「私に勝ったらなんでもしてあげる」と言った彼女がなんにもしてくれない
地球から約2万個ほど銀河を超えた宇宙を彷徨う宇宙船の船内。今ここで、宇宙史上最高レベルにバカな二人の闘いが始まろうとしていた。
「くっくっく……言ったなエリカ。後悔はするなよ」
「ええ。そっちこそ後悔しない事ねサトル。“この勝負に勝った方が、負けた方のいうことを何でもひとつ聞くこと”……フフフ、まあ結果は見えているけれどね!!」
この二人……エリカとサトルは地球人的な視点で言うところの〝宇宙人〟である。いわゆる〝人間〟とよく似た外見を持ち、さらに地球人的な感覚で言うところの〝オス〟と〝メス〟であった。なお、地球人的な作者のモチベーションによりこの短編はギャグとして作られたため、その他の細かい説明は一切省略させて頂く。とにかくここは宇宙、二人は宇宙人である。
「君と故郷の星を旅立って一時間……ようやくこの時が来たよ。僕が君より優れた個体であることを証明する瞬間がね!!」
「あら、何を馬鹿なことを言っているのかしら? 今まで一度だって貴方が私に勝てたことがあって? それよりも、負けた時の言い訳を考えておく方が得策じゃないかしら」
「うるさい! 僕は負けないぞ!! 今まで負け続けていたのはこの日のための布石……全ては今日君を任すために準備していたんだ!」
「なんですって……?」
サトルはポケットから1枚のコインを取り出した。すると両手を背中に回し、しばらく何かをやった後……握った両拳をエリカの方に突き出した。
「勝負は簡単、右か左、どちらかの手に僕はコインを握っている。どっちに持っているかを君が当てることができれば君の勝ち、できなければ僕の勝ちだ」
「フン、いつも通りのゲームじゃない。ここまでの戦績は私の200勝0敗。私の方が圧倒的に強いことは証明されているのよ。このゲームで私が負けるとでも思っているのかしら!」
「ああ、確かに君は強い。でも……だからこそ勝つ! そのために宇宙まで来たんだ!」
「なにを……なっ!?」
言いかけたところで、エリカの表情が変わった。サトルの目からも一目で分かるほど苦しそうだ。
「なる……ほど……! 私が無重力に弱いことを知っていたのね。貴方の狙いは私の〝宇宙船酔い〟ってわけ」
「その通り、宇宙でなら君は本調子で戦うことができない。さあ勝負だ!!」
「くっ……私をなめないで!! 右よ!!」
サトルはゆっくりと右手を開く。すると……そこにコインは無かった。
「なんですって!?」
「正解は左。僕の勝ちだ!」
「ぐぬぬ……!!」
サトルは勝ち誇った表情でエリカを見つめる。今ここに証明されたのだ。サトルの方が個体としてエリカより優れていることが!!
「さあ!! 約束通りなんでも言う事を聞いてもら……」
「……あ、待って、私から見て右の方だったわ」
「……えぇ……」
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「や、やった!! 勝ち!! 私の勝ちよ!!」
「ま、待て! そんな馬鹿な話があるか!!」
「駄目よ、もう決まったもの。勝ったのは私。さあ言う事を聞いてもらうわよ!」
「待ってくれ!! そうだもう一回、もう一回勝負しろ!! それとも逃げる気か!?」
「逃げっ……なんですって!? 私がいつ逃げたっていうのよ!! いーわよ、もう一回勝負してあげるわよ!!」
「じゃあ次はコイントスで勝負だ!!」
「ええ、私は裏よ!!」
「なら僕は表だ!!」
――ピンッ。という音とともにサトルの親指からコインが弾かれた。はたして結果は表か、裏か。二人は慎重にコインの軌道を見つめている。
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二人は慎重にコインの軌道を見つめている。
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二人は慎重にコインの軌道を見つめ……あれ。
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「……ねえ、もしかしてだけど、無重力だからコインは落ちてこないんじゃないの?」
「そ、そんなはずはない! きっともう少し……もう少しで落ちてくるはずだ!!」
「あらそう……?」
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「落ちて……来ないわね」
「……うん。そうだね」
「……どうする?」
「……もう一回勝負する?」
「そうね……」
……二人の闘いはこの後どちらかが負けを認めるまで続くのだった。




