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30話 頑張る


「蒼井くん! 私、生徒会役員になっちゃった! なれちゃった! どうしよう!!」


 木曜日、登校すると佐伯さんがハイテンションで話しかけてきた。佐伯さんは、文化祭の一件以来仲良しさんたち以外と話しているのを見る機会は減ったが、別に大人しくなったわけでもなく、このテンションはついていけなかった。


「そうですか。おめでとうございます。あまり頑張りすぎないでください」


 そう言いつつ、目線では紺野さんを探した。結果、あなたの兄の犠牲になる1年生は佐伯さんになりましたという意味を込めて。でも、紺野さんはまだ登校していないらしく、教室にはいなかった。


「こういう時って、頑張ってって言うのが普通じゃないの?」


「たくさんの人から頑張ってと言われていると思うので、僕からは頑張らないでと言っておきます」


「……蒼井くんって何が何でも多数派になりたくない人なの?」


 純粋に頑張りすぎないようにと言いたかっただけなのだが、なんか曲解されてしまった。


「そういうわけではないですよ。頑張りすぎるのは良くないと実際に思っただけです」


「それ、異常なほどに勉強してる蒼井くんが言う? 蒼井くん、自分が倒れたの覚えてる?」


「それで頑張りすぎると倒れることを学習しましたから。僕の二の舞を演じないようにと思っただけです」


「本気で心配してくれてるなら、ありがとう。でも、大丈夫。私、頑張るから」


 頑張らないようにと言っているのに、どうもこの人とは話が噛み合わない。別にいいけど。


 ここまで話したところで紺野さんが登校してきて、佐伯さんは紺野さんに同じ報告をするために僕の前を離れた。


 報告を受けた紺野さんは曖昧に笑い、僕と同様に頑張りすぎないようにと告げていた。佐伯さんは僕の時以上にその言葉の意味を問い詰め、その対応に困る紺野さん。僕はそれに巻き込まれないように参考書を開いてそちらに集中することにした。



 木曜日の5限には、総合的学習の時間という授業が設けられている。この1時間は、必要なものに適宜当てられる。試験前は自習時間と化すし、文化祭前は準備時間になった。そして、今日は。


『新しく生徒会長になりました紺野 嶺です。本日は貴重な授業の時間を少し使わせてもらって、この放送をさせていただいています』


 あれだけ選挙の時に大見得を切ったこともあってか、さっそく何かをやると。


『この度、無事生徒会役員も決定し、本格的に活動するにあたり、具体的政策について、本来は生徒会通信としてプリントで配布するところを、今回は時間の都合により放送という形を取らせていただきます。また、改めてプリントによる配布は行いたいと思います』


 なんとなく佐伯さんの方を窺うと、この放送については知らされていなかったようで驚いている様子だ。会長、役員に連絡くらいしておけよ……。


『第1に、TwitterとLINEに生徒会のアカウントを作成いたしました。生徒会への要望はこちらに書き込んでくださるか、役員に直接仰ってもらえれば、役員会に議題として取り上げたいと思います』


 これに関しては選挙の時に掲げた政策だ。当選から1週間も経っていない早い対応だが、まぁ、その早さにだって納得もいく。


『第2に、私が普段から耳にする要望に対して、いくつかの政策を実施します。


 まず、部費を増やしてほしいという要望。これに関して、無条件の増額は難しいというのが現実です。よって、特定の条件を満たした部に関しては増額をするということで、先生方からの承諾をいただきました。

 条件は簡単。成績です。部員全体の評定平均が一定水準以上の場合、部費を増額します。これには批判の声もあるかと思います。成績と部活動は関係ないと思う方も多いかと思います。そのような方は、直接私に言ってください。ご理解いただけるように説明いたします。


 次に、合唱祭の3年生の参加に関して。本校では合唱祭は3月で、卒業式よりも後に実施される関係で、3年生は不参加ということになっています。しかし、合唱祭に参加したいという3年生の声を耳にすることも少なくありません。

 そこで、3年生も有志参加という形で参加可能にすることを検討しております。受験等が早々に終了した先輩方はぜひ参加していただければと思います。詳細に関しては、1月頃に生徒会通信にてお知らせいたします』


 その政策発表にクラスメイトたちはそれぞれに微妙な反応を示す。2つ目の政策は、僕たち1年生への関係は薄い。問題は1つ目。この高校の部活所属率は90%以上。部費は皆にとって重要な問題らしい。まぁ、それでも、結局はあまり影響のある政策にはならないだろうけど。


『第3に、今後、定期的に生徒会主催でイベントを行いたいと思います。ハロウィンは間に合いませんでしたが、クリスマスには生徒会主催のクリスマスイベントを行う予定です。20日から23日の間くらいの参加しやすい日程にする予定ですので、ぜひ参加してください。本日の生徒会からのお知らせは以上です』


 イベント。規模や場所なんかにも寄るだろうけど準備が大変そうだ。そんな無理矢理仕事を作らなくてもいいものを。


「今年の生徒会は色々と活動的ですね。さて、そんな生徒会にこのクラスから唯一の1年生役員が出ることになりました。佐伯さん、前に」


 放送が終わると担任はそんな話を始めた。促されるままに佐伯さんは教卓の前に立つ。


「佐伯さんが生徒会役員になることが決まりました。生徒会は忙しいところもあると思いますが、皆さん協力してあげましょう。佐伯さん、一言」


「一言ですか? えっと、あの、今の放送のこと私 聞いてなくて、えっ、そんなことやるの?って感じなんですけど、やるからには頑張ります! あとは、えっと、何か要望とかあったら、私に言ってくれればちゃんと会長に伝えます。……こんな感じで」


 その佐伯さんの挨拶への反応は微妙なものだった。拍手をするって雰囲気でもなく、訪れたのは沈黙。まぁ、生徒会頑張りますと言われても、そう頑張ってというだけであって、自分に関係のない話だから反応だって薄くなる。

 もちろん、僕だって特に反応はしなかった。見たところ紺野さんもそうだった。でも、僕と紺野さんはおそらく心で決めていたと思う。佐伯さんに頑張れとは絶対に言わないと。


 気ままに書いていたら6章が変に長くなってしまっています。何をもって6章の終わりとするか微妙なのですが、あと3話くらい続きます。

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