blood 〜四宮一菜side〜
「……ちゃん! 一菜ちゃん!」
名前を呼ばれて我に返ると、目の前には香坂さんがいた。
「大丈夫? 何があったん?」
「……いえ、大丈夫です」
香坂さんが手を差し伸べてくれるので、手を借り、立ち上がった。
「とりあえず座り? なんやったら寝てもええし」
「有難うございます」
私達は同じソファーに腰掛けた。
「……! 1回、試してみるか? 痛いと思うけど」
テーブルの上に置いてある他の写真と、私が手に持つ写真を見て気付いたらしい。
今までその事を話していなかったのに、本当に鋭い。
「…………そうですね。腹、括ります」
「お、おう。なんか武士っぽいな。でも、やっぱ女の子にそんな事させられへんわ。おれが先にする」
そう言って、キッチンに行き、ナイフを取ってきた。
そして指を少し切る。
傷口から血が溢れ、重力に従って落ちていく。
床に落ちる頃には、緑色の羽になった。
「おれは、違ったみたいやね。どうする? やめとくか?」
星は私だ。もう確定してる。けれど、
「いえ、やります」
指を切る。
すると、落ちる血の雫の1粒1粒が青く発光し、やがて少しずつ光を失いながら白、黄色、オレンジ、赤と色を変え、最後には消えた。
見て確信した。
私は星だ。写真も星だ。次は私だ……!
力なくナイフを落とす。
「一菜ちゃん。落ち着き。まだ死ぬって決まった訳やない」
「けれど、今までの流れはそうですよね」
「それは……」
「すみません。1人にさせてくれませんか」
「気持ちは分かるけど……。せやかて危ないやろ」
「お願いします」
「………………分かった。でも、なんかあったら、絶対呼ぶんよ」
悲しそうに言って、香坂さんは部屋を出て行った。
…………申し訳ない事をしたな。
けど、1人になりたかったから。
下手に人と一緒にいて、死ぬのが怖いなんて感じてしまったら、余計に辛くなる。
死ぬのを待つくらいなら、本でも読もう。
自分でもおかしいくらい、酷く落ち着いているなと思う。
飴でもないかとポケットを探る。
出てきたのは、あの2枚のカード。
『Don't』『mind.』
「……………………っ!!」
怒りが込み上げ、カードをぐしゃぐしゃにして、ゴミ箱に投げ捨てる。
人の命を何だと思ってる!!
本棚を見て、目に入ったのはさっきの星の本。
何だか皮肉に感じられる。
手に取り、パラパラと捲っていく。
…………へー。
誕生星なんてあるんだ。
私の誕生日は……タラゼド…………知らん。
またパラパラと捲る。
「あれ」
見た事のある写真がある。
そうだ。写真だ!
先程有路さんに渡された写真と見比べる。
写真の一番左の星と完全に一致した。
もしかしたら他も同じかもしれない。
片っ端から見比べていく。
そして、全て見つけた。
左から、
3月30日:ゼータ・カッシオペオアェ
3月31日:シェダル
4月1日:デネブ・カイトス
4月2日:ゼータ・アンドロメダェ
4月3日:エータ・カッシオペイアェ
4月1日に、✕がついている。
他の写真も確かめよう!
……ない。
いくら本棚を探っても果物、石、魚、蝶の本はない。
……もしかして、こういう本はそれぞれの部屋にある……とか?
いてもたってもいられず、部屋を飛び出し、死んでしまった皆の部屋に向かう。
息を切らしながら清原さん達の部屋に入る。相変わらずの部屋に充満する柑橘の匂い。呼吸が安定していないから吐きそうになる。
なんとかこらえ、本棚の本に手をのばす。
………………あった。
果物と石の本。
…………………
さっきの星のように、全部見つかった。
3月30日:アヴォカド
3月31日:アテモヤ
4月1日:ストロベリーグアバ
4月2日:パンノキ
4月3日:カンラン
3月30日:エンジェル・スキン・コーラル
3月31日:イエロー・オーソクレーズ
4月1日:パイライト
4月2日:セミバロック・パール
4月3日:スリー・ゴールド
どっちとも、4月1日に×がついている。
日輪君と平井さんの部屋にも同じく本があった。
平井さんの本は蝶ではなくて虫の本だったけれど。
3月30日:ナミノハナ
3月31日:フウセンウナギ
4月1日:ブリモドキ
4月2日:ハチビキ
4月3日:サクラマス
3月30日:タガメ
3月31日:カブトムシ
4月1日:スジクワガタ
4月2日:ワラジムシ
4月3日:シオカラトンボ
これも同じ。
全部の写真の4月1日に、×がつけられていた。
これは何を意味してるの…………。
ない頭を振り絞る。
突如、香坂さんの『エイプリルフール』という言葉が頭に浮かぶ。
エイプリルフールに×…………。
×……消す?
エイプリルフールを消せって事?
……………………!
…………思い、出した。
私の、『嘘』