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27話 トリックオアトリート

 この話を10月31日の投稿分にできて満足です。まぁ、狙ったわけではなく、偶然なんですけど。


「昨日の選挙の結果は会長、副会長ともに信任多数で当選となりました。そこで、書記や会計をやりたいという人は、今日の放課後に生徒会室に集まってください」


 朝のHRで、担任は特にもったいぶることもなく選挙結果を口にした。生徒側の反応も特になし。結局、生徒会選挙への関心は大したものではないということだろう。

 残念なことに会長は問題なく当選か。その下で働くことになる人たちは気の毒なことだ。それはもちろん、僕にとっては他人事であるのだが。



「蒼井くん、生徒会室行くの?」


 放課後、教室から出るところを佐伯さんに呼び止められた。


「行きません」


 それだけ答えて歩き出すと、佐伯さんは隣についてくる。


「えぇー、一緒に行こうよ」


「僕は生徒会に入る気はないので。佐伯さんは行くんですね」


 僕の向かう先はパソコン室。今日は火曜日なのだが、昨日、「明日は部活やるのー!!」と先輩が言い張ったのだ。何をする気なのだか。

 生徒会室は職員室の近くなので、途中までは同じ方向に歩くことになる。


「この集まってって、やりたい人であって、事前に声かけられた人じゃないよね?」


「話によると事前に役員を揃えられなかったらしいですよ。まぁ、事前に決まっていたのだとしても、形式上はやりたい人を集めるという手続きを取ったとは思いますけど」


「ふーん。それにしても、会長の演説すごかったよね!」


「すごいっていうより、型破りでしたね」


 少し興奮気味に語る佐伯さんとは対照的に、僕はテキトーに返す。


「あの人の生徒会に入ったら、色々出来そうな気しない?」


「色々やらされる気はしますね」


 今年の生徒会は、色々やるというのが権利ではなく義務となりかねない。あの会長の下で働くのはさぞかし大変なことだろう。


「やらされるかぁ。確かに忙しくはなりそう。でも、内申とかもらえるよね? 私がテスト前に絶望することもなくなったり?」


「さぁ? 知りません」


 しかし、生徒会に入っているからといって、試験で赤点を取れば補習になるのは変わるまい。たぶん、佐伯さんの期待しているような効果はない。むしろ、時間が奪われる分、より厳しくなるんじゃないか?


「それで、蒼井くんは本当に入らないの? あの会長直々に誘われたんでしょ?」


「入りません。面倒ですし。それに、あの会長なんか嫌いなんで」


「……なんかさ、蒼井くんってみんなのために頑張る人嫌いって感じあるよね。私が蒼井くんとちゃんと仲良くなったのって、文化祭の後でみんな大っ嫌いだーって言ったからってとこあるでしょ?」


 腑に落ちない。僕はあの会長がみんなのために頑張っているとは思ってない。あと、僕と佐伯さんってちゃんと仲良いのか? 挨拶とかはするけど、友達かと言われると微妙な感じだと思うのだが。


「蒼井くん、みんなって言われるの嫌いでしょ? みんなやってるよって言われたら、みんなって誰だよって思うタイプ」


 まぁ、確かに『みんな』と言われるのは嫌いかもしれない。集団行動が嫌いなのだから、それも当然な気がする。


「生徒会長が生徒の総意みたいな顔をして話すのも嫌いなんじゃないかな?」


「違うとは言えませんね。ただ、あの会長が嫌いな理由がそうだとは、あまり思いませんけど。まぁ、生徒会に入るつもりなら、頑張り過ぎないように気をつけてください」


 それだけ話したところで、佐伯さんと僕は別れた。



「トリックオアトリート!!」


 パソコン室に入ると、マントを着た小さなカボチャ頭がそう叫んできた。カボチャを被っているせいで前が見えないのか、動きがかなり危なっかしい。


 今日ってハロウィンか。完全に忘れてた。先輩、被り物とかマントとかウキウキして用意したんだろうな、他に使い道なんてないのに。


「トリックオアトリート! トリックオアトリート!」


 カボチャ頭がそう連呼してまとわりつく。残念ながら、ハロウィンであることを失念していた僕は振る舞えるものを持っていない。


「ハロウィンって子どもがお菓子をもらうイベントですよね。先輩って子どもですか?」


 見た目は完全に子どもなわけだが、この質問に対して先輩は絶対にそうだとは言わない。


「え? ハロウィンって、仮装して意味も考えずにトリックオアトリートって叫びまくるお祭りじゃないの?」


 カボチャ頭のせいで声がこもっている。ちょっと別人感があって仮装っぽいといえば、まぁそれっぽい。


「……違うとは言えないのが、なんとも」


 そう考えると、ハロウィンってかなりの奇祭だ。


「ふぅ。これ、案外重いんだよね」


 先輩はカボチャ頭を外してそれを机の上に置いた。パソコンとパソコンの間に大きなカボチャ。シュールだ。


「さて! 10月31日が何の日だか知っているかな?」


「ハロウィンでしょう?」


 てか、さっきハロウィンって言ったよな?


「残念! マルティン・ルターが95ヶ条の論題を張り出した日でした!」


「知りませんよ!」


「はい、何年!」


「1500年くらい……いや、覚えてないですよ」


 なんだ、この意味不明なやりとり……。


「ちなみに秩父事件も10月31日らしいよ」


「それは1884年ですね」


 人は走るぞ秩父事件とか、そんな語呂合わせだったはず。


「あと、安倍晴明の命日」


「先輩、今日のためにわざわざ調べたんですか?」


 前の2つはともかく、安倍晴明の命日を最初から知っていたとはさすがに思えない。いや、先輩ならもしかしたらありえるかもだけど。


「調べたよ。Wikipediaの日付のページって見てると面白いよね。自分の誕生日とか。私、阿部正弘、小松帯刀、東久邇宮稔彦王、そしてなんと言ってもフロイトと同じ誕生日!」


 そう言われてもいつだかわからない。これ、まだ過ぎてなかったとしたら、「あの時誕生日アピールしたのに祝ってくれなかったー!!」とか言われるかも……。……フロイト、後で調べるか。


「蒼くんは誰と同じ誕生日?」


「突然そう訊かれて答えられる人がどれほどいますかね」


 僕の誕生日は2月14日となかなかに覚えやすい日ではあるが、命日ならともかく、誰の誕生日かなんて把握しているわけもない。


「紅ちゃんは、ガリレオ、ベンサム、前田利家と同じ誕生日なんだって!」


「この(くだり)、1回もうやってるんですね」


 紅林さん、よく答えられたな。ガリレオか。こっちも後で調べておこう。


「それで大くんが」


「10月19日」


 大白先輩は先輩の言葉に被せるように言った。10月19日……1週間ちょっと前。


「えっと、おめでとうございます?」


 祝うには遅すぎるような気がして、なんか疑問形になってしまった。


「だから今日は、誕生日を誰にも祝われなかった可哀想な大くんのちょっと遅れたお祝いをしよー! わぁー!!」


 先輩はわざとらしく手を叩く。


「いや、祝ってくれる人いましたから。修学旅行先で、盛大に」


 大白先輩の抗議の声は先輩には届かない。先輩はカボチャを被り直して、「トリックオアトリート! 蒼くん、ケーキよこせー」などと言ってくる。無茶言うな。


 それから、なんだかよくわからない誕生日会という名目の何かが始まった。


 ついに現実の日付が物語内の日付を追い抜いてしまいました……。

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