境界線
年末はあっという間に訪れた。
三交代の旦那にとっては大晦日もお正月も関係なく
会社のシフトに動かされる毎日になんのかわりもなかった。
今年の年末も私と子供達だけで旦那と私の実家で交互に過ごす予定だった。
かずやに年末の予定を尋ねたら、どこもいかないと言った。
『徳島には帰らないの?』
って聞いたら
『帰らんよ。もうここ何年も帰ってないし。別に用もないよ。』
って言った。
『・・・なぁ、あや・・・無理はわかっとんけどな・・・なんとか会えん?』
『・・・。』
『あや、ええよ。無理ゆーてごめんよ。』
『かずや、会えるよ。これから・・・少しの時間だけど。それでもかずやが
良ければ・・・』
それはだめどころか、絶対してはならないことだった。
自分でもわかってた。
だけどかずやに会いたい。どうしても。
時計は11時45分をさしていた。
旦那はもう20分程前に仕事に出かけて居ない。
今日からは夜勤だ。
『オレ、今からすぐ行くよ。この時間なら20分くらいで行けると思う!!
あ、やべっ!!車取りに行ってやから・・・30分か!!』
メチャ弾んだ声でかずやは言った。
『じゃ、0時20分位に、団地横に出てくから。気をつけてきてね。』
『うん、じゃ後で。あ〜オレ!!めちゃ嬉しんけど・・・。』
『私も同じく!!』
電話を切った後は、ドキドキしてきて。
神経質すぎるほどに音を立てないよう支度をした。
30分はあっという間にたち、待ち合わせ時間になった。
子供達の様子を確認する。
二人ともスヤスヤと寝てる。
階段を静かに降り靴を履き、玄関のドアをそっと開けた。
まわりはシーンと静まりかえってる。
まだところどころ灯りがついてるけど団地内を歩く人影は見えない。
玄関を出てドアを閉める。
もう一度ドアを開けて耳を澄ます・・・大丈夫!!
鍵をかけ、石の階段を駆け下りた。
そのまま団地横の歩道に出たら、ちょっと先にかずやの車が見えた。
駆け寄って助手席から乗り込んだ。
かずやは車をスーッと出しながら
『どうすればいい?』
『公園のほうに!!』
ドキドキで、心臓バクバク。
図書館裏の車の停めれるスペースには幸い誰も停めてなくて
私達だけ。
車を停めた途端、
私とかずやは抱きしめ合ってキスした。
このにおい・・メチャ好き。
香水のにおいとかじゃない、かずやから何となく出てる・・・甘いにおい。
私の体の力はスルスルとほどけるように抜けていく。
かずや・・・溶けそうってこういうことなんだね・・・。
触れられるところ全てがほんとに気持ちよくて・・・。
そして・・・かずやが私の中に・・・。
かずやと私はしばらくその後も抱きしめ合っていっぱいキスもした。
すごく幸せな余韻。
だけど・・・(帰らなきゃ!!)
時間は?!・・・急に胃が痛くなるような気分がした。
『かずや、今何時?!』
かずやもハッとしたように体を起こした。
『わっ、もぉ2時前やん!!送ってくわ!!』
急いで団地に戻る。
『とりあえず大丈夫やったら電話して。待ってるな!!』
かずやの車を降りて、急いで帰る。
階段を駆け上がりドアを開けた。
シーンと静まり返っている。
少しほっとした。
階段を上がると部屋のフスマもしまった状態、何も変わりない。
子供達はスヤスヤと寝てくれていた。
心臓のバクバクはまだおさまってない。
すぐにかずやに電話した。
『そっか!!良かったぁ!!じゃ・・・オレ帰るな。ほんまにありがとう、あや。
おやすみじゃ。』
『私もありがと。明日仕事大丈夫!?』
『イケるよ!!』
『気をつけて帰って!!おやすみ、かずや。』
電話を切っても、なかなか眠れなかった。
かずやとのこと何も後悔はしてなかった。
それがどういうことになり・・・どういう形で自分に
返ってくるのか。
私は何の覚悟もしないまま、妻としても母親としても
超えてはいけない境界線をあっさり踏み越えてしまった。