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情と傷

 かずやが帰ってきて、採用になったことを話した。

そしたら早速、制服見せてって言うから見せたのだけど

『・・・・・。なんか・・・・。』

『なんかなによ?』

『いや・・・俺からしたら、ようわからん服やな・・・。

なんかちょっと陰気くさぁないん・・・。』

『・・・・・。

かずやにわかってもらえんでも全然構わんわっ(笑)』

『で、いつからぁ?どこで働くわけなん?』

『・・・・・・。えっとぉ・・・。

それなぁ、会社にもう一回連絡してみてからハッキリ決まるんよな。

でもな・・・近いうちにどっか・・・。』

『そうなん。』

何気なくごまかしてしまった。

ご飯を食べ終わって、私は食器を洗っていた。

なんか電話が鳴ってるような気がして水を止めた。

電話の鳴る音はもう聞こえなかったんだけど

かずやが出たのか、切れたのか・・・。

出たとしたら誰と話してるんだろう・・・。

気になった私は、静かに音を立てないよう

部屋のほうに歩いていった。

かずやの声が聞こえた。

『はい。』

『はい。そうです。』

『はい。・・・それは・・・。』

返事はそんな感じばかり。

しばらくそんな繰り返しの後、

『わかりました。

今すぐ出ます。

えっとぉ、

三分くらいで行けると思います。』

『それじゃ、僕のほうから声かけさせてもらいます。』

『ロータリーに・・・

グレーのインフィニティーですね。

わかりました。

それじゃ。』

(・・・・・・。!!!!!!!!!)

私が部屋に飛び込むのとほぼ同時に

かずやがジャケットをつかんで部屋を出て行こうしていた。

『待って!!待って!!かずや!!お願い!!』

私を振り払って、出て行こうとするかずやを必死で引き止めた。

『あや!!話せ!!俺いかなあかん!!行くって約束したんやけん!!』

『私!!絶対行かすわけにいかん!!

絶対行かんでぇ!!お願い!!お願い!!』

かずやの約束した相手は徹だった。

徹がかずやを呼び出した・・・

それがどういうことなのか

私には大体察しがついた。

徹がそんな無茶をするとは思わない。

だけど、徹はカッとなると

喧嘩っ早いとこがあった。

やせているとはいえ身長180センチ以上の徹は

到底かなう相手とは思えない。

かずやに手を出すとは限らないけど、

そうなってしまうんじゃないかと・・・。

だからどうしても!!

どうしてもかずやを行かせたくない!!

かずやは私を振り払おうとしたが、出来ないと思ったのか

『あや!!聞け!!』

といって、とりあえず私を抱きかかえるようにしてしゃがむと

『俺は大丈夫やけん!!とにかく待っといてくれ!!

ここで俺が行かんかったら逃げたと思われる!!

やけん、ちゃんと話してくる!!

な、あや!!心配せんでええけん!!』

その瞬間、かずやは飛び出していこうとした。

私はかずやの両足にしがみついて、かずやは見事に

ひっくり返ってしまった。

『だめっ!!お願い!!私が徹に電話するっ!!

頼むから・・・それからでもいいでしょ!!

もしそれでも行くなら・・・

帰ってきた時・・・私はここにはおらん!!』

私は泣きたいのをグッとこらえて受話器をとった。

『もしもし・・・。』

『もしもし徹・・・』

『今日は、おねぇに用はね〜!!』

『知っとる!!

彼氏出ていくとこやったけど私が止めた!!

どうしても、アンタに会わすわけにはいかんのんよ!!』

『俺とそいつの話じゃ!!とにかく来させっ!!』

『今日はとにかく帰って!!お願い!!』

終わりの見えない押し問答を何回か繰り返していた。

『もしもし?・・・お姉さん?』

『・・・・・。』

『もしもし・・・しおりです。もしもし・・・。』

『もしもし・・・しおりちゃん?!』

『はい!!私です。

すみません、突然・・・。

実は・・・徹がカッカッしながら出てくもんで・・・

心配で・・・ついてきてたんです。

ですけど、もう今日は一緒に帰りますからぁ。

お姉さん、安心してください!!』

その途端、私は泣き出してしまった。

『ごめんね。いろいろ迷惑かけてるみたいで・・・。

ほんとに・・・。』

『私・・・正直、お兄さんとお姉さんは仲良さそうに見えてたんで・・・。

こうなってること、ほんとはビックリしてます。

だけどぉ、仕方ないですよね・・・。

シュンもカヨも元気ですよぉ。

ほんとに可愛いです!!

お姉さん・・・また帰って来て下さい・・・。

待ってますから・・・。

それまで・・・元気でいてくださいね・・・。』

途中からしおりちゃんは涙声になった。

『もしもし・・・。』

徹だ。

『もしもし・・・。』

『おねぇ・・・。

シュンとカヨの気持ちがわかるか!?

・・・・・。

アイツらのこと思うたら俺は・・・。

おめえらのこと絶対許せれん!!』

『・・・・・・・。』

電話はプツリと切れた。

その後、私もかずやも二人で

泣いて泣いて、泣いた。

家族と接触を断っていた私にとって

皮肉にも徹が接触してくれたことで

家族をも巻き込み

どんだけ悲しませ、傷つけているのか・・・。

ここに来てやっと思い知らされたのだった。

それなのに私は・・・。

かずやと別れる道を選ばなかった。

家族の情をないがしろにした上、傷つけることを選んだ私。

だから、その代償はあまりにも大きすぎたんだ。





























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