39・・・剣闘祭二日目(3)
ルベルムの一言で司会のピエールからだけではなく会場の有る一角からも睨みつけるような視線が注がれていた。その場所にはきちんと背筋を伸ばし等間隔で座り同じ鎧を着た騎士集団がおり不穏な空気をルベルムに対して出していた。
そしてこの空気が会場に伝染する前にとピエールは焦りながら進行に戻っていった。
「さ、さあ最終グループFの選手の入場です。・・・・」
そして選手が入場しこのグループの注目人物である前回優勝のグリムドが姿を現すと会場の雰囲気も一新されヒートアップしていった。
「「「「「「ウヲオオオオオ」」」」」」
「出ました!出てきました!前回優勝はもちろんこの大会歴代王者でもあるライガット・グリムド選手の入場です!!」
会場中の視線が全長2メートルほどのフルプレートを着たグリムドに集まった。そのグリムドは後ろにその巨体と同程度の大きさの両刃の斧を背負い腰にはレイピアを差し他の出場選手と比べても圧倒的な威圧感を出していた。
そしてそのグリムドの後ろにはグリムドと同じ型であろう鎧を着た者が5人並んで入って来た。
「さあ!!ついにこの人のグループになりました!!今回も前回同様あのパフォーマンスをやってくれるようです!みなさんもお楽しみに!!」
とそのピエールの言葉に会場中も盛り上がって行く。そしてルベルムも興味深そうにグリムドをみていた。
「さっそく準備が整ったようです!それでは!本戦最終グループF!試合---開始!!」
そうして試合が始まった。
まず動いたのはグリムドの後ろで整列していた同じ鎧の5人組みが一斉にそれ以外の出場選手へと踊りかかっていった。その選手達も多少は粘るものの、力の差が有るのかあっという間に場外や気絶で敗者となり数が減って行った。
そしてとうとう舞台上には騎士の格好をした者しか居なくなってしまった。この状況に会場が徐々にざわつき始める。
「さあ、あっという間にテアリス守護騎士団の面々しか残っていないという状況になってしまいました。しかしこれからがこの大会の名物になりつつあるパフォーマンスの始まりです!」
そう司会のピエールが言い終わった直後会場の一角から太鼓の音と客席の床を踏み鳴らす音が聞こえて来た。
ガシャンガシャン、ドン!!ドン!!ドン!!、ガシャンガシャン、ドン!!ドン!!ドン!!
これには、初解説初観戦でもあったルベルムは困惑してしまった。
「っ!一体、これは、なんですか。彼らは一体」
と太鼓と足音を出している客席の方を見る。そこには試合開始前の発言でルベルムを睨んでいた集団守護騎士団の面々が何処からか出していた太鼓を叩きながら足で床を踏み鳴らしていた。
「はい!初観戦の方はご存じないと思いますがこれは守護騎士団による実践型の演習なのです。」
舞台上ではグリムドと先ほど他の選手を圧倒した五人が向かい合う形で武器を構えていた。そして急に太鼓のリズムが変わると、それに合わせて五人は立ち位置を変えたり間隔を変えたりとグリムドと向き合いながら動いて行く。
「え―これは、集団戦で使われる号令や合図により陣形や戦術の変更などを行う練習ですね。」
と説明を入れるピエールに対しルベルムは
「いや、なぜこんな事をしている?今は試合中だろ。」
「はい、説明いたしましょう。実はこれは守護騎士団への処置として始まったルールがきっかけだったのです。元々この大会は一般の方も自由に出場できる大会、が目標でした。しかし領主お抱えの守護騎士団が出場を決めてしまうと、本戦も決勝トーナメントも独占してしまい他の選手の可能性を摘みとる結果になってしまうのです。そこで特別ルールとして守護騎士団は本戦では2グル―プへのみ振り分けられると言う物に変わったのです。そうすると必然的に守護騎士団同士の戦いになっり他の選手へのチャンスが増える形になったのです。ですがここでグリムド選手が初戦を圧倒してしまいその打開策として集中的に狙われるようになり、騎士団同士でも同様集団戦で戦っていたのです。そこで観客の方々から集団でやるなら普段の演習道理騎士団としての力を使ってやってくれと言う要望が有り、あのような形になったのです。」
とピエールが説明を終える。ピエールの説明の間も太鼓のリズムの変化で攻め方守り方が変わりその均整のとれた動きで5人しかいないにも関わらず陣形と呼べるものになっていた。
それを見ていたルベルムも
「なるほどこれが、パフォーマンスと言う訳ですか。」
「ええそうです。なかなかこの位置から演習を見る機会わありませんから好評なのですよ。」
そうやってこの演習の評価をしていると舞台上で変化が有った。
先ほどから統制のとれた動きで接近戦は左右と正面三方向から全く同じタイミングでの攻撃。そしてその攻撃後一端距離を取っる瞬間に魔法が着弾するという計算されたタイミングでの遠距離攻撃、と交しにくく当たり易い攻撃を加えていた。しかしグリムドはその攻撃に対し腰に差していたレイピア一本で裁いて行く。左右正面からの攻撃はレイピアの大ぶりの一閃で三本に当てて行きタイミングをずらし、魔法での攻撃はレイピアで切り裂き後ろへ流す。といった対処で均衡を保っていたのだが再度同じ陣形での攻撃に入った瞬間グリムドが動いた。
グリムドは三本同時の突きを後方に下がることで避け交わった三本のレイピアの接点を自分のレイピアで絡めて弾き飛ばす。そして三人の首元すれすれの所を一閃、持ち手を変え魔法での攻撃をしていた者へ投擲し相手が動く暇なく両足の間の地面に突き刺さる。そして選手も会場もしばしの無音の後
選手が「参りました」と降参して来た。
「試合終了----!!今回は今までにないほど統率された動きをしていた騎士団の方々だったのですが、なんとこうもあっさり勝ってしまうとは!!まさに電光石火のような動きでの対処、攻撃でしたね。」
「そうですね。あの巨体でのあの動きは想像できませんでしたね。」
とルベルムもグリムドを認めるようなコメントをした。
「まったくそのとうりです!あの速度での見極め、そしてそれを一撃の下に可能にする繊細かつ微妙な力加減の攻撃。素晴らしいものを見させていただきました!!それでは退場する選手へ再度大きな拍手を!」
「「「「「「パチパチパチパチパチパチパチパチ」」」」」
「「「「「ワァアアアアアア」」」」」
と選手が退場しても無人の舞台へと拍手がなりやまなかった。
「えーそれでは今日の試合は以上です!!そしてこれから明日の決勝トーナメントの組み合わせの発表となります!え―組み合わせは完全ランダムで決められます。そして6グループの代表6人でのトーナメントですので一組はシ―ド扱いされる事になります。さあ運命の組み合わせ・・・それでは発表します。」
そういってピエールは舞台の中央に置かれた箱へと近づき、その中に手を入れ中から二つの球を取りだす。その球にはアルファベットが一文字だけ書かれていた。
「1組目は・・・グループB冒険者ギルド所属ヨオ―セ選手対グループA悠撃隊所属ムラオサ選手。2組目、グループE悠撃隊所属キョウカク選手対グループCこちらも悠撃隊所属アルデラ選手。三組目グループD魔法ギルド所属ストレイス選手対グループF守護騎士団所属グリムド選手となりました。そしてシード枠を獲得したのは、三組目ストレイス選手対グリムド選手の組に決まりました。決勝トーナメントについては明日解説のルベルムさんを交えてお伝えしたいと思います。それではまた明日!!」
といってピエールは舞台を降りて行った。