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22話 生徒会役員


 僕が教室に入り、間も無くしてHRが始まった。それから続けて1限の道徳。


 今日の道徳は、キャリア教育とも絡めて『人のために働くということ』がテーマ。完全に僕の興味の外。ただ、このテーマは、教師という職業の人間が喋るとなかなかに説得力があるものだとは思った。


 そんな1限を終えて、2限の英語との間の休み時間。たった10分しかないその時間を使って、僕なんかに話しかけてくる奇特な人がいた。


「蒼井くん、さっきの人、誰?」


 佐伯さんだ。紺野さんなら納得もできるのだが、佐伯さんに先の話は関係あるだろうか。


「次期生徒会長でしょうか。今のところ、生徒会長候補の人です」


「ふーん。蒼井くん、生徒会に入るの?」


「入りませんよ」


 それから、佐伯さんは少し目を泳がせながら話し出した。


「さっきの、蒼井くんとその生徒会長の話、廊下で話してるもんだから、結構みんなに聞こえててさ」


 ……冷静になると、なぜ周りの耳を気にしなかったのか。いや、別に僕自身は聞かれて困るようなことを言ったつもりはないけれど、さっきの話は紺野さんも関係者になっていて、どう考えても配慮が足りない。


「なんか、蒼井くんが紺野さんをめぐって上級生と喧嘩をしているという噂が立ちつつ」


「なんですか、それ。話、聞こえてたんじゃないんですか?」


「なら、何の話だったの? くわしく(・・・・)


 この人は単なる野次馬根性で僕に話しかけてきたようだ。まぁ、クラスに佐伯さんほど僕に気軽に話しかけてくる人はいないし、こういう役は適任なのか。


「生徒会に誘われて断ったら、なら紺野さんを勧誘するのを手伝えって言われて、それも断ったってだけですよ」


「蒼井くんが生徒会に? ……向いてなさそう。あっ、でも、予算の計算したり、生徒会通信の文章考えたりするのは向いてるかも」


「表に立つのは向いてないけど、事務作業は適任ってことですか?」


「うん。蒼井くんって、国会議員より官僚って感じ」


 それが周りから見た僕の評価なのか。

 生徒会という組織が、学校内で国会と内閣のどちらに近いのかはピンとこない。学校で三権が分立されているかというと、結局、全部職員室が握ってるんじゃないのかと思わなくもないし。


「まぁ、話としてはそれだけで、単に会長候補には協力しませんって言っただけですよ」


「ふーん。なんか、つまんない」


「面白くなくてすみません」


 全く気持ちは込めずにそう言った。佐伯さんを面白がらせる必要なんて僕にはない。


「ねぇ、生徒会役員って何が基準で選ばれるの? なんで、蒼井くんと紺野さん?」


 その質問に、あの会長候補の言葉を説明するつもりもなく、僕は簡単に答えた。


「成績だそうですよ」


「うわ、即座に納得。なら、百瀬くんも声かけられてたり?」


「それは知りません。でも、彼は部活とか忙しそうですけどね」


 そんなことを言い出したら、誰が生徒会役員なんてやるんだって話ではあるけど。まぁ、中にはやりたがる人もいることだろう。1年生だけでも約270人もいるのだから。


「生徒会かぁ。私に話が来たら引き受けるのになぁ。バカだから無理だけど」


「引き受けるんですか?」


 中にはいるだろうと思ったけど、まさか目の前にいるとは。


「なんか楽しそうじゃない? こう、みんなの代表になるって感じ」


 その感覚は僕にはわかりかねた。でも、そう思う人もいるのだろう。そう、こういう人こそ生徒会に誘われるべきだ。


「推薦しておきましょうか?」


「そしたら蒼井くんは官僚やってね。私は議員をやるから。事務作業は任せた!」


 どうもこれは軽口の(たぐい)らしい。僕が「なら、やめておきます」とだけ返したところで、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 それから放課後になるまでは、誰からも話しかけられることはなかった。が、放課後になって部活に向かおうとバッグを背負ったところで、紺野さんの視線がこちらを刺していることに気づいた。

 首を傾げる動作で伺いを立てると、紺野さんは視線を外した。


 ならば気にするまいと歩き始めると、ポケットが震える。


『紺野: 2人で話がしたいです。梅桃(ゆすら)公園まで来てくれませんか?』


 話がしたいというのは別にいいのだが、なぜ公園? 梅桃公園というと、ここから少し歩いところにある公園。いつだったか、夜に山城くんと会った場所だ。


『蒼井: 校内ではダメですか?』


 公園まで行くのはさすがに面倒くさい。というか、すぐ近くにいるのにLINEでのやり取りというのも面倒くさい。意図があるのだろうから、こちらから話しかけたりはしないけど。


『紺野: 2人でいるところを同級生に見られたくありません』


 僕と会長候補との会話をクラスメイトたちは知っているわけで、紺野さんがそれについて僕に尋ねるのは別に不自然でない気がするのだが。

 いや、耳目のある場所でしたくない話があるのかもしれない。例えば、兄の陰口とか、そういうの。なら、別にいいだろと言うのも違うか。


 しかし、それにしても公園は遠い。片道15分はかかる。


『紺野: 面倒なことを言ってすみません』


 こう謝られると困る。ただ嫌ですと断るのは気がひける。


『蒼井: すみません。部活がありますので、公園まで行くのはちょっと……』


 言い訳じみた言葉を添えての断り。僕はスマホに目を落としたまま、教室を出た。


『紺野: 19時くらいまで待てば大丈夫でしょうか?』


 え、本気? そのメッセージを見て、動かしていた足が止まる。2時間以上も待つ? なんでそこまで?


『蒼井: そこまでして話したいことがあるんですか?』


『紺野: はい。相談があります。すみません』


 それでも断るなら、その理由は公園まで行くのは面倒なのでということになる。実際面倒だし、断ってもいい。ただ、断ったら断ったで、より大きな面倒事になって戻ってくる予感がする……。


 どうも、僕は紺野さんを友達だと思ってしまっているみたいだし、多少の面倒は許容するか。これだから、人間関係ってのは面倒くさい。


『蒼井: では、部活に少し顔を出したら向かいます。17時は無理そうですが、17時半までには着けると思います』


『紺野: ありがとうございます。すみません』


 なんというか、今日はやっぱり厄日だと思う。


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