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barriEr -25- 〜日輪蓮side~

バタン

「はぁ……」

部屋に入ってドアを閉めると同時に、ため息が出る。

どうしよう。明らかに挙動不審だった。

香坂さんはフォローしてくれたけど、平井さんの目が疑いの目だった。

それだけじゃない。

死体を見てしまったり、自分の体に訳の分からない細工をされている事を知ってしまって、思い出すと力が入らない。

ドアにもたれながら、そのまま床に崩れる。

何でこんな事に……。


動揺して、落ち着かない俺自身とは正反対な、部屋の落ち着いた雰囲気に腹を立てる。

部屋なんかに苛立っても仕方ないけど。

引きこもっていたせいか、少し暗めの落ち着いた明かりでさえ眩しく感じる。

あの2人、いい人そうだったけど、やっぱ苦手だ。

非リア充にリア充は毒だ。

死んでしまったのは気の毒だとは思うけど、少し幸せそうに見えたのは気の所為かな。

本当にここから出られない。

そう思うと気が重くなる。

…………少し休もう。


動こうと思った瞬間

コンコンコンコン ガチャ


ノックされるけど返事をする間もなくドアが開く。

ドアにもたれていた、それも動こうとして不安定な状態でドアに押されたって事は……

当然前に倒れる訳だ……!


ドタドタッ


痛ってぇ。

ヤム〇ャさーん!!って叫ばれる様な体勢で倒れてる俺。

「何してんの? ……あ、ごめん」

「あ、いや。大丈夫」

痛い。

ドアの向こうには平井さんが立っている。

「えっと、どうしたの?」

床に強く打ち付けた額をさすりながら立ち上がる。

「別に。」

沢〇エリカか。

そう言って部屋に入ってくると、すぐにソファの上で体育座りの様な体制で座り、本を読み始める。

俺もその向かい合わせのソファに座った。

あ、平井さんちゃんと靴脱いでる。


「……………………」

「……………………」


この空気は気まずい。

「あっ……えっと、何、読んでんの?」

青いブックカバーを付けた、サイズからして、文庫本であろう本を指差して言う。

コミュ障だけど、この空気の中にいるよりはマシだ。

「これ? 『死んでみた』」

「へ?」

「知らないでしょ?ネットで批判さえもされていないのよ。発売されて1ヶ月もしない内に、しかも初版で、中古本屋で100円で売られてたわ。内容も在り来たりだし。面白くない」

ディスりながらもページをめくる。

「じゃあ、何で読んでるの?」

「…………………………。」

平井さんは黙る。

まずったかもしれない。

「……似てるからよ」

「え?」

「似てるからよ。この本の主人公と私が」

『死んでみた』なんて殺伐としたタイトルの本の主人公に似てるって、どういう事だろう。


……………………………………


また沈黙が流れる。

と思った矢先、平井さんが口を開く。

「ねっ……ねぇ」

「なっ何?」

「あんた本当は、思い出したんじゃないの……?」

少し口篭らせながら言う。

「な…何を「“嘘” よ」

間髪入れずに言ってくる。

「どっどうして、そう、思うのさ」

平井さんは少し挙動不審だ。

いや、お互いに挙動不審だ。

核心を突かれたら、落ち着いてなんかいられない。

「挙動不審だったからよ」

やっぱり。

「だから、もしかしてって思って。あんなに嫌がってたから、その、聞こうかどうか迷って……」

あ、だから挙動不審だったのか。

「……思い出したよ。“嘘”ってやつ。けど、ごめん。言いたくない。どうせ、無理だから。確かに愚かだよ。こんな嘘」

自嘲気味に言う。仕方ないじゃないか。

こんな


パァン!

何。痛い。


この痛みは、右頬からきているものだとわかった。

さっきまでソファに座っていた平井さんが、いつの間にか俺の目の前に背伸びをして立っている。

平井さんが、俺の頬を平手打ちした。

「ばっかじゃないの」

何処ぞの女刑事が言いそうな事を……。

「言いたくないのは分かるわ。けど、

“嘘”だって“思い”でしょ?簡単に愚かとか自嘲しないでくれる?」


……………………


また沈黙が流れる。

けど、この空気は、嫌いじゃない。

「うん。ごめん」

気持ちが少し軽くなった。

「分かればいいのよ!」

平井さんはそう言って、腕を組む。

そしてすぐに微笑んだ。

……俺の“嘘”、叶うかもしれない。



今まで感じていた壁が崩れる音がした。

色々話していて思った。

俺らは似てる。

「ねぇ。何で引きこもりになっちゃったの? 貴方、自分が思ってる程コミュニケーション障害じゃないわよ?」

「そう、かな?」

「そうよ。確かに人見知りだとは思うけど、今こうして普通に話してるじゃない」

「……実はさ、好きだった子に、振られちゃって。何か、学校に行きずくなっちゃったんだ。それで」

また、某女刑事の台詞がくるかと思っていたけど、何もこない。

「ふーん」

え。

「……それだけ?」

「『かわいそう』とか『もっといい人がいる』って言って欲しかった?」

首を傾げながら言ってくる。

「いや、意外な反応が返ってきたから。てっきり罵倒されると思って」

「何で罵倒する必要があるのよ。結果はどうあれ、あんたは自分の思いを伝えたんでしょ?称えはすれど馬鹿にする理由なんてないじゃない。恋愛に関係なくても、私には……できないから」

平井さんは少し俯いて、手に力を入れる。

彼女にも、何かあったんだろう。


…………言ってみようか。

「あのさ」

「何?」

すぐさま顔を上げてこっちに顔を向ける。

改めて顔が近くなると、照れくさい。

平井さんは美人。俺は凡人だから。

本当に言ってもいいのか分からないけど、言おう。

「俺がついた嘘……聞いて、くれる?」

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