プロローグ
次の朝、目が覚めると、もうかずやはいなかった。
今日は書置き・・・無いみたい。
とりあえず今日の私のすべきことは洗濯。
すべきことがあるって嬉しい。
着替えて洗濯しに降りたら大家さんが庭に出ていたから
挨拶をした。
洗濯できるまで、掃除でもしようかな。
隣の部屋に小さなホウキを発見していた私は、窓を開け放して早速
とりかかった。
皮肉だけど、こんだけ物がないと掃除がすごく楽だ。
『沢本さん!!沢本さぁ〜ん!!』
声が聞こえる。
『えっ!?ぁ・・・。はぁ〜い!!』
慌てて出てみると階下に大家さんがいた。
『ごめんねぇ。ちょっとええかな・・・。』
『あ、はい!!』
階段を降りた私に
『沢本さんっていうてもアンタまだ結婚もしてないのにね(笑)。』
『いいえ。別にかまいませんから。』
『あ、あのね〜。アンタ当分は・・・お兄ちゃんとここにおるわけよね?』
突然聞かれてびっくりした。
『えっ!?・・・。』
戸惑う私に大家さんが慌てて
『いやね、それがいけないってことじゃないんよ!!もしそうなるんだったら
アンタにこの際お願いしとかんといけんと思うてね・・・。』
『あ、はい。』
大家さんは今まで何人か大学生をここに住まわせてきたらしい。
水道代はそれぞれ各自で大家さんに支払うことになっていて
今まで滞納する子は誰もいなかった。
かずやも最初のうちはきちんと払っていたらしいのだけど
ここ最近は全く払わず、大家さんも何回かは、かずやに
催促してみたけど、全然で。
結局滞納分は大家さんが払ってるということだった。
『昨日アンタを見るまでは、内心どんな子なんか・・・気になっててねぇ。
でもアンタを見てしっかりしてる感じの子だから安心したんよ。
でね、私も迷ったんじゃけど・・・この際アンタに頼もうと思ってね。
ほんと突然ごめんねぇ。』
大家さんは申し訳なさそうに私に一枚だけ紙を渡した。
『あの・・・。今までの滞納分はおいくらですか?』
『滞納分はもういいよ!!それはもういいから!!』
『で、ですけど。それは・・・。』
『今月からはきちんとしてくれたらいいから。ね!?』
『あの、じゃ!!ちょっと待ってください!!』
私は階段を駆け上がるとすぐまたサイフを持って駆け降りた。
そして三千円ちょっとを大家さんに支払った。
大家さんは安心したようで、また
『ほんとごめんねぇ。』
と言った。
その後、少しためらったように見えたけど
大家さんが思い切ったように私の目を見てこういったんだ。
『お兄ちゃんは悪い子じゃないよ。優しいしね・・・。
付き合うのはかまわんと思う!!じゃけどな・・・一緒になるのは絶対考えたほうがええ!!
あの子は金にルーズすぎる。』
『・・・ぁ、はい。』
『それじゃあね・・・。これからもよろしくね。』
私はペコリと大家さんに頭を下げた。
階段を上がる私の足は重かった。
大家さんの忠告が
今から思えば私とかずやのプロローグだったのかもしれない。