終わりの線
バタンと音がした。
とっさに、私はコタツの天板に突っ伏した。
階段を駆けあがってくんのを待ち構えて
『おっかえりぃ!!!』
『たっだいまぁ!!!』
って、やってたのは幻・・・。
かずやもそんな空気をよんだのか黙って
静かに部屋に入ってきた。
私は気配を感じつつも、身じろぎ一つしないでいた。
『・・・・あや・・・寝とん?』
もちろん返事する気なんて全く無し・・・。
『あや・・・なぁ・・・』
かずやが私の肩をゆすった。
それでもシカト。
『・・・・ほんなここ入れてぇ!!』
私を軽く押しのけて隣に入ろうとするかずやに
『ここっ!!無理っ!!』
即、手で遮った。
『やっぱ起きとんでぇ〜・・・・。
あや・・・今日マジでごめんよ!!・・・』
『・・・・・・・。』
『なぁ、怒っとんだろ?・・・・。
ほんまマジ悪かった!!』
かずやは後ろからガシッて、いきなり抱きしめた。
『やめて・・・・。』
『機嫌なおしてだ・・・。なあ、あや、たのむわ・・・。
俺、ちゃんと社長に』
『・・・・・・それはもういい!!』
『・・・。いいって?・・・なんでぇ?』
『いいからいいの!!それよか聞きたいことがあんの!!
そっちに座って!!』
『・・・・。ようわからんけどぉ・・・。
でも・・・座るんはここな!!(笑)』
ふざけて座ったかずやは、何かに当たったから
『あれっ!?・・・何これ!?』
ってコタツがけをめくろうとした。
と同時に私が手を伸ばして
箱を取るとコタツの上に置いた。
『・・・・・。』
一瞬かずやはあっけに取られたような顔をした。
それと同時に笑顔も消えた。
かずやは箱のフタをちょっとだけ持ち上げて
すぐ閉じた。
『見てもうたん・・・。』
『・・・・・・・。』
『いつかは言わなあかんなとは・・・思いよったんけどな・・・。』
『じゃ!!今日がその時ってことよな!!』
私の言い方はトゲトゲしかった。
『・・・・・・・。』
しばらく沈黙が続いた。
肘ついたまま、かずやはしばらく考え込んでるみたいだった。
でも思い切ったように話し出した。
『あんなぁ・・・。俺・・・・。
大学二年の時に、彼女が出来てな・・・。
ごっつい好きやったんよ。メッチャ好きやってな・・・。
やのに、突然俺・・・ふられてもうてさ。
何の前触れもなく、急に別れようって言われて・・・。
納得いかんかった。
メッチャ落ち込んだしな。
そん頃からツーショットに、はまりだしたんよ。
でも・・・なかなかえーことなんかなかったな。
そんな時にバイト先のヤツが紹介したるわって
してくれたんが美佐やったんよ。
正直いうて好きとかそんな気持ちは全然なかったんけどな。
向こうが好きっていうし、ま、ええか・・・みたいな感じで
最初付き合い始めたんけどな・・・。
・・・・あや、イケルか?』
『うん。大丈夫。』
『そん時、美佐は短大いっきょって、一人暮らししよったんけど・・・。
遊びに行くうちに、だんだんと俺、美佐んとこにおるようになったんよ。
ほとんど自分の部屋には帰らんようなった。
そんなんしようたら、突然美佐が短大やめてもうてさ・・・。
アイツ・・・夜、仕事に行くようになったんよ。
最初の頃はどんなとこいっきょんか俺には言わんかったんけど。
でも、すぐ、風俗いっとるってのがわかった。
そのうち俺な・・・
朝、アイツが帰ってきたら
アイツのサイフから稼いできた金抜くようになったんよ。
それで一日遊びまわって・・・
美佐はわかっとったんやろうけど・・・なんもいわんかった。
俺それええことに、バイト行かんようなったし。
大学も行かんようになった。
美佐と暮らすんは、楽やったけどアイツに対しては気持ちが
メッチャ冷めとったな・・・。
あからさまに態度に出しとったけん、美佐と喧嘩もしょっちゅうやったし。
あいかわらずツーショットにはずっとはまりまくっとって
伝言で、真由美とうまいことイケたけん。
ほんで真由美とも付き合いだしたんよ・・・。』
それからまたしばらく、かずやはだまりこんだ。
『ちょっと聞いてもいい?』
私のほうから今度は切り出した。
『お金持ち逃げされたってのはどういうこと?』
『・・・・・それは・・・大学のときの仲良かったツレが
ほんまに困っとうけん、金貸してくれって頼んできてな
俺、貸してしもうてさ。それで次、そいつのとこ行ったら
もぬけの殻やってさ・・・。』
『かずや、貸す金なんかあったん?』
『・・・いや・・・。借りた。』
『それが借用書の?』
『ぁ、ちゃうんよ・・・。それでなくて・・・。』
『は!?・・・借用書以外にも借金あるってこと!?』
『・・・・・。ある。』
『もっ!!最低!!』
私は言い捨てた。
『あや、そんな言い方すんなだ。たのむけんさ・・・。』
『・・・じゃ、借用書のは?』
『それからあとな、
俺は、家賃払うのがめんどくさぁなってきて・・・。
自分の借りてたとこは引き払って美佐とマジで
同棲ってなった。
真由美の手紙を美佐が見つけて
アイツ、そのときは俺にはなんもいわんと
そのあと、誰かに頼んで俺のこと付けさして
真由美とラブホ行ったりしとんとか
写真に撮ったりまでしとったしな・・・。
そのことから
大喧嘩んなった。』
『じゃあ、その写真を送りつけたんだ、相手に?』
『うん。そうそう・・・。
それで俺は住み込みの仕事を見つけて
美佐んとこからと出て
ここに住みだした。
しばらくしたら裁判所から書類がきて・・・。
美佐が勤めとった風俗の経営者かなんかに
俺のこというたらしんよ。
法に詳しいやつがおったんだろな。
俺と美佐は同棲しとるうちに、内縁関係が成立しとるけん、
慰謝料の請求が出来るって教えられたらしい。
それで調停に持ち込まれてしもうてさ。
俺そんなんいきなり来てメッチャ焦ったし。
どないしたらえんか訳わからんなって
社長に相談した。
何回か裁判所に行って・・・
俺のほうも写真撮られたこととかは
いうたりはしたんけどな・・・。
最後は俺が美佐に慰謝料を払うってことで
社長が慰謝料立て替えてくれて
とりあえず裁判所のことは終わった。』
『じゃ、借用書のが慰謝料ってこと?』
『うん。』
しばらくお互い黙り込んでしまった。
かずやも話すべきことは、話し終わったんだろう。
私の出方を待ってる、そんな風に思えた。
ある程度、状況はわかった。
やっぱりこんな時、自然と人って
深い深いため息ばっかりついちゃうんだね・・・。
そして私はため息混じりに言った。
『うちら、ここまでにしとこ・・・』