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一つ目の箱

 すぐ部屋なのかと思ったら、そこは暗い階段だった。

かずやがパチンと電気のスイッチを押した。

『このままで上がってかんまんけん。』

かずやは私の手を引いて階段をのぼった。

『私・・・てっきりコーポみたいなとこに住んでると思ってた・・・』

『なかなか面白いつくりだろ。』

階段を上がると細く長い廊下になってた。

そして三つほどの扉が等間隔に並んでいた。

一番手前の扉に手をかけると、かずやは

急に思い出したみたいに

『おっ・・・あや、トイレはこの突き当たりのとこだから。』

って奥のほうを指差した。

『ここで靴は脱ぐ!!あ、ちょい待って!!』

そういうと部屋に入り電気をつけた。

六畳ほどの畳敷きの部屋の真ん中に陣取っていたのは

小さな正方形のコタツ。

コタツ布団ではなく、薄いコタツ掛けのようなもので覆われている。

そのコタツの天板には山ほど空のペットボトルが乗っかってる。

ボー然と立ちすくむ私を尻目に、かずやは小さな石油ストーブを

つけていた。

『すぐあったまると思うわ。・・・・どした!?』

『ううん・・・別に・・・』

とりあえず靴を脱いで上がる。

コタツの向こうには青いナイロンのような大きな布みたいなものが

無造作に畳の上にべロ〜ンとおいてある。

コタツの横に座り込んで、しばらく眺めていたが

結局あと小さなテレビくらいしか発見出来ないほど

何もない部屋だった。

かずやは青いナイロンようなものをコタツに沿うように敷きなおし

自分が座ると私に

『おいでっ』

と言った。

かずやの隣に座ると、かずやは私をぎゅっと抱きしめて、キスした。

その力はとても強くて私はそのまま押し倒されたのだけど

その途端

『ねえ!!かずや!!』

下からかずやをグっと引き離すようにして

『この下の敷物みたいなの何!?』

って聞いてみた。

『これ寝袋だよ。』

『寝袋!?・・・』

『そっ!!俺、毎日これで寝てる。』

『布、布団は!?』

『なっしぃ!!(笑)』

『う、うそでしょ!!信じらんない・・・私、寝袋なんて初めて見た・・・』

すごくうろたえた。ほんとに私・・・。

まだ矢継ぎ早に聞こうとする私の口をかずやはキスでふさいだ。

そしてかずやはすごく息が荒くなってきて・・・そしてそのまま強く強く私を抱いた。

気がついたら、カーテンのかかっていない、すりガラスの窓の外は少し明るくなりかけていた。

『朝になっちゃったね・・・かずや?』

『だね・・・。』

『仕事大丈夫?』

『イケルよ・・・』

今すぐにでも寝そうな感じの返事。

『・・・・・』

『わたし・・・どうなっちゃうんだろ・・・・』

『・・・・・』

『なるようにしか・・・ならんのんちゃうか・・・』


 なんだか・・・にぎやか・・・話声みたいな・・・うぅ・・・

目を開けると・・・見慣れない絵・・・いや襖。

その途端ばぁっと飛び起きた。

隣に誰もいない。そ!・・・部屋には私一人だった。

起き上がるとコタツの天板の上に書置きがある。

(仕事行ってきます!!帰れたら昼に帰る。待っててな。)

ほとんど殴り書きのような勢いの文字だった。

時計を探す。だけど無いからとりあえずトイレへ。

トイレを出ると横には小さな炊事用の流しみたいなものが

据え付けてあり、足元には無造作に一口コンロが置かれていた。

部屋に戻るとテレビをつけた。

チャンネルを変えても変えても映るのは三つくらい。

結局、時間はもう11時をまわっていた。

目が覚めてくると、昨日の出来事が鮮明に蘇ってくる。

だけど・・・ウソだよね!?そうだよね!?・・・

現実逃避な思いがグルグルと頭の中を駆け巡る。

でも今、私、間違いなくかずやのとこにいる・・・。

何、やってんだ!!いったい・・・。

・・・・そしてまた、ボー然とたたずんでいた。

ボー然の目の先には・・・和歌山みかんジュース・・・和歌山みかんジュース・・・

コタツの天板の上の空のペットボトルはすべて和歌山みかんジュースだった。

ぅ〜もぉ・・・なんだかうっとおしい!!よっし!!

私はペットボトルの撤去に着手することにした。

かずやが帰ってこないと、ごみ袋もわからず、とりあえず廊下に並べておくことにした。

終わりかけたころ、階段を誰かが駆けあがって来た。

ドアが開くと同時

『あや!!ただいまぁ!!』

せききった様子でかずやは喋りだした。

『あや、大家さんに今、彼女が事情があって来てるって話した。

当分いるかもしれないからって・・・。

そしたら、いいよってゆってくれたんよ。

だから、一応あやからも、大家さんに

挨拶だけはしといて!!

わかった!?』

『・・・うん。わかった。』

『それじゃ、オレまた行くわ。』

『え!?もう!?』

『帰るのはなるべく早く帰るけん!!』

抱きしめてキスしたら、速攻かずやは駆け降りていってしまった。

またまた、ボー然な時が訪れた。

けど、そうだ!!

大家さんにご挨拶しなきゃ。

・・・てか・・・私すっぴんじゃん!!

歯磨きさえもしてない!!

できない!!

おまけに服やぶれてる!!

慌てて財布を見た。

二万ちょっと。

ほんのちょっとだけ安心した。

コタツの向こうにブラシとドライヤーとスタンドミラーが散乱してるのを見つけた。

ひどい!!何なの、この顔!!

朝寝坊の甲斐なく、夕べの出来事による疲れは恐ろしいほど顔に出ていた。

どしたらいい!?

ほんとにどしたらいいんだろう!?・・・

しばらく考えて、キヨちゃんに連絡を取ることにした。

とにかく上着だけは着替えなきゃ・・・。

かずやの服はどこにあるんだろ?!

部屋の中にはまったく見当たらず、もしかしたらと思い、襖を開けたら

そこは4畳半くらいの畳の部屋だった。

衣装ケースが二個。

ふたはそれぞれ散らばり

中にははみ出しながらも詰め込まれた服。

漫画、雑誌、よくわかんない箱、書類みたいなもの。

ありとあらゆるものが散乱していた。

衣装ケースを物色し、無難に黒いフードつきのトレーナーに着替えた。

かずやのニオイがプンプンする。

窓を開けると隣近所の屋根の向こうから岡山駅前の派手な化粧メーカーの

電光看板が見えた。

そっかぁ、ここは西口に面してんだ。

そして岡山駅西口はすぐそこだ。

お天気とてもいい!!

外の空気を吸うと、少しだけど元気になれたような気がした。

とりあえず電話をかけるため、出かけることにした。

できることなら・・・どうか今は・・・大家さんに会いませんように☆

願いつつ、階段をおり、

扉を開け、外に出た。

玄関まで歩くと玄関は閉まっていて、家の窓もきちんと閉められている。

人のいる気配は無かった。

門扉を出て、私は駅のほうへと足早に歩き出した。














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