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「転生先は、神一択で!」  作者: 不満男
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諸事情により神に転生することになりました。


 「ん……」


 目を覚ますと、自分の視界には黒以外の色が見当たらず、なぜか自分の体だけがはっきりと見える。

 

 おかしい。私はたしか、家のリビングで黒パーカーの何者かに、後頭部を強く殴られたはずだ。

 その後、意識を失って……、ということはもしかしなくてもここは、いわゆるあの世なのだろうか。


 


 自分が死んでしまったということを仮定すると、どこからともなく恐怖が溢れてくる。

私は、まだ死んではいないと自分に言い聞かせるように全力で走った。

 50メートルほど走ったところで、息が切れてきた。

 それでも私は止まろうとするわけでもなく、むしろ止まれなかった。そのまま勢いを付けた状態で、両足が絡み、盛大に転ぶ。


 「――痛くない」

 擦りむくくらいはするはずの転びっぷりだった。

 それなのに、私の両足には傷一つなく、痛いという感覚すらなかった。


 私は、その場にソッと座り込む。

 完全に理解した。

 私は死んだんだ。

 リビングで、知らない男に頭を殴られて死んだんだ。

 

 理解すると、自分でも意外なほどに静かになった。

 人間、絶望すると抗おうという気力すら失う。

 望みが絶える、で絶望か、ハハ、漢字面白い。

 


 静かになってから、数分ほど経った(体内時計でだからあまり信用ならないけれど)。

 聞こえにくいが、自分の目の前から、大人の女性の声がする。

 「わたくしの声が聞こえますか?」

 「……誰?」

 「我は天之御中主神あめのみなかのぬしと呼ばれているものです。下界では、一般的に神様と呼ばれる者です」

 アメノミ……?

 なんだか長いな、記憶力には自信ないんだけどな。

 「ミっちゃんでいいですか?」

 「ざ、斬新な省略の仕方ですね・・・・・・。呼びやすいように呼んでくれてかまいません」


 数秒の間が空き、ミっちゃんは本題に入るように、声を整えた。

 「て、転生するなら、何になりたいですか?」

 整えた意味あったのかな、声裏返ってるし、なんか泣きそうになってるけど。

 

 ああ、せっかくだ。

 自分が本当に死んだのか確認しておこう、たぶん転生云々聞いてくる辺り、私の予想は当たってるんだろうけど。


 「私……死んだんですか?」

 「……はい。帰宅したときに、たまたま空き巣を狙う輩が侵入していて、犯人は勢いであなたを……」

 そういえば、今朝のホームルームで、最近空き巣の被害が多発しているから気を付けろとか言ってたっけ。

 空き巣増えたから注意しろって、どうするべきだったんだよ・・・・・・。


 「やけに冷静ですね」

 呆然としていると、ミっちゃんが心配そうな声色で話し続けていた。

 「急展開すぎて言葉が出てこないだけですよ。それより、さっきからなんだか弱弱しい声だけど、なにかうしろめたいことでもあるの」

 「どき」

 どきって口に出す人初めて見た。

 あ、見えてもないし、人でもないや。

 「もしかして、私の死になにか関係あります?」

 「どきどき」

 なんかウザいよこの古女神。

 「そ、その……神っていうのは、全ての事件事故災害が起きる前に、被害を最小限に抑えられる力、役割があります」

 「ふむふむ」

 「今回、あなたが殺された事件は……本来ならあなたが死ぬような惨事になるはずもなかったのです」

 「ふむふむ、なるほど……じゃあ何、私はあなたのサボりが原因で死んだってこと?」

 「語弊はありますが、実質的にはそうなります……」

 なるほど、さっきから泣きそうな声だったのはそういうことか。

 まさか本当にうしろめたいことがあったなんて。

 

 「ほ、本当は日本を担当する神は二神ふたりいるんです。

  でも、この前の大震災の時からずっと我だけで日本全土を担当してて……」

 「死んだ私にとって神の人手不足なんて知ったことじゃないし、反省だけなら誰だってできます。なんなら私がイライラしてるのは、自分の不始末で惨事になったのに、未だに声だけで、姿を現さない失礼な奴がいるからです」

 「……」

 神が黙ると(だいぶ泣いてるけど)、私が座っている上空から、光に覆われたなにかが降りてくる。


 「ぅ……ぐすっ、ごめんな、さい」

 親方!空から号泣してるダイナマイトボデーの女性が!!

 なんて、ふざけるのは良くないか。

 実際、目の前に号泣してる大人の女性、しかもかなり美人がいるんだ。

 あれだけ責め立てたけれど、さすがに罪悪感すごい。

 ……仕方ないな。


 「……転生させてくれるんですっけ?」

 私から話題を変えると、一瞬でミっちゃんの表情は満面の笑みに変わった。

 「はい!

  望むなら何にでも転生できますよ、資本家の子供や、ハーレム漫画の主人公にだってなれます」

 なんでも、と言っても生憎私にはそういった欲望らしい欲はない。

 かと言って、普通に生まれ変わるなんてのもごめんだ。

 私にはもう家族がいたんだ、それを別のもので上書きするようなしたくないし、しない。

 

 「転生するなら……」

 本来の転生の意味とは少し違うのかもしれない。

 だけど、生きていた時にお世話になった家族ひとたちのためにも、こんな神様だけに日本は任せられない。

 それなら、選択肢はひとつだけだ。



 「転生するなら、神一択で!」


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