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究極の選択

 旦那の実家のまわりには家が点々と4軒ほどあった。

そのうちの一軒の前を通り過ぎれば、その向こうが旦那の家。

子供の声がして一瞬ハッとした。

でもそれは、家の前で遊ぶ、その家の小学生の声だった。

足早に通り過ぎ、旦那の実家へと続く細い坂道を歩く。

家の前にはいつもながら洗濯物が沢山干してある。

でも、その中に子供のものは全く見えない。

外には誰の姿もなかった。

旦那の家は母屋と離れになっていて、離れのほうから

テレビの音が今日も変わらず漏れ出していた。

(離れにいるのかなぁ・・・。)

そう思った時、ガシャっと食器の音が聞こえた。

一瞬ためらったけど・・・ここまで来て、それも庭先で・・・。

立ちすくんでいたって仕方がない!!

スタスタと勝手口まで歩き、思い切ってドアを開けた。

開けた途端、流しの前にに立つ姑と目があった。

『ぁ・・・こんに』

私は一瞬ためらってから挨拶しかけた。

『おかえりぃ。』

と姑が言ったから

慌てて

『帰りましたっ・・・』

そのまま立ちすくんだ。

『どしたん?(笑)おあがりぃ。』

『あっ、はい・・・。』

私が予想していた姑とはあまりに違う・・・。


『今、父さんとご飯食べたとこなんよ。・・・

ちょっと待ってえ!

すぐ片付けるけぇ。』

『ぁ、はいっ。』

『どうやって帰ってきたん?』

『えっとぉ!!電車とバスで・・・。』

って言うしか・・・ないしね・・・。

そして姑は食器を洗い終わると、お茶を入れ

『ほんなら、あっちで話そうや。』

っというと応接間に入っていった。

向かい合わせで座ると

姑は私を見て

『ヒロからなぁ、大体の話は聞いたんじゃけどなぁ・・・』

と話を切り出した。

『あやちゃんに彼氏が出来たというか・・・男の人が出来たっていうのが

私には信じられんような・・・信じたくないような感じ・・・。

あやちゃん、それはほんまの事なん?』

『・・・・・。』

すぐには答えられなかった。

でも・・・思い切って

『ほんとです。それは・・・。』

って答えた。

姑は深くため息をついた。

『そうじゃとしたらほんと・・・私もショックじゃわ・・・。

今日はその彼氏のとこから来たというわけじゃわな?』

『・・・はい・・・』

しばらく姑も押し黙ってしまった。

でもまた思い切ったように

『その人は何をしようる人なん?』

って聞いてきた。

かずやの仕事のこと、年齢のこと・・・聞かれたことには

出来るだけ有りのまま話したつもり。

姑も落ち着いて穏やかに聞いてくれた。

『ヒロはな、あやちゃんとは離婚しようと思うとるらしんけど、

あやちゃんはどうするつもりなん?』

姑は私の目を見て聞いた。

『私は正直言えば・・・家を出た時点ではそこまでは・・・でも・・・

今は・・・ヒロがそういうならそう』

『そうじゃないじゃろう!!』

ぴしゃりと姑が私の言葉を遮った。

『離婚とかそんなことは置いといて、

アンタらのすべきことは子供を育てるってことじゃろ!!』

『・・・・・・。』

今度はずっと長い沈黙があった。

『子供らはずっとあやちゃんを待っとんよ・・・。』

『あのぉ、お母さん子供たちは?』

『あれからはずっとあやちゃんのお母さんにお世話になっとんで!

ヒロは私に見てくれって頼んできたけどぉ・・・。

私もすぐにすぐ仕事をどうの出来るわけもねぇし・・・。

アンタとこのお父さん、お母さんだって

仕事されとるんじゃから迷惑かけるとは思うたんじゃけどなぁ・・・。』

それを聞いて私は心底ほっとした。

この状況なら私と子供たちが引き離されることは、やっぱりない!!

と私は確信出来た気でいた。


『それでな、あやちゃん!アンタは今日から子供らと、ここでお暮らしぃ。』

『・・・・・はい!?えっ!?・・・・』

『これから子供を迎えにいっておやりぃ。今日からアンタらの家はここなんで。

父さんもそのつもりでおるしな。』

『そっ、それはっ!!・・・だいたいヒロだってそれはっ』

『ヒロはなぁ、それでええっていうたんよ。

ヒロはな、もうこっちには当分帰らんようにするっていうたわ。

万が一帰ってきたって、ヒロのことはほっときゃえんよ(笑)

あやちゃんは子供のことと自分のことだけ考えときゃえんよ!!』

 旦那にとったら、最高の条件だろうと思った。

そう思った時、旦那に対して今までにないほどの嫌悪感がわいてきた。

とっさに

『それは絶対に出来ませんっ!!』

と答えた。

『それなら私は実家で子供と暮らします!!

お母さんたちが子供に会いたいときはいつでも連れてきますし。

それに今、私・・・相手のとこにいるわけで。

もう荷物まで運んじゃってて一緒にいるので・・・そちらとも話ししないと』

『相手んとこに運んだ荷物なんて、あげとけばええが!!』

『でもお母さん!!あまりにも中途半端です!!

それなら離婚のほうが私はいいですっ!!。』

『子供が大きくなったらどうしようと私らも構わんで!!

でも今は全く納得できんわな。

大体・・・あやちゃん!

仕事も持たず子供と暮らせるなんて、そんな考えがおかしかろ!?』

『仕事はすぐ見つけます!!絶対に!!』

『さぁ〜、そう簡単にいくとは思えんけどなぁ・・・。』

結局、姑と激しい押し問答になった。

『とにかくあやちゃん!!

それが出来んというなら子供とは一切関わって欲しくないんよ!!

あやちゃんが子供の為にそれが出来るか?!出来んか?!

それが全てじゃわ!!』

『急にそんなこと言われても、今どうかと聞かれたら

出来ない!!と答えるしかないですっ!!』

突然、ドアが開いてハッとした。

舅だった。

姑は舅が隣に座った途端、

『あやちゃんはここに住むってのは出来んらしんよ。』

って言った。

私はすぐ

『今日、今、すぐに、って言われても・・・』

って言い返した。

少しの沈黙の後、舅が

『今日いくらこれ以上話しても、ムリじゃろう。

お前もあやちゃんに言いたいことは全部言えたんじゃろうが?』

『それはそうじゃけど・・・。』

姑は不服そうに言った。

『それじゃったら、あやちゃんもそれなりに考えるじゃろう。

今日が今日でなくてもえんじゃねんか?』

姑は少し考えてから

『今日帰るとしても、あやちゃん!!実家には絶対に行かんでよ!!

子供らと接触は絶対にせんといて!!それだけは約束して帰って!!』

『わかりました!!とにかく私は仕事をすぐ見つけますから・・・』

『・・・・・。あやちゃんなら即答してくれると思うたけどなぁ・・・・。

アンタがそういう子じゃとは思わんかったわ!!』

最後にそう姑は言い放つと、黙り込んでしまった。

私はスクッと立ち上がりそのまま旦那の家を出た。

それ以降、私が旦那の家の敷居を跨ぐことは二度となかった。

姑にとってはこの日の私の返事こそが全てだった。

途中コンビニで求人誌を数冊買い込んでかずやと家に帰った。

かずやが今日のこと訊ねてきた。

『とにかく仕事見つけないと子供に会わせてもらえない・・・。

速攻見つけたら速攻迎えにいって一緒に暮らすけど、かずや、いい!?。』

『いいよ!!あやぁ!!頑張ろうな!!』

浅はかな私・・・。

この日のことは永久の後悔となった。

そして今も私にのっかっている。



















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