eNvy -25.44- 〜清原勇side〜
「っと 悪ぃ。痣になってないか?」
部屋に入って落ち着いてくると、望美の手首を強く掴んでいる事に気付き、離す。
「ううん。大丈夫」
いつもの笑顔。今までにどれだけこの笑顔に助けられたか。
「あー……。かっこ悪ぃ。さっきのキレるとこじゃねーし」
もう成人してるのに。自分が恥ずかしくなる。
「あんな理不尽な放送聞かされたら誰だってキレるよ。あの子、平井さんも同じなのよ」
望美が大人なのか。オレがガキなのか。
情けない。望美を守れるようになりたい。だから、何としてでもここから一緒に出る。
「ありがと。落ち着いた。ヒントってのを探すか」
「そうね」
2人で手分けして、どんなものか分からない、ヒントとかいうのを探す。
ーーーーーー
……見つからない。
普段から結構ゲームやってたし、脱出ゲーム感覚でいけると思ったのに。
見つけたのは何の役にも立ちそうにない鋏だけだ。
「望美!何かあったか?」
「………………」
「? 望美!」
「えっ…………あ…………」
何か様子がおかしい。俺は望美の傍に歩み寄る。
そして急な次の言葉に、オレは耳を疑った。
「私と……別れて欲しいの…………」
「……え…………今……何て?」
はっきりと聞こえていたけど、認めたくなかった。
幻聴という事にしておきたかった。
「私と、別れて」
「…………何で」
自分でも驚くくらい低い声が出る。
「ごめんなさい。」
望美は震える声で謝る。
「……何で? せめて、何でか言ってくれよ」
「ごめんなさい。言えない……」
気持ちの悪い黒くてドロドロした感情が溢れてくる。
「何で!!」
望美の両肩を掴む。その時、さっきまで持ってなかった携帯を、望美が持っている事に気付いた。
「望美。それ、貸せ」
「だめ……見せられない…………」
「いいから貸せよ!」
力ずくで携帯を奪い取る。
容赦なく見ていく。望美は諦めたようにで、取り返そうとしてこない。
「…………は?」
1通のメールを見て携帯を落とす。
メールの内容は、
知らない男の名前で『愛してるよ』
それと同時に怒りで携帯の液晶を割り、踏み潰した。
「きっ……きよ……く…………ん」
ガタガタと震えて、怯えた目で俺を見る望美。
「わっ……わた……わた……し…………」
「いや、いいんだ」
低く、恐ろしいほど優しい声で言って、いつものように、優しく抱きしめる。
「清……君…………?」
「いいんだ」
他の男に奪われるくらいなら。
俺の事、愛してくれないなら。
さよなら。
鋏を望美の背中に突き刺した。
今オレはどんな顔をしてるんだろう。
望美を殺して悲しい?
他の男に奪われなくて嬉しい?
望美は何か言いたそうにしているけど、もう声も出ないらしい。
もう……喋らなくていい。
口から血を流して、目がだんだんと虚ろになっていく望美に、最後で最期のキスする。
こいつの血、こんなに甘酸っぱいんだな。
望美から鋏を抜くと、そのまま自分の心臓に突き刺す。
やっぱり、痛いもんなんだな。
少しすると、脳内麻薬が働き始めて、痛みが無くなっていく。
……いや、違うか。
オレの意識が、無くなっていってるだけか。
俺は、もう死んでいる望美が壁や床に打ち付けられないように庇いながら、一緒に倒れる。
その際、宙に舞う、俺と望美の濃密な赤い血は、だんだんと丸いピンク色の石、透明なオレンジの液体に変わっていった。
その光景を、意識が無くなる寸前に、瞬間的に見ただけだけど、酷く、綺麗に、見えたんだ。