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21話 自分の中の正しさ


 全部宇宙人のせいなら、宇宙人ってやつは非常に性格が悪い。


 朝、学校に着くと、かの生徒会長候補が教室の前にいた。きっと妹たる紺野さんに何か用があったのだろうと、無視して教室に入ろうとしたら声をかけられた。厄日だ。


「文芸部には関わらないように言われてしまったから、君個人に声をかけることにした」


 教室前の廊下にて立ち話が始まってしまう。1年生の教室が連なる廊下に2年生がいるのは目立つ。やめてほしい。


「文芸部に関わらないでほしいというのは、文芸部の各メンバーに関わらないでほしいという意味ですよ。前に言ったように、僕たちは生徒会には入りません」


 はっきりそう言っても、会長候補は柳に風とばかりに受け流す。


「生徒会選挙まで1週間を切った。対立候補がいない以上、ボクの当選はほぼ確実だ」


「そうですね。おめでとうございます」


 意識的に棒読みにして言った。相手が機嫌を悪くして立ち去るなら儲けもの。


「ほぼ当確が出たこともあって、本格的に役員の選出を考えようと思う」


「少なくとも僕はやりませんよ。紅林さんだってやらないと思います」


「残念だが、それについては承知した。確かに、ボクの案を実行するのなら、君たちは不向きなんだろうと納得した」


 粘られるかと思いきや、アッサリと退いたので正直拍子抜けだった。しかし、これだけの話なら、わざわざ朝に待ち伏せする必要なんてないだろう。


「それで、勧誘するのを諦めた僕に対して何の話が?」


「妹を勧誘するのを手伝ってほしい」


「はい?」


 妹というと、紺野さんのことだろう。さすがにここに間違いはないはず。それで、なぜ僕に手伝い? 意味がわからない。


「あいつは、ボクが思うに優秀だ。単純に、安心して仕事を任せるに足る人間だと思っている」


「まぁ、異論はないです」


「だが、なぜか、あいつは自己評価がやたらと低い。声をかけた結果、足を引っ張るからという理由で断ってきた」


 紺野さんならそう言いそうではある。特に、兄と自分を比較することで、自分を卑下しているようだし。


「やりたくないと言っている人に、無理にやるように言い聞かせるなんて真似はしたくありません」


 それは、僕がやられて1番嫌なことだと言ってもいい。それを行いたくはない。


「あいつがやりたくないと言うなら、ボクだって諦める。だが、足を引っ張るなんてありもしない理由で断られるのは納得がいかない」


 この人はやはり関わると面倒くさそうだ。どんな理由であれ、断ったということはやりたくないということだと僕なら判断する。


「その手伝いに関しても、僕の答えはNOです。やりたくありません」


「いや、だが、あいつが足を引っ張るなんてことはないと蒼井後輩だってわかるだろ?」


「やりたくないとはっきり言っても諦めないじゃないですか……」


「蒼井後輩は妹と友達なんだろう? あいつの自己評価の低さは改善すべきと思わないのか?」


「この点を改善してやろうなんて思っているなら、その時点で友達とは言い難いでしょうね」


 欠点を直してやろう、導いてやろう、そんな上から目線の友達なんてあるものか。


 僕とこの人の意見は悉く合わない。平行線どころか、同じ平面に乗っていない感じだ。


「ボクの考えは間違っているか?」


「自分の中の正論を、他人の中でも正論だと思って振りかざす人間が、僕は心底嫌いです」


 そう言いつつも、それはきっと誰もがやっていることだとは思う。


 自分の中の正論を、他人の中では正論でないと理解しつつ振りかざす。それは僕だってよくやっている。意見を言うってのはそういうことだ。


 僕が嫌悪しているのは、自分の中の正しさが、他人の中でも正しいであろうという思い上がりなのだろう。

 でも、そう思うのはきっと普通だ。自分にとっての常識が、世間一般でも常識だと思うのは、たぶん普通だ。


 僕が今、嫌いだと断言したそれは、きっと、僕を含め誰もが持っている。


「……わかった。蒼井後輩が真白先輩のお気に入りだって理由が少しわかった気がする。君は本当に、よく考えているって顔をする。いいよ。悪かった。君は君の思うように、妹のいい友達でいてくれ」


 会長候補はそう言うと静かに去っていった。

 教室に入ると、それなりに視線を感じる。廊下で上級生と口論をしていたのだから当然。そして、その視線の中には紺野さんのものも混じっていた。


 今の話、全部本人に聞かれているって、どうなんだ?


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