? なんで成り立つのかわからない定理を使うって、小学生だった頃ならともかく、今はちょっと気持ち悪くて僕はあまりしたくないけど。


 こんなギャップのある相手に勉強を教えるって、はたしてできるのだろうか……?


 クリスマス企画を書こうかとも思いましたが、何も思いつかなかったのでありません……。平成最後のクリスマス、私は普通に授業日です……。

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