ななぶんのいちの世界
死はすべての人に平等に訪れるものだ。それがいつかはわからなくて、誰を訪ねて来るかはわからない。今日かもしれない、明日かもしれない。赤の他人かもしれない、父や母や自分かもしれない。そして——幼馴染かもしれないのだ。
「明日はどうしよっか——きゃあ!」
休日の昼下がり。人通りの少ない住宅街の静寂を切り裂いた声は一人の女性の声だった。温かく、柔らかい声。聞いているだけで安心する彼女の声が、空気を切り裂いたように感じたのは言葉の端に悲鳴が混ざったからだろう。
ブロック塀で作られた曲がり角、話に夢中になって注意を払うことを忘れていた。少し先を歩く彼女の体が大きく傾く。
「美鈴!」
「将生……」
名前を呼び合い、美鈴の絶望に暮れる表情が、将生の手の届かないほど遠くに行ってしまったその時——、
「あぁ……」
将生の呻きに答えるかのように、大型トラックが轟音を立てて、目の前を通り過ぎて行った。伸ばした手は虚空を掴み、美鈴が被っていた麦わら帽子が宙を舞う。
「なんで……」
将生の目の前にある全ての理不尽への「なんで」が猟奇的な赤に染められた地面に落ちた。七月の下旬。コンクリートを激しく照りつける日差しと、からっとした風が気持ちのいい、清々しい日だった。
死とは無情にも平等だ。たとえ何気ない日でも、失うはずがないと思っていた幼馴染にさえも、死はやって来る。そしてそれは——。
将生は閑静な住宅街で、買ったばかりの自転車を走らせていた。タイヤもチェーンも新品で、速度は彼の意思のままだ。近代的な住宅が後方へ流れ去り、ついに交差点が近づいてきたところで、急激に速度を落とす。速度は意思のまま、だからこそ、曲がり角における周囲の確認は怠らない。三年前の不慮の事故、忘れられるはずがない。
「もう来て……」
無意識にこぼれた独白を言い切る前に、彼女は姿を現した。曲がり角を右折してすぐに見える公園に彼女はいた。
日曜日の一時。昼過ぎということもあってか、子連れの女性が多く、遊具は溌剌な子どもたちで満たされていた。そこから少し離れた公園の敷地内の隅。緑色に生い茂った白樺の木が作った影に彼女はいた。
「将生、遅かったね」
「ごめんごめん。ちょっと高校生ともなると忙しくてさ。明里もしかして待った?」
明里の近くに自転車を停めて、降りずに問いかける。憂いげな表情を浮かべる明里を見て、将生は遅刻してしまったのかと時計を確認した。まだ一時になったばかりで、約束の時間ちょうどだ。もしかして時計が壊れている……なんていうのは杞憂だった。
「んーん、全然待ってないよ。でも、最近は遅いなって思って」
明里に指摘され、高校生になってから少しずつ公園に着く時間が遅くなっていることに気づいた。もしかしたら、落ち込んでいるのかもしれない。そんな風に思って明里を一瞥するが、無邪気な笑顔を浮かべる彼女に、将生の不安は払拭された。つい最近、テレビでやっていたドラマの登場人物の美少女、『アカリ』に引けを取らない可愛さだ。焦げ茶色のセミロングの髪が、夏には不似合いな色白な肌を引き立たせていて、その上、顔が整っているのだから文句なしだ。
「そんな歳って明里も同じだろ?」
「たしかにね」
見た目に似合った笑いを浮かべて、明里は後ろで組んでいた手を離し、将生に一つの紙を差し出した。長方形のその紙には、片側に何個も穴が空けられていて、規則的に薄い線が引かれている——いわゆるノートの一部だった。
「見て。今日の一枚」
ノートに描かれていたのは鉛筆画の白樺だった。お世辞にも上手いとは言えないけれど、その黒い線には言いがたい魅力があった。
「この木?」
「そうそう。いってもここで待ち合わせしてるのに、描いたことなかったなーって思って」
視線で感想を求める明里に「上手だ」とだけ言って、将生は絵を四つ折りにしてポケットにしまい込んだ。二人の奇妙な関係の象徴とも言える明里の絵は、今日の白樺の絵を入れて、二十一枚目に届いていた。
「なんかこうして将生と会ってるのって不思議だよね」
「たしかにな」
二年前の七月から始まった不思議な関係。同じ学校ではないのに、こうして公園で待ち合わせをして毎週日曜日に遊ぶ約束。それは一ヶ月に一回渡される明里の絵と共に積もっていく。
「今日はどこ行く? たしか今週は明里が決める番のはずだけど」
「それじゃあさ、『秘密基地』に行きたいな。将生の入学記念ってことで」
明里はそう言って手に持っていた麦わら帽子をかぶって、将生の自転車の荷台に、横を向いて腰をかけた。振り返って彼女の姿を確認してみれば、真っ白なワンピースに麦わら帽子。足元は可愛らしいサンダルと、少々時代錯誤な格好だった。——しかし、その違和感も明里の美貌でかき消されるのだけど。
「出発だー!」
明里の掛け声で、将生と明里を乗せた自転車は走り出した。ペダルを踏む足には否応なしに力が入り、目的地を目指してぐんぐんスピードを上げて行く。子どもたちの笑い声は時間が経つにつれ遠ざかって行き、代わりに元気なセミの鳴き声——おそらくミンミンゼミだろう——と、森特有の言い表せない匂いが近づいてきた。
懐かしく、楽しい感覚だった。住宅街という日常から離れて、森を抜けた先の非日常へ向かう道中。そこが将生の一番好きな時間だった。そしてそれは明里にとっても同じだった。
「懐かしいねー。一年ぶりくらい? 『秘密基地』に行くのって」
「それくらいになるかもな。ここ最近は図書館が多かったから」
将生が住んでいる町はお世辞にも都会とは言えない。むしろ田舎と言う方が自然だろう。となれば自然と遊ぶ場所は限られてくる。しかし、一週間に一度、少し遠くにいる明里に会えるのならどこで遊んでも変わらない、というのが将生の本音だった。——だからこそ、今まではあえて『秘密基地』には行かなかった。
「——今日は星、見られるかな」
「ん、たぶん見えるよ」
今はまだ、雲ひとつない晴天だ。天気予報ではこの後、天候が崩れるとは言っていなかったし、星は姿を現してくれるはずだ。
「なんか、こうやって将生と二人乗りなんて久しぶりな気がする」
「一週間しか空いてないけどな。まあ、たしかに俺も久しぶりな感じがするけど」
「でしょー?」
振り返らずとも、明里が笑顔で話しているのがわかった。それに気づいた時、話していて純粋に楽しいと思えるのは明里だけなのではないか、という考えさえ生まれる。
そんな極端な考えに思いを巡らせながら、将生は三十分ほど自転車を走らせた。十五分を過ぎた頃から、辺りの景色は人工的なものから自然のものに変わり、聞こえる音は木々のざわめきと生物の鳴き声。それと車輪の回る音だけになっていた。そうして二人を包む木々たちが少なくなってきて、森を出ると、
「うわぁ! 懐かしい!」
眼前に湖が広がっていた。手入れの行き届いた桟橋が、二人のいる方とは真逆の位置に設置されているのに対して、二人の立っている場所はただの崖だった。
「全然変わってないんだね」
「そりゃあな。俺が見つけた絶景スポットだから」
自慢げに将生は言うが、あながち間違いではない。自転車で走れるほどの道はあるものの、たくさんの人が来るような場所ではなかった。だからこそ、『秘密基地』なんていう呼び方をしているのだけれど。
空はまだ明るい。とても星なんて見えるはずはなくて、ましてや月すら出ていないのに、将生は青色の空を見上げていた。意味もなく、ただ何気なく——、
「どりゃあ!」
そうやって空の雄大さを一身に受け止めていた将生の脇腹に、人差し指が突き刺された。
「うぉっ! なんだよいきなり」
下手人は明里だ。綺麗な人差し指をこれ見よがしに将生に突きつけて、意地悪な笑顔を浮かべていた。
「いや、将生がぼーっとしてるから」
「いいだろ。まだ……一時四十五分だし」
「——もう一時四十五分なんだよ?」
明里はどこか寂しげにそう言い放った。「もう」。その一節にどれだけの思いが込められていたのか。将生には見当もつかなかった。
「よし! それじゃあ一緒に夜を待つか!」
明里はすぐに笑顔に満ちた表情で将生を見つめて、空を指差した。そして、そのままの勢いで明里の視線は空だけに向かう。人の行為を邪魔をしておいて、結局、自分は同じ行為をする——まるで天真爛漫だ。
「——今日は見られるといいね」
「そうだな……」
二人の短い会話が、崖の上で小さく響いた。
「ただいまー」
「おかえり」
黒塗りのモダンな扉を開け、帰宅した将生に母が憂いげな表情で声をかけた。言われることはわかりきっていて、聞き飽きたものだ。
「また遊んでたの?」
「……いいだろ」
日曜日に出かけるたびに行われる問いに将生は苛立ちながら返事をした。
「もうやめなさいって……」
「関係ないだろ。遊ぶかどうかは俺の勝手だから」
意識して大きな足音を立てて、二階に上がり自室に入って鍵をかけた。なぜ明里と遊ぶことを禁止されなければいけないのか。遊びたいと思うことは自然だろうに。
三年前の事故で幼馴染を失った将生の心の穴を埋めてくれたのが、誰でもない明里だった。それなのに、それを知っているのになぜ、母は会うことを禁止するのか。——明里のことを知っているのに、なぜ。将生には到底理解できなかった。
「美鈴……」
褐色の机に飾られた男女の写真。男の方はぎこちない笑顔を浮かべていて、女の方は満面の笑みを浮かべていた。
「これが最後の写真になるんだったら、ちゃんと笑ったのにな……」
写真に収められていたのは将生と美鈴だ。たしか、事故の数日前にあった美鈴の誕生日会で撮った写真だったか。一緒に写真を撮ることに照れて、苦笑いになってしまったのは一生の後悔としか言えない。
「さてと」
時計を確認してみれば、もう四時になろうとしているところだった。結局、星を見ることはなく、空が橙色のうちに帰ってきたのだ。それが明里との約束でもあった。
将生は自分の頬を叩いて、気持ちを入れ替える。いつまでも過去のことを悔やんでも仕方ない。今は今だ。そんなことを考えながら、ポケットの中に入っていた白樺の絵を取り出した時、あることに気がついた。
「————」
絵が描かれている方を表面とするなら、裏面。明里に渡された時には気づけなかった文字が書かれていた。それは見たこともないくれい丁寧な字で、隣にシミがついていることに気がついて。
「美鈴……」
数十秒前と同じ言葉を呟き、将生は布団に潜った。まだ四時過ぎ。昼寝というには遅すぎるし、一日を終えるには早すぎる。それでも将生は寝ることに努めた。——あの日と同じ過ちを繰り返さないようにと、差し伸べられた手を掴むために。
月曜日の十二時。将生は閑静な住宅街を自転車で走っていた。平日ということもあるのか、ひときわ孤独を感じる世界で、将生はただ一心に約束の場所に向かう。頬を撫でる風は少し冷えていて、不安を覚える。
「大丈夫、だよな」
ポケットに仕舞われた紙を握りしめて、ペダルを漕ぐ速度を一層早めた。家がどんどん遠のいていく。それにつれて母の言葉が脳裏をよぎった。「もうやめなさい」。今なら、その理由がわかる気がした。
「好きだよ」
——この言葉は美鈴に言われたんだったか。
気づけば、将生を乗せた自転車は森に入っていて、懐かしい記憶を蘇らせた。あれはたしか五年前——小学五年生の夏だ。湖を見に行く道中で告白の言葉を言われた。——結局、嘘だと言われて将生の恋心は弄ばれたのだけれど。
「来年もまた将生と一緒にいたいな」
——この言葉も美鈴に言われたんだ。
無心で漕いでいるうちに周りの木が姿を隠し始め、湖が近づいてきていることを知らせていて、三年前の春の記憶を思い出させる。あの時はそんなことは当たり前だと思っていた。来年も再来年も、ずっとその先も一緒にいて、あわよくば結婚なんてしていて。そのまま歳をとっていくんだと思っていた。
思い返せば美鈴との思い出はいくつもあった。数え切れないほどに。それはあの事故の後もずっと増え続けていって、今だってまた思い出になるのだろう。
「明里……」
いつもと変わらぬ秘密基地で、明里は空を見上げながら体育座りをしていた。自転車の音で気づいたのか、明里は振り返り、「ライト眩しいよ」と言って、また空に目を向けた。
「ごめん、もしかして待った?」
「すっごい待った」
ライトを消して、おぼつかない足取りで近づく将生に明里は冷たく返事をした。どうやら怒らせてしまったらしい。
「ごめんって」
言いながら、将生は明里の隣に腰を下ろして、明里と同じ方向に視線を向けた。
「星、綺麗だね」
明里の小さな声が将生の心に染み渡っていく。
午前一時。人工の光とは無縁の森から見上げた空は星で眩しかった。目に映る世界は、すべて星に占領されて、視線を下げれば雄大な自然を仕切りにして二つの星空が広がっていた。
「綺麗だ……。本当に、明里と星を見るのなんて何年ぶり……」
「大げさだよ。ほら、私ね、将生が来るまで暇だったから書いてたんだ」
明里から渡されたのは真っ黒な紙だった。——いや、鉛筆で黒く塗りつぶされた紙だ。意味がわからず、視線で説明を求めると明里も視線でそれに応じてくれた。
「ちゃんと星を描こうと思ったんだけどね。それだったら相応しくないからさ、将生にも描いてもらおうと思ったの」
「どういうこと?」
要領を得ない話し方に将生は困惑するが、明里は顔をそらして、絵の意味を教えてくれた。
「たぶんね、この先私のことを忘れそうになっちゃうことがあると思うんだけど、その度に私を思い出して、この紙に一つずつ星を描いて欲しいなって。そしたらいずれ完成するでしょ?」
明里の明るい声に、将生は目を閉じた。そうして不思議と笑いがこみ上げてくる。
「それだったら完成しないな。俺が明里を忘れることなんてないと思うから」
「そんなことないよ。私、今日で駄目そうだから」
聞きたくなかった言葉が、明里本人の口から語られた。どうして今そんなことを言わなければいけないのか。どうして今そんなことになってしまうのか。将生にはわからなかった。
「なんで……」
「だって元々会えなかったんだからさ。この一年半は奇跡だったんだよ」
「それにしたっておかしいだろ。俺、もっと明里と話したいことあるし、してあげたいことだって……」
自然と涙が溢れ出す。目の前の現実が受け止められなくて、自分の非力さが悔しくて。
「将生。その明里っていうのもうやめてよ。最後くらい」
再び明里から最後だということを告げられて、どうしようもないことを悟った。彼女が言うからにはそれは確実なのだろう。
「名前で呼んでよ」
明里は立ち上がって涙で顔を濡らす将生を見下ろした。昨日と全く変わらぬ姿で、不自然なほどに白い肌を露わにして、彼女は佇んでいる。彼女の向こうにある景色は見えないはずなのに、将生の双眸は捉えていた。
「——美鈴」
将生はゆっくりと立ち上がって、明里——明里美鈴の名前を呼んだ。事故以来、本人の前では一回も呼ばなかった名前を。
「やっと言ってくれた。私を気遣ってたみたいだけど寂しかったんだよ?」
「違う、美鈴のためじゃない。俺が、俺が美鈴と離れたくなくなるから……」
将生は無意識のうちに美鈴に抱きついていた。いずれ来る別れのために、抑えていた感情を全力でぶつけて。
三年前の七月、美鈴は死んだ。猛スピードのトラックにはねられ、即死だった。それから九ヶ月後だ。死んだはずの美鈴が公園に植えられた白樺の木の下に現れるようになったのは。最初は将生も幻覚だと思ったものだ。でも違った。美鈴の体は確かにそこにあって、触ることも話すこともできた。
「私もだよ。私も将生と離れたくない」
美鈴曰く、死んだあの日からしばらくは記憶がなくて、気づいたら、事故現場にほど近い公園に立っていたらしい。生きている時と感覚に違いはなく、空白の一週間は暗闇で一人でいると悲しげに語っていた。
「そうだろ? だから最後だなんて言わないで……」
「たぶん最後なんだもん。こんな時間に私がいること自体おかしいんだしさ」
美鈴は将生から離れて、あっけらかんと笑った。もう体は透けていて、自分でも気づいているはずなのに、どうしてそこまで明るく振る舞えるのか。しかしその言葉には説得力があった。美鈴が姿を見せることができるのは午後一時から午後三時二十六分まで。一日の七分の一だけだ。一年半続いた奇妙な関係だったが、その秩序だけは一度も崩されはしなかった。——今を除いて。
「大丈夫だよ。将生なら私がいなくても頑張れる。いつでも見守ってあげてるんだから」
そう言う美鈴の体がより一層不鮮明になっていることに気がついて、将生は必死に彼女の体に手を伸ばすが、虚空を掴み、もう触れられないことを知らされた。
「もう時間だね。——楽しかったなー。図書館で一緒に勉強したり、自転車に二人乗りしちゃったり。こうやって星も見たり」
「美鈴っ!」
「将生も楽しかったでしょ? だから忘れないようにその絵はちゃんと持っててね。完成するの楽しみにしてるから。それと——」
美鈴の声が遠ざかっていく。姿もほとんど消えていて、最後に彼女の顔だけが残って、一粒の涙が彼女の頬を伝って——、
『まさき、すきだよ』
声なき声が将生に届いたと同時に、美鈴は空気に溶けるように消えた。残ったものは彼女が好きだった麦わら帽子と、黒い絵。それ以外は何も残っていなかった。まるで今までの出来事が夢だったかのように。
「俺も、好きなんだけどなぁ……」
それを言葉にして伝える相手はもういない。そんな当たり前のことを当たり前じゃないと思っていた自分に腹が立つ。母は何度も警告してくれて、美鈴も幾度となく雰囲気を感じさせてくれていたのに。——全くどうしようもない。
「…………」
何も言わず、空を見上げる。星は変わらず自らの存在を主張していて、何十年も前の姿を世界中の人に伝えている。もしかしたら、明里もそうだったのかもしれない。事故の日の姿で、将生に自分の存在を主張するために、常ならぬ姿で現れたのかもしれない。
「帰るか。今日は学校だからな。——また今度」
いなくなってしまった彼女がそこにいると信じて、将生はそう言い残した。
死とは無情にも平等だ。たとえ何気ない日でも、失うはずがないと思っていた幼馴染にさえも、死はやって来る。そしてそれは、何もしない人にも何かを成し遂げた人にも訪れる。だから。
「また会えるよな」
また会えるその日まで。死と生の間の世界——『ななぶんのいちの世界』で会えるその日まで、美鈴の分も生きなければいけない。
将生は自転車のペダルに足をかけて、やり残したことを思い出して足元に落ちていた太い木の枝を拾った。そうして人目のつかないところに一枚の紙を置いて、重石として木の枝を乗せた。白樺の絵が描かれた方を裏面とするなら、表面。そこに書かれた文字が歪な丸の形をした月の光に照らされる。
『明日の午前一時に秘密基地に来い!
追伸、好きだよ。
明里美鈴へ
また今度会うときに返事をするから、この手紙を読んでおくように。毎週日曜日、俺は公園で待ってるからな!
将生より』
ご読了ありがとうございます。切ない恋をえがいたつもりでしたが、どうでしたでしょうか。
面白いなと感じた方は、ぜひ評価をよろしくお願いします。
また、今後の執筆技量向上のために、感想なども書いてくださると嬉しいです。