25話 変革
生徒会選挙当日になろうが、特に変化なんてない。周りは生徒会選挙なんてものに興味はないようだ。まぁ、僕だって自分が巻き込まれていなければ興味なんてなかったことだろう。
今回の選挙は、会長、副会長ともに信任投票。つまり、盛り上がる要素のかけらもない。ほとんどの生徒にとっては、信任するって欄に丸を書くだけの選挙だ。僕は、意味なんてなくとも、会長の方には不信任に丸をつけるつもりではあるけれど。
まぁ、僕がそんなささやかな抵抗をしたところで、結果が不信任なんてことにはならないだろう。あの会長不適合者が生徒会長となるのはほぼ間違いない。
そんなの、僕には関係のない話のはずなのだけど。
紺野さんと公園で話して1週間、生徒会役員の一件は選挙当日の今になっても微妙な状況らしい。
紺野さんによると、会計と書記の1人は2年生から決めるということですでに候補も定まっているそうだ。問題は残りの書記1人。生徒会に1年生を1人は入れるべしという不文律があるらしく、その1人が決まらないとのこと。
そんな状況で5時間目のLHR、形ばかりの演説と選挙が実施される。
関心のない大多数の生徒たちは面倒くささを隠すこともなく、だらだらと体育館に整列した。その時点で予定表よりも5分ほど押していた。でも、演説するのは2人だけなので大した問題でもないだろう。
選挙なんて興味がないという空気がひしひしと流れる中で、現生徒会副会長の進行で演説会が始まった。
「では、生徒会長候補、紺野 嶺くん、演説をお願いします」
そう促され、会長候補は壇上へと上がる。
「生徒会長候補の紺野 嶺です」
そう言って頭を下げる様から、人前に立つことに慣れていることが伝わってくる。
「皆様のうちの一体何人が、今からの私の話を聞いてくれるのでしょうか」
平坦な声での問いかけ。
「きっとほとんどの方が、早く終わってくれと、ただそれだけを思っているのではないでしょうか。私の言葉なんて関係なく、再選挙なんて面倒だから信任はする、そうではないでしょうか」
会長候補は壇上からこちら側を見回す。見つめ返す者、顔をそらす者、未だに興味なさげな者、反応は様々。
「生徒会選挙に興味が持たれない、なぜか。それは、生徒会役員なんて誰がなろうと関係ないと皆様が思っているからでしょう。それに私は同意します。確かに、今までのままでは、生徒会役員なんて誰がなろうと関係ない」
その型破りな演説に、生徒たちはにわかに興味を持ち始める。その視線は壇上へと集まっていく。
「私はその現状を変革します。私は生徒会役員を選ばなくてはならないものへと変えます。私が生徒会長になったなら、様々な政策を実行します。それが皆様にとって仁政か悪政かはわかりません。それでも私は、私の思う正しさを実行します。それが悪政だと感じるなら、それは選挙で私を選んだからだと認識していただきたい」
つまりこれは、自分はやりたいようにやる、それを不満に思ったとしても自分を選んだお前らが悪いという宣言。
「私に委ねたくない方は、面倒くさがらずに不信任に丸をしてください。たったそれだけのことで、この変革は失敗します。
さて、ここまでの話には具体的な政策案がありませんから、判断しかねるでしょう。それでは、私が生徒会長になった暁には——」
それから会長候補は前に文芸部の前で話した政策を説明した。生徒のほとんどはその話をちゃんと聞いていた。
演説を終え頭を下げた会長候補には、惜しみないというほどではないにしても、大きな拍手が送られた。演説はおそらく成功していた。これで当選すれば、変革を行う言質を得たことにもなる。
生徒会役員は本格的にオーバーワークになりそうな予感。
その後の副会長候補の演説は無難なもので、会長候補と一緒に仕事ができるかは甚だ疑問だった。
演説が終われば教室へと戻っての投票。教室へと戻る生徒たちの多くは周りのものと、会長候補を信任するか否かについて口々に語っていた。
あの演説は不信任票を増やす結果にはなるだろうが、それでも半分もの人が不信任に入れるとは思えない。対立候補がいるならともかく、信任投票で落ちることなんてそうそうない。
それでも僕は少しの期待を持って不信任に丸をつける。副会長の方はどうでもよかったので信任にしておいた。
投票結果は明日の朝には発表されて、残りの生徒会役員も今週中には決まるはず。
僕としては現状維持を願うばかりだった。