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lie 〜四宮一菜side〜

謎の緊張が私を支配する。

今から、見てはいけないようなものを見ようとしているような気がして。

ドアノブに手を掛けようとした瞬間、

『おめでとうございます。能登望美様。清原勇様。クリアで御座います』

嘘! 本当に!?

よかった。私の勘違いだったんだ。

ほっと胸を撫で下ろす。


そのまま部屋に戻ろうと思ったけど、もう出て行くであろう2人に一言言おうとドアをノックする。

…………?

返事がない。

鍵は……開いてる。

ドアを開けると、柑橘の、みかんの様な香りがする。

少し覗いてみるが誰もいない。

部屋に入ると、きつい柑橘系の匂いがした。


あれ?


嫌な時だけ、私の勘は当たった。

ベッドの向こう側に少しだけ足が見える。

女性の足と、男性の足。

履いているものから、清原さんと、能登さんだという事が分かる。


慌てて2人に駆け寄る。

「……けほっ」

傍に寄った瞬間の、血と、むせ返るような柑橘の臭いが私に吐き気を催させる。


「…………っ」

そこに、あったのは寄り添うように倒れ伏す2人の死体。

よく見てみると、能登さんは背中、清原さんは胸に刺し傷がある。

清原さんの手には凶器であろう鋏が力なく握られている。

能登さんを殺した後、自殺したというのが考えやすい。

けれど、おかしい。

2人共致命的な傷なのに、血痕は1つも見られない。

現に、2人は死亡している。

血痕の代わりのように、透明なオレンジ色の液体が能登さんを、清原さんの服と顔を、凶器である鋏の刃先を濡らしていた。

一方の清原さんの傷口からも、血は流れておらず、代わりにその周辺にピンク色の石が転がっている。


コンコン

誰かがノックしてきた。


「勇くーん。さっきの放送何? てか入ってええかぁ?」

「香坂さん! 能登さんと清原さんが」

「えっ一菜ちゃん!? 何があった……うわぁん!」

ドアを開けて、走ってきた香坂さんは、いきなり死体を目撃して、少しふらつく。

そんな状態だけれど、状況を整理しようとしている。


「取り敢えず皆呼んでくるわ」

「いえ、その必要はないわ」

香坂さんの後ろにはもう残りの3人が来ていた。日輪君はもうグロッキー状態で、有路君に肩を貸してもらってようやくの状態。


私は今自分が体験した事、考察を言った。

「なるほどなぁ。おれもそうやと思うわ」

顎に手をあてながらうんうんと頷く。

「けど、何で清原さんが能登さんを殺したのかが分からないんです」

「あー。この子らと付き合い長いおれにも分からへんけど、理由もなく携帯潰すなんて事せーへんと思うねん。内容までは分からんけど、携帯が原因ちゃうかなぁ」

床の無惨に潰された携帯を指差して言う。

確かに。消された記憶の手掛かりになるかもしれない物を、理由もなくわざわざ壊すわけがない。

「さっきクリアゆーてたやん。って事は、2人はその“嘘”ってやつを思い出して実行した。もしくは無意識のうちにやったって事やろ?」

「そうね。そしてその“嘘”は、2人の生死に関わるものだった」

平井さんが真剣な面差しで言う。

「もしかして、勇君、能登さんを『殺す』って言ったんちゃうか?」

「何で殺すって嘘をつかなきゃいけないのよ」

間髪入れずにつっこむ。

「まぁ、あんなに仲良かったら、『浮気したら殺す』とか冗談言ってもおかしくないですけどね」

笑いながら有路君は言った。

「真輔君の言う通りやねん」

「「「え?」」」

「いや、あのな?例えば、割と仲のいい男が名前で呼ぶとキレそうになるぐらい勇君ってちょっと嫉妬深いというか、重い所があるんよ。 だからそうかなって」

あ。だから他の人は名前で呼んでるのに、香坂さんは能登さんだけ“望美ちゃん”じゃなくて、“能登さん”って呼んでたんだ。

「なるほどね」

納得の様子。

「でも、それこそどうしてお互いにそんな嘘をつきあったんでしょうか」

私の疑問に皆も首をひねる。


「嘘……愚かな人……」

香坂さんは何か呟いている。

「香坂さん?」

返事がない。

「愚かな人……愚者……fool……!」

「頭大丈夫?」

この状況でそんなギャグ的な事が言える平井さんはすごいと思う。

「フール。エイプリル……フール。そうや! エイプリルフールや!」

「どういう意味ですか?」

皆首を傾げている。私もその1人。

ん?……あ、そうか!

「エイプリルフールだから嘘をついたんやん」

「嘘をつくだけなら、何でそんな物騒なのを選んだのよ」

「エイプリルフールについた嘘は、向こう1年本当にならんってジンクスがあるんよ。せやからついたんや」

…………! 待って。

「という事は、クリアしてここを脱出するためには、去年のエイプリルフールについた嘘を思い出して、実行すればいいわけね」

「待って下さい! てことは…能登さんと清原さんは、死ぬしかなかったって……事ですか?」

少し空気が明るくなっていたけど、私の言葉でまた重くなる。

「……そうなるな。残念だけど、今の仮説が合ってるんなら、そうやな」

「そんな……」


しばらく沈黙が流れた後、平井さんが口を開く。

「状況の考察も大事だけれど、今は彼らの死体を何とかしてあげた方がいいんじゃないかしら。それに、何で血痕が無いのかも、かなり重要だと思う」

「そうやな。ほんまに用意周到な事で、……地下に死体安置室があったわ」


皆で2人を丁重に運ぶ。

清原さんを香坂さんが、能登さんを私と平井さんが運ぶ。なぜ私達が運ぶのか聞いてみると、

香坂さんいわく、「勇君が怒るから」

……そうかもしれない。

今まで何も話さなかった日輪君が口を開く。

「ねぇ。棺桶にさ、2人一緒に入れてあげられない? 何か、離すのが可哀想な気がして……」

皆がその意見に頷く。

ーーーーーーー

お互いが向き合えるように、並べて入れてあげる。

少し狭そうだけれど、この方がいい。

息切れ混じりに香坂さんが言う。

「1回、休憩がてら皆で話し合わへん? 今までの事とか色々と」


言う通り、最初に皆が集まっていたロビーに集まり、ソファーに腰掛ける。

「まずは、あの液体と石が何かって話やね」

「でも現物がなければ分からないわ」

ほんと平井さん香坂さんにつっかかるなぁ。

「それなら僕が持ってます」

そう言って有路君は胸ポケットから、小さな小瓶と石を取り出し、テーブルに置く。

「ちょっ持ってきたの!?」

ガタンと音をたてて立ち上がる。

「これが血痕が無いっていう謎の答えです」

有路君は断言する。

「どういう事?」

「見てて」

そう言って立ち上がり、左腕をまくって、自らナイフで傷をつけた。

「きゃんッ!」「ぅわぁ!」

男2人が同時に目を隠して悲鳴をあげる。

普通に腕からは血が流れ落ちる。

「これがどうしたっての? 痛々しいだけじゃない」

平井さん辛辣。

2人はまだ目を隠してる。


次の光景に皆目を奪われた。

流れ落ちる血の雫が、徐々に黄色い花へと変わった。

「嘘」

「これ、マジで?」

私を含め、皆驚きを隠せないでいる。

「さっきどこでかは分からないけど、手を切って、それでこの血の変化を見つけたんです。能登さんと清原さんがこれと同じだったんなら、皆も多分そうですよ」

気になるけど、試そうという気にはならない。

周りを見てみると、皆も同じらしい。

皆、疲れで顔色が悪い。

同じ事を香坂さんも察したらしい。

「え、と。そろそろ皆部屋に戻ろぉか。あ。それとも全員で見て回った方がええかな? さっきの事もあるし

「無理!!!」

日輪君が声を荒らげて叫ぶ。

「あ、えと……。その、何、嘘ついたか、分かんないから。……ごめん。知られたくない」

「そ、そうやんな! 実際おれも何言ったか分からへんしな! んじゃあ、何かあったら呼ぶって事で! 解散!」

※感想で指摘を頂いたので、書き直しをいたしました。

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