かずや
月曜日11時半。
かずやとの待ち合わせ。
実家から母に来てもらい子供達を見ててもらった。
子供が出来て初めて一人だけのお出かけ。
母は快く引き受けてくれた。
多少心が痛んだけど、かずやに会える嬉しさにかき消された。
かずやは二人乗りのスポーツカーに乗ってるらしかった。
『ツレには、ぜったいお前は軽四が似合うっていわれてんけどねぇ〜』
っていってたっけ・・・。
私なりに精一杯オシャレした。完成度はけっこう高いんじゃないかな・・・。
待ち合わせ場所を決めるのが大変だったのだけど、私の住んでる県住から程近い場所に小さな
小型機専用の飛行場があって当時はなんだかさびしい雰囲気で日常は一般の人ってほとんど見かけないようなとこだったから、そこらあたりにしようって。
少し距離あるけど、待ち合わせ場所まで歩いていく。もぉ、めちゃドキドキしてる。
こんな感覚、最近忘れてた。
飛行場が近づく。駐車場の入り口あたりに黒いスポーツカーが横づけされてる。
多分かずやはもう私に気づいてるはず。
ドキドキドキ・・・・・・・・・・・
助手席側、車の真横に立った時、男の人がこっちを向いて
ペコって頭を下げた。私も反射的に。
この人が・・・かずや!?
私の頭の中の偶像はもろくも崩れ落ちた。
ち、ちがう・・・。
車に乗るべきか、引き返すべきか・・・さぁどっち???
かずやが体をのばして車のドアを開けた。
とりあえず・・・とりあえず・・・乗るべき・・・かな・・・。
乗り込むとそのまま車は走り出した。
・・・・・・。
『はじめまして』
声は間違いなくかずやだ。
『あ、・・・。はじめまして・・・。』
お世辞でもセンスがいいとはいえない服。
ちゃんと食べてんの?ってくらいやせてる。
目ほそ〜っ。ちっこい・・・。
偶像とのギャップに戸惑いを隠しきれない私は
かずやの話をちゃんと聞く余裕などなかった。
だけど免許とってから縁が無かったMTを上手に操る
かずやの手だけはしっかり見てたのを覚えてる。
かずやはものおじすることも無く、良く話してくれた気がする。
そして車は知らぬ間に渋川海水浴場に着いた。
『歩こうや。』とかずやは言った。
『う、うん。』
車から降りて歩き出すと
かずやは私と手をさりげなくつないだ。
小さい手に感じた。
なんかきゃしゃで男の子というより女の子とつないでるような
不思議な感覚。
私よりずっとかずやはよくしゃべった。
そしてとうとう聞いてほしくないことを聞いてきた。
『どう?会ってみて・・・。』
『う、うん。優しそうな感じ。やっぱりかずや・・・。』
(うそじゃない・・・。たしかにそう・・・。)
『オレは会えてメチャ嬉しい。これからも仲良くしてな。』
『う、うん。』
砂浜をひたすら歩いて、かずやはボロいスニーカーに砂が入ったといって
一生懸命、砂をはらっていた。
(ど、どうなんよ・・・その靴。)
お金はどうみてもなさそうだった。
ひとしきり散歩して
『これから・・・どないする?』
って聞くかずやに
『今日は、とりあえず・・・あまり長くは・・・。ごめんね。』
『そっかぁ・・・残念!!じゃ、また来た道かえろ。』
かずやはつないだ手をふざけて大きく振った。
帰りは私も少し、本物のかずやと打ち解けて
行きよりずっといっぱい話をした。
不思議と最初の戸惑いは消えて、また会いたいなって思う自分に変わってた。
そう思い始めたのに車はもう家の近くに到着していた。
『これ携帯の番号。もう直接でいーでしょ。仕事中は留守電にしてるけど
いつでもかけてきて。』
『うん。わかった。ありがと。』
『かずや、今日はほんとに・・・』って
言いかけた私をかずやが、ぎゅっと抱きしめた。
私もかずやをぎゅって。
かずやのキスはめちゃ優しかった。
かずやはなんだか甘いにおいがして、
そのままずっと抱きしめられてたいとおもった。
そして私の心は忘れてた感情を取り戻し生き生きとよみがえったのだ。