元カノ
『お邪魔しま〜す!!』
樋口くんは学生専用コーポに住んでた。
1DKの間取り。
いろいろものがあるのに、それが綺麗に整頓されてて
落ち着いた感じの部屋。
『まっ、適当に座ってょ。』
『樋口くん、今日はほんとにありがとね。とりあえず適当に見繕ってきたんで・・・』
って言いながら、ローテーブルに買ってきたものを並べてった。
『おー!!!まじでぇ!!!』
樋口くんは嬉しそうに覗き込むと急いでコップを用意してくれた。
とりあえず何はともあれ
『乾杯っ!!!』
ってことで。
樋口くんと私は迷わずビール。
かずやも迷うことなく、また例の和歌山みかんジュースで。
かずやが全くお酒飲めないってこと、この時初めて知った。
『おつかれぇ!!!』
樋口くんは勢いづいたらしくグイグイ飲んでる様子。
『樋口くん、彼女いるんでしょ?』
『いやぁ、いないからぁ・・・紹介してくださいっ!!』
『いるよ、コイツ!!』
私の頭の中に
(日曜 ・・・旦那の実家・・・姑と話)
ってのは確実にインプットされてて、気持ちも確実にブルーではあったのだけど
それもかなり紛れるくらいに、三人楽しく盛り上がってた。
そのうち樋口くんもかなり酔ってきたのか
『ぁ〜今日はかなり飲みすぎたかも・・・』
ってテーブルに突っ伏した。
不意に樋口くんが頭を持ち上げて
『沢本ぉ〜あのさぁ、藤川美佐ねぇ〜俺のぉ・・・』
『はっ!?樋口!?おまえ!?・・・』
かずやが慌てて私の方を見た。
『ん・・・。ぁ!・・・。』
樋口くんも慌てて私を見た。
『何!?なに、二人であせってんのぉ・・・。はぁ〜!わかったぁ!!
かずやの元カノとか??・・・そうなんでしょ、かずや?』
『ぁ、あくまで元・・・やけんな。』
『そうなんだぁ!!!それでぇ?樋口くん!!続きをどーぞ!!』
樋口くんは多少おどおどしながら
『えっ?い〜の・・・沢本?』
『いーのいーの!!ね、かずや!!』
『別に・・・まぁ・・・。』
『あのぉ、今ね、俺と同じ学部のやつと付き合ってるみたいなんよ。で、噂で聞いたんやけど
抱いてる最中にね、藤川の顔見たら萎えちゃうからさ、枕押し付けて顔隠してやってるらしいよ。』
『・・・・・・。マジで?』
笑ったつもりなんだろうけど、かずやの顔はひきつってる。
『ふ〜ん。そ〜なんだぁ。そんな感じの子と付き合ってたんだぁ。もっと知りたいなぁ。
樋口く〜ん!!おしえてぇ〜!!』
『ぁ〜いいよ!!いいよぉ!!』
ふざけて樋口くんと私がやたら近寄ったのを見て
『こらぁ!!あやぁ!!だめだってぇ!!!』
かずやは私を後ろから抱え込んで急いで引き離した。
そして私と樋口くんの間に座った。
藤川美佐。かずやの元カノ。
でも・・・ただの元カノじゃなかったんだ。
私はもちろん、樋口くんさえ知らない
ややこしくて複雑な関係で
かずやと元カノは繋がっていたんだ。
その後、かずやと一緒に樋口くん家のお風呂に入った。
まるで彼女の存在を証明するかのように置かれた洗顔クリームとか化粧水が可愛い。
また今度三人で飲みに行く約束をして、私達は帰った。
部屋に戻って、とにかく布団を引くスペースを確保するため
使ってない部屋に荷物をとりあえず入れておくことにした。
無事部屋にファンヒーターを置き布団を敷いた。
ファンヒーターは狭い部屋をあっという間に暖めた。
布団ってこんなにフカフカやったっけ!?
なんだかメチャ贅沢な気分。
体をうずめると、そのまま吸い込まれるように
私とかずやは眠ってしまった。