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len I novEl 〜平井和side〜

とりあえず、自分の部屋へ戻ってきた。

「どうしよう……。『思い出した』なんて言えないわよ…………」

そう。思い出してた。

さっきの話の最中に、部屋にあった、ロミオとジュリエットを読んでた事を思い出して。


うろうろと部屋の中を歩き回っても答えは出ない。


もうこうなったら………………!!



コンコンコンコン ガチャ

ノックされるけど返事をする間もなくドアが開ける。

そこは日輪さんの部屋。


あれ。なんか当たった。

ドタドタッ

不思議な体勢で倒れてる日輪さん。


「何してんの?……あ、ごめん」

この状況を考えると、明らかに私が悪い。

「あ、いや……大丈夫」

そう言って立ち上がる。

「えっと……どうしたの?」

「別に。」

沢〇エリカか。

そう言って部屋に入らせてもらう。

いや、勝手に入ったって表現の方が正しいか。

もっとましな態度があるだろうに私!

どうしよう。とりあえず、こういうキャラで見せてしまったら、貫き通すしかない。

そう考えてすぐ、ソファの上で体育座りの様な体制で本を読み始める。

もちろん、ちゃんと靴は脱ぐ。

「…………………」

「…………………」

この空気は気まずい。

「あっ……え…と、何、読んでんの?」

空気に耐えかねたであろう日輪さんが話しかけてくれる。

「…これ?『死んでみた』」

「へ?」

「知らないでしょ?ネットで批判さえもされていないのよ。発売されて1ヶ月もしない内に、しかも初版で、中古本屋で100円で売られてたわ。内容も在り来たりだし。面白くない」

…………だから何でよりによってこんな本なのよ! もっと純文学とか恋愛系とかあったでしょう!

まだ読めてないけどページをめくる。

「…じゃあ、何で読んでるの?」

「……………………。」

嫌な質問ね。

「……似てるからよ」

「え?」

「似てるからよ。この本の主人公と私が」

純文学や恋愛小説の主人公なんて、私には到底似てもにつかないわ。


…………………………………

また沈黙が流れる。

……仕方ない。聞いてみよう。

「ねっ…ねぇ」

「なっ…何?」

「あんた……本当は、思い出したんじゃないの………?」

少し口を篭らせながら言ってしまった。

「な…何を「“嘘” よ」

間髪入れずに言う。

「どっどうして……そう、思うのさ」

少し挙動不審になってる。

私もだけど。

「挙動不審だったからよ。だから、もしかしてって思って…。あんなに嫌がってたから、その、聞こうかどうか迷って……」

「…………思い出したよ。“嘘”ってやつ。けど、ごめん。言いたくない。どうせ、無理…だから。確かに愚かだよ。こんな嘘」

自嘲気味に言う。

その言葉に腹が立つ……!


パァン!

痛い。

右手から痛みが伝わってくる。

少し背伸びをして、私は日輪さんを平手打ちした。

「ばっかじゃないの。言いたくないのは分かるわ。けど、“嘘”だって“思い”でしょ?簡単に愚かとか自嘲しないで」

嘘でも本当でも、自分の思ってる事を発言する事が許されない私と貴方は違う。

彼が羨ましい。


「うん。ごめん…」

叩いた事に怒らず、謝る。

「分かればいいのよ!」

私はそう言って、腕を組む。

すると自然に口角が上がった。


ーーーーーーーーーー

色々と話していて、私と彼は似ていると思った。

今まで、ろくに異性と話した事なんて無かったし、話そうとも思わなかったけど、彼は何だか違う。上手く言い表せないけど。

「ねぇ。何で引きこもりになっちゃったの?貴方、自分が思ってる程コミュニケーション障害じゃないわよ?」

「そう、かな?」

「そうよ。確かに人見知りだとは思うけど、今こうして普通に話してるじゃない」

「実はさ………好きだった子に、振られちゃって……。何か、学校に行きずくなっちゃったんだ」

へぇ……。やっぱ好きな人いたんだ。

「ふーん」

え。

「…それだけ?」

「『かわいそう』とか『もっといい人がいる』って言って欲しかった?」

彼の反応を疑問に思う。

「いや、意外な反応が返ってきたから。てっきり罵倒されると思って」

「何で罵倒する必要があるのよ。結果はどうあれ、あんたは自分の思いを伝えたんでしょ?称えはすれど馬鹿にする理由なんてないじゃない。恋愛に関係なくても、私には……………できないから」

手に力が入ってしまう。

「あのさ…」

「何?」

はっとしてすぐさま顔を上げる。

少し躊躇った後、彼は口を開く。

「俺がついた嘘……聞いて、くれる?」


「…………え?」

「だからっその、嘘を……」

「あんなに嫌がってたのに?」

「うん。君には、聞いて欲しい」

「……いいよ」

「俺の嘘は


ガチャッ


急にドアが開いた。

そして、キィっと少し耳障りな音をたてながら、徐々に開いていく。

そこから1本の腕がのび、封筒を床に置く。

そしてすぐに手を引っ込めた。


「っ! 待て!!」

日輪さんが後を追おうとしたけど、もうそこには誰もいなかった。

「くそ……っ」

そう言って、封筒を拾い上げ、開封する。

ここからでは何が入っているか見えない。


何かカードのようなものと封筒を乱雑にポケットにしまう。

「ねぇ。何が書いてあったの?」

「ちょっと行ってくる」

私の質問に答えず、彼はドアを開ける。

行かせてはいけない気がした。

もう戻って来ない気がした。

「待って! 私も行く!」

彼に駆け寄る。

「……1人で大丈夫だよ」

少し引き攣った笑顔で言う。

その顔に、私は俯いてしまう。

「…………分かった。早く、帰って来なさいよ。」

彼の裾を掴んだ私の手は震えていた。

「大丈夫だよ」


私が裾から手を離し、彼はドアを開けて外に出ようとして、少し止まる。

「平井さん。耳、閉じて」

疑問に思いながらも、両手を両耳にあてる。

私に背を向け、彼は言った。

「えっ……」

「それじゃあ」

ドアを閉めた。

私の顔も見ずに。

最後に見た彼の顔は私と同じくらい、赤かった。


ごめんね。

耳、ちゃんと閉じてなかったの。



彼が戻って来ない。

やっぱり、意地でもついて行けばよかった。

『好きな人を、守る事』

真っ赤な耳をしながら言った彼の言葉が頭から離れない。

「男が女を守らなきゃならないなんて、誰が決めたのよ。守るなんて事できなくても、支える事ならできたわよ……。早く、帰ってきてよ……」

さっき彼が座っていたソファに座る。


ドンッ!!


「…………っ!」

いきなりの大きな音に驚く。

後ろを向いても、誰もいない。

代わりに、ドアに何かが突き刺さっている。

外から刺されたものだ。

刃先がこちらに向かって光る。

ドアと一緒に、カードも刺されていた。

『ジュリエットを迎えにおいで。ロミオ。』

は…………?

私はそのまま駆け出した。


どこにいるかも分からない。

このまま走っていても疲れるだけで効率が悪い。

けど、走らずにはいられない。

頭を回すよりも、足を回したい。


……どれだけ走り回っただろう。

中庭に着く。

閉め切られたドアの前で止まり、息を整える。


お願い。ここにいて。

それで言いたいの。

貴方のように勇気を振り絞って。

無様に耳を赤くして。

私の嘘が、『誰かを好きになる事』だって。

貴方に言いたいのよ。

「『貴方が……蓮が好き』だって……!」


『おめでとうございます。平井和様。クリアで御座います』

うるさい!

今はどうだっていい。


重いドアを開ける。

中庭なのに、花畑なのに、中央が陸になった、ドーナツ型の池がある。

その真ん中に、いた。

不吉な十字架の石にもたれかかって。


近くに寄る。

傍らに落ちているカードと瓶。

置いてある赤い液体の入った瓶。

カードには、

『This is poison.

You must drink if you want to lose this.』

……そっか。

彼、守ろうとしたんだ。

頬が濡れる。

『嗚呼、ロミオ。どうして私の分の毒を残しておいてくれなかったの』

こんな言葉が思い浮かんだ。

私がロミオなら、このセリフは合わないけど。

同じものじゃなくても、同じ道筋は辿れる。

彼の寄り添い、赤い液体を飲み干す。

……喉が焼けるように熱い。

「……っ! けほっ……ゲホッ」

はは……。

毒飲んで吐血って、ほんとにあるのね。

毒と私の血で、視界は赤いのに、青いものがチラチラと視界に入る。

蝶。

私の血……蝶になってる……?

私の口から吐き出された血は、やがて綺麗な青色の蝶になった。

私自身は、そんな綺麗なもんじゃないのに。



ゆっくり、目を閉じる。

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