プロローグ
まだ寒さが残る2月中旬。
来月には、自分も大きく関係する一大イベントである、中学の卒業式が行われる。
今日は式練習が早くに終わり、現在友達と一緒に下校している。
商店街を過ぎて、学校の帰りにはいつも寄るパン屋さんでサンドウィッチを買い、友達と雑談しながら帰る。
本来なら、下校中に買い食いをすることは校則で禁止されているけれど。
サンドウィッチを食べ終え、友達に、バイバイと手を振ってお互いに別方向に向かって進む。
ほんの数分くらいで家に着き、カバンから家の鍵を取り出す。
まだ午前中のため、両親も妹もいないはずだから。
鍵を刺して回してみると、いつもと違った違和感があった。
「鍵が……開いてる?」
両親が早めに帰っているのだろうか、妹だったら嫌だな……、今朝ケンカしたから、今はあまり顔を合わせたくない。
そう思いながらドアを引くと、あきらかに両親がいる時のような、明るい雰囲気のする空間ではなかった。妹がいる様子もない。
今までの人生の中では、決して感じることのなかった不穏な空気に怖がりながらでもリビングまで足を運ぶ。
リビングのドアノブに手をかけ、ひとまず落ち着くために深呼吸をする。
ドアを勢いよく開ける。
「何も、ない。いつものリビングだ……」
そう分かった途端に体の力が一気に抜けた。
今まで感じてきた不安や恐怖など、まるでこどもレベルだったかのように思えるほど、今の空間は恐ろしかった。
極度の緊張からか、気づけば喉が渇ききっていた。
私は大好きなオレンジジュースを飲もうと、冷蔵庫まで軽い足取りで向かう。
ゴトッ。
何か、瓶のような物が落ちる音がした。
一瞬だった。
私の後頭部を激しい痛みが襲う。
「――。」
視界には、自分の頭から流れる血でできた血だまりが見える。
血だまりの側で動く男が見えた。
黒のパーカーに、血に汚れた軍手。
右手には、スパ・・・・・・ナ?
それだけを確認すると、私は完全に意識を失った。