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トラップ  作者: いももち
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出会いの時間

俺達が集まってどのくらいたっただろうか。時間を気にしないほど話し込んでいたらしい。外はこれから暗くなるところで恐らく夕日がきれいに見えるであろう。そろそろ話しの話題がつき始めたところで磯貝が時計を見て

 「もうこんな時間か。ゲームのイベントをやらないといけなかったんだ」

 と席を立っていった。

 「悪いがこれにて失礼するよ。また明日な」

 そういうなり、荷物を持って走って出て行ってしまった。自分のごみを置きっぱなしにしたまま。俺たちは手を振ることぐらいしかできず。いきなりのことで返事が出来なかった。

 「突然すぎるだろ。自分のごみぐらい片付けていけよ」

 「びっくりしたね。ばいばいも言う隙がなかったね」

 あんな失礼な奴に小川さんの笑顔のばいばいをあげる必要などない。手を振ってもらえただけ感謝しないといけないぞ。

 磯貝が帰ってしまったので二人きりになったが何となく気まずい。今まで話の中心にいた人間がいなくなるとどうしていいかわからない。小川さんとは連絡先を交換した時以来話してもいないから、今日ここにいることが不思議でたまらない。

 「俺らもそろそろ帰りますか?」

 「その前にさ、伊藤君は高校生活で何かしたいことあるの?」

 「いや特にないけど」

 俺は返事をしつつ帰る準備を始める。

 「なにかしらあるでしょう」

 「いや、ほんとにないんだけどね。磯貝は彼女ほしいって言ってたな」

 「磯貝君は言いそうだね」

 「小川さんはあるの?」

 「私はあるよ」

 何がしたいのと聞きながら俺は席を立った。小川さんは立つ様子がない。

 「それはね、高校生活が終わったら死のうかなって思ってるんだ」

 片付けの動作が自然と止まった。何を言っているんだ。小川さんの顔を見るといつもの素敵な笑顔だ。普通だったらこんなにかわいい子の上目遣いは最高だが今は不気味に映る。その笑顔の奥には隠されていることが多くあるのではないかと思ってしまう。

 「どうして?」

 そんな言葉しか出なかったが今の疑問を一番に解決する一言だ。

 「理由は、高校生を卒業しても特にいいことないからかな。大学生卒業したらにしようかと思ったけど受験めんどくさいから高校生で最後にするの。一番楽しい時なんて今ぐらいだと思うからね」

 俺は立ったままその答えを聞いた。小川さんはテーブルに置いてあるカバンの上に腕を乗せ、視線はその手の指先を見ながら答えてくれた。しばらくの間沈黙があった。俺が何か言う番なのだろうかなんて言えばいいかわからない。

 「伊藤君はどう思うかな」

 俺が何も言えないのを察したのか小川さんが助け船を出してくれた。

 「まあ、人それぞれだからな」

 俺が絞り出した言葉はそんなものだった。そんな当たり前のことしか言えなかった。

 「だよね。じゃあ帰ろっか」

 俺の返事を聞いて、小川さんはゆっくりと立ち上がった。俺たちは各々のごみを捨ててから店を出てその場で解散した。小川さんもまた明日ねと言い、駅の方に消えてった。いつかその明日が来なくなるのだろう。

 帰り道、混乱が解けてきた頭で考えた。小川さんの言っていることは正しいとは言えないがそういった選択があるのは確かだ。人はいつ死ぬかなんてわからない。でも、人はいつでも死ぬ事は出来る。それは苦しい時にも楽しい時にも。学生のうちはとても幸せだと誰もが言うであろう。この時に戻りたいと願う人も大勢いるはずだ。社会の事はよくわからないが親や周りの情報を聞いているとあまりいい世界ではないことが多く言われている。そんな社会で一所懸命に生きるよりは今の学生という幸せな時期を満喫するだけして、苦しいことを何もせず人生を終える。それが素晴らしい人生かどうかは別だが。俺が言った通り、人それぞれである。小川さんがどういう人生を歩もうが俺が介入すべきではないが死のうとしている人を放っておいていいのだろうか。聞いてしまった以上止めないければいけないのではないか。大体そんなこと周りの人にも言っているのか気になる。俺はそんなことを考えながら橙色の光を正面から受け止めながら、家へと向かった。

 家に帰り、手を洗いトイレを済ませ、自室にカバンを放り投げた後に自らの身体もベッドに放り投げた。頭には小川さんの言葉が反芻していた。俺が深く考える筋合いはないだろうが言われた当事者としては気になってしまった。これから先、小川さんと一緒に何かすることがあるのだろうか、俺は小川さんが最後の最後で人生を満喫できるようにと考えないといけない。どういう思い出を残していくのだろうか。明日からどういう顔をして会えばいいのかわからない。こんな気持ちは初めてである。時間を確認したくなり、ポケットに入れたままの携帯を取り出す。もうすぐ19時になるようだ。もうすぐ夜ご飯の時間だ。少しでも考えを取り払いたく一人脳内晩飯クイズが開催される。からあげか大穴お刺身の盛り合わせか。


 磯貝はとても騒がしくラジオを聞いている感覚になる。止まることのないおしゃべりは俺が聞いているかどうかは本人には関係ないことのようだ。上の空のままうんやおー、なるほどと言うだけで勝手に話が進む。磯貝からの質問や問いかけは特にないからこそ成り立つ。お昼休みの時間、やや騒がしい教室内はお昼ご飯を食べる者、おしゃべりに費やす者と様々である。その中の住人として俺と磯貝が互いに向かい合いながら、俺は自分の席に磯貝は俺の後ろの席に座っている。たまたま本来の席に座る人がいないから使えるが勝手に座っていいだろうか。お昼ご飯を誰かと食べるのは高校生になって初めての体験だ。中学生の時には適当に席周りで机をくっつけてお昼ご飯を食べていた。仲良い同士じゃない所はお通夜の宴会場よりも静かでこちらの方が故人偲ぶには適した空気感だったであろう。磯貝の話は昨日の帰った後の生活を教えてくれる内容だった。俺は磯貝の生活にそこまで興味ないが、ゲームがどう夜ご飯が好きなおかずでと聞いてるだけで磯貝のことを詳しく知れてしまう。一ヶ月もしたら磯貝マスターになれそうな勢いだ。なりたくはないが。

 「春はどうだったんだ。あの後小川さんと何話したの」

何故か磯貝は下の名前で呼んでくる。伊藤って呼ぶのは普通すぎるからなと言っていたが、昨日まで伊藤君だったのに一日で何があった。俺は苗字でも名前呼びでもないお前と言っているけどな。

 「お前が帰った後はすぐに帰ったよ。二人で特に話すこともないからな」

 小川さんに言われたことは伏せておいた。当然の判断だろう。磯貝が知る必要も無いし、そもそも人に気軽に言えるような内容でもない。

 「また、三人でどこか出かけたいよな。小川さんは一軍の連中と一緒にいることが多いから、昨日みたいなことはもうないだろうな」

 学校の五軍レベルの同士とはこういうところでは意見が合うな。俺もそれは同意する。

 「誘ったりすれば付き合ってくれそうな人だと思うけどな。いい人そうだからな」

 「誘う勇気ないとわかってて言ってるだろ。俺も春もそんなことができるほどの人間じゃないだろ。おまけにかわいい女の子だぞ。ある意味で天敵だよ」

 磯貝は教室にいる小川さんに目線を移した。小川さんは明るい仲間たちと楽しく雑談しているようだ。一軍が集団となっていてもそこまで騒がしくしていないとは。厄介者扱いできないじゃないか。もっと騒ぐのが一軍の役目じゃないのか。俺も自然と磯貝の目線の先を確認してしまう。横顔もうつくしいながら少しの幼さがある。無邪気な笑顔が似合い素敵な人だな。

 「今日も一緒に帰ろうぜ。昨日みたいに寄り道はしないけどな」

 磯貝と目が合う。どうせなら小川さんに面と向かって言ってほしい台詞だったな。磯貝に言われてもそれぞれで帰ろうと提案してしまいそうだが、そこはちゃんと了承として顔を縦に動かした。


 放課後ホームルームが終わりそれぞれが部活や帰宅のために動いている中、席から立たない少数派の人々に混じって磯貝を待っていた。ホームルームが長引いているかなかなか迎えに来ない。先に帰っても大して怒ることはしないだろうが、この後の予定は特にないので何も書いていない黒板を見つめていた。教室に残っている人数も少なくなってきたであろう。黒板の前を結構な人数が通り過ぎて行っていた。その中で俺に別れの挨拶をしたのは一人もいなかった。いまさらこの教室で俺は友達どころか知り合い程度の人間もいないみたいだ。少しの寂しさを覚えたが、そういえば小川さんのことを見ていいないなと記憶を遡って気付いた。黒板を見つめていた目線を身体ごと回転させながら残っている人の中に小川さんがいないかを確認した。小川さんは俺と同じ席の列、一番後ろに座っていた。小川さんのことを見つけた時、自然と目が合った。なんとなく恥ずかしい思いと照れ臭い気持ちを感じてしまい。不自然ながら身体の向きを基の位置に戻し、黒板を再度見つめた。後ろから上履きの音が聞こえてくる。

 「いま、目が合ったよね」

 クラスに残っているのが数人でよかった。小川さんがいつも仲良くしている集団に見られると説明が面倒だろう。こんなぼっちと仲が良いのかと。

 「何でそらしたのよ。ずっと観察してたのに、いきなり動き出すからちょっとびっくりしちゃったよ。一緒に帰ろうかなと思って帰ろうとするの待ってたのに全然動かないから磯貝君のこと待ってるのかと考えて、それまで何してるか調査活動してたんだよ」

 とりあえず、俺が知りたいことは全部分かった。心を見透かされたようで恥ずかしいが疑問が一つ残る。

 「なんで、教室見渡したの。誰か探してたのかな」

 俺が疑問を口にする前に聞かれたくない質問をされた。こういう時は素直に言った方が傷は浅くて済むから正直に答えるか。

 「そういえば、小川さん見てないなって思って確認したんだよ。今思えば後ろから帰った可能性も全然あったな。小川さんはなんで一緒に帰ろうと思ったの」

 「私のこと気にしてたんだ。人に興味なさそうなのに意外だね。帰れる友達はみんな部活で忙しいから同じ帰宅部同士で下校しようかなと思ったんだよ」

 人に興味なさそうって失礼な。まあ、当たってはいるから強くは否定できないな。帰宅部の人は俺だけなのか。一人で帰ればいいものを。

 「一人で帰ればいいじゃないのか」

 「一人で帰る何て青春の無駄遣いだよ。下校は学校生活として重要な催し物でしょ」

 催し物までいくか。それはゲームとかアニメの世界だけじゃないのか。俺はそうなんですかと適当に返事をした。

 「それと昨日言ったこと気にしてるんじゃないかなと思って。それの確認も」

 昨日あんなことを言われたせいで今は少し気まずいなと勝手に思っている。ここは素直に聞いて少しでも心の靄を取り払うしかないか。これを持ったままは荷が重い。

 「そりゃ、気になるだろ。あんなこと言う女子高生は全国探してもいないぞ。なんで俺に伝えたのか。俺以外にも言っているのか。気になって昨日は現実逃避のために晩御飯で頭をいっぱいにしたんだぞ」

 小川さんは俺の隣の席に座った。俺の疑問に答えてくれるようだ。さっき確認した時、教室には俺と小川さんしか残っていないようだった。

 「晩御飯で埋め尽くすって新しい逃避の仕方だね。あの事は伊藤君以外には言ってないよ。そんな言いふらすようなことでもないし。伊藤君だけに伝えたのはね、さっきも言ったように人に興味なさそうだからだよ」

 そんなに興味なさそうか。ただ、誰からも話しかけられないぼっちなだけなのに。でも、そこまで他人に興味を示すかと言われたらそれはないとはっきり主張するだろう。友達はいなくてもいいし、一人を孤独、それを寂しいや悲しいと思うこともない。何も感じないわけではないが、それがただ平気な人間なんだとは自覚している。

 「こんなに寂しく悲しいぼっちなだけで興味なさそうは心外だな」

 「心から思った言葉じゃないのすごい伝わってくるよ。感情こもってない。でも、誰かには知ってほしかったからな。丁度いいなと思ったよ」

 「そのために俺と一緒に帰ろうとか、連絡先交換したりと近づいてきたのか。知り合った理由が重いし、怖いんだが」

 小川さんは俺のことまっすぐな目線で見つめていることがわかる。俺は変わらず黒板を眺めている。

 「それ言われちゃうと強くは否定できないけどね。でも、身近過ぎない人だから私のこと知ってもらうには適任だったんだ。だから、私のことこれからもよく遠くから見ててね」

 「一緒に帰るんなら遠くにならないがいいのか」

 「近くにいてもどうせ伊藤君は遠くから見ているよ。客観的にというかなんというかね。そんな感じだよ」

 さっきから決めつけがすごいな。出会って時間はさほど立っていない。それなのに俺のことを分かった気でいるのはなぜだろうか。しかも自信満々だ。否定できないようなことを言われているのは事実だが、周りの人間だって同じだろう。磯貝だって同じ思いに至るはずだ。

 俺は何も返さなかった。沈黙の時間が流れる。心の靄を晴らそうとしたら、晴れたと思ったらまた少し靄が残った。いや、小川さんといる限りと靄が晴れることはないのだろうか。どれほどの時間が経ったかわからないが。教室の出入り口から、元気な声で

 「遅くなったわ。色々面倒なことがあってさ。あれ、小川さんもいるじゃん。二人で何してたんだ。春後で教えろよ。さっさと帰るか。小川さんも一緒に帰ろう」

 溜まっていた不満か何かを一気に言葉にしていた。よくもまあこんなに言いたいことが出てくること。関心してしまう。帰るため立ち上がった。俺は無言でいたが、小川さんは伊藤君のこと春って呼んでるんだといい、私も春って呼ぼうとかって決めていた。普通本人に確認するものじゃないのか。別にダメとは言わないからいいのだが。外から聞こえてくる部活の声や音を聞きながら廊下を歩く。やっと青春の催し下校が始まった。

 

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