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兆し

『あや・・・親に・・・金頼んだん?。』

『うん・・・。徹から?』

『うん。』

『それでここ出るつもり・・・。ええとこないかなぁ・・・。』

『一緒に探さんかだ・・・。な?』

『うん・・・。

 あんな・・・私、生理来たで。』

『そっか・・・。』

その夜は、それだけ話しただけ。

いつの間にか眠ってしまった。

次の日のお昼、かずやは帰ってくるなり

『あや!!次の休みに不動産行くで!!』

って言った。

知ってる不動産に、もう連絡したとかで・・・。

不動産のことなんて全くわかんない私は、

正直、助かる!!とは思ったんだけど

でも、かずやと一緒にここを出るってことが

どうも気持ちの中で、まだ引っかかってるような・・・。

なんだか複雑な思いがしていた。

 次の休み、かずやが連れてってくれたのは

岡大の近くの、古い小さい不動産。

いかにも学生対象っていう物件ばかりが張り出されてる。

かずやに引っ張られるように、中に入った私だったんだけど

その途端、思わず立ちすくんでしまった。

学生らしき男の子が、一人、

ガンガン不動産屋の男性に叱られまくってたからだった。

慌てて一人の別の男性が

『いやぁ〜すみませんねぇ。どうぞっ!!こっちかけて!!』

って私達を促して、イスに座らせたけど、なんだか気が気じゃなくて。

それでも、かずやは淡々として

『電話で問い合わせした沢本ですけど・・・』

って切り出した。

そしたらすぐ三枚くらい用紙をその男性は私達の前に並べた。

今日、全部の物件見に行ってもらって構わないんだけど、

特に、行ってみてほしいところがあるって勧めてきた。

大家さんが、案内してくれるからってことで・・・。

部屋の間取りも悪くなさそうだし、家賃もさほど高くなかった。

場所も今の家から一番近い。

それじゃあってことになり、

早速私達は出かけた。

着いたらすぐに、大家さんらしき男性と、すごい小さくて

ぬいぐるみみたいなヨークシャテリアを抱いたおばあちゃんが

私達を出迎えてくれた。

『不動産から連絡が来たんで待っとりました。

どうぞ!!』

そういって、大家さんはコーポの一階の自室に

案内してくれると、コーヒーを入れながら

『近いうち結婚されるそうで(笑)・・・

籍はまだ入れられてないんですねぇ〜。

いつの予定?』

(え?!)

戸惑う私の横で、かずやが

『10月に結婚するんで・・・。籍はまだです。』

って応えた。

なんで!?と思ったんだけど、

かずやがそういうことにしとこ!!って

言わんばかりに私のほうを見て

『なっ!!』

って言った。

大家さんはこのコーポとすぐ横のめっちゃ古い

おんぼろ長屋とその奥の一戸建てを所有してて

さっきのおばあちゃんは長屋の唯一の住人だと話してくれた。

奥の一戸建ては家族連れが入ってるって。

私達にはこのコーポの二階の奥の部屋を見てほしいと言った。

手前の部屋は、韓国籍の男性が借りてるんだけど、

ほとんどが留守だと言った。

その後、大家さんがその部屋を案内してくれたんだけど

思った以上に広くてとても綺麗だった。

『空き部屋だけど、掃除はかかさんからね。』

あちこち見て回る私達に大家さんは常に付き添って

常にそう言った。

そんな大家さんがわずらわしいとは思いつつ

部屋のことはとても気に入った私。

かずやもそれは同じみたいだった。

そんな私達を察したのか

大家さんは、いつ入ってもらっても構わないと

言った。

私も仕事に行きやすいし、かずやの仕事場もすぐ近く

この間取りでこの家賃で・・・。

おまけに今まで車で出かけるのに

駐車場まで10分も歩いてたのに、これからは真下に

車が置けるわけで、さらに駐車場代も込みなんて。

部屋を見終わって階段を降りると

また長屋から犬を抱えておばあちゃんが出てきた。

かずやはすぐさま寄ってって、おばあちゃんに

話しかけると、その犬を抱っこさせてもらってはしゃいでいた。

私はというと、確かに可愛い!!とは思いつつも

眺めるだけで十分だった。

大家さんが

『奥さん、どうかなぁ!?

あなた方が気に入って決めてくださるんなら

めんどくさい手続きとかは省いて、すぐ入れるように

私から不動産に言いますけど・・・。』

(奥さん!?・・・。)

そう呼ばれて多少戸惑った。

確かにいいとは思う。

ただ、私としては、ご近所なんていらなかった。

隣は何をする人ぞ・・・。

そんな場所にポコンと、はまりたかった。

人付き合いは出来れば無いほうが理想。

『ええ、そうですね・・・。』

そういって、次の返事をしない私に

業を煮やしたのか、大家さんは

『ご主人、今ねえ、奥さんにお話したんだけど・・・』

結局かずやに同じことを話出した。

『あや!!ここでえんだろ!?

俺はここで全然かんまんけん!!』

『うん。まあ・・・。』

大家さんは即座、電話を掛けにいった。

その後、もう一度不動産に戻り

必要な書類を渡され、必要な金額の説明を受けた。

それでも20万程度は飛んでいく。

致し方ないけど、なんだか悲しくなった。

そんな私を尻目にかずやはすごく嬉しそうに

あのおばあちゃんの抱えてた犬のことを

私に話した。

犬のことなんて、どうでもよかった。

まさかそのことが私に

関わってこようなんて想像もしてなかったし・・・。

だけど、そもそもこの日から

兆しはあったのかもしれない。


































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