tears 〜四宮一菜side〜
「はい。少しは落ち着けると思う」
有路さんが水を手渡してくれる。
「ありがとう……」
そう言って受け取り、少し口に含み、飲み込んだ。
あれから少しは落ち着いた。
別に、仲が良かった訳でもない。
けれど、2人の遺体を見て、何故か涙が溢れて止まらなくなった。
さっきのロミオとジュリエットのシーンに重ねて見てしまったからだと思う。
清原さん達が亡くなった時も同じ位悲しかったけれど、さっきの様に涙は出なかった。
少し、清原さんと能登さんに申し訳なく思う。
「落ち着いた?」
「うん。もう、大丈夫」
有路さんと香坂さんには本当に感謝しなければ。
有路さんは私に向き合うように腰を降ろす。
その時、手に持っていた、魚と蝶をハンカチの上に乗せ、テーブルに置く。
「やっぱり……死体はきつい?」
「え?」
まるで慣れているかの様な口ぶり。
穏やかな顔で続ける。
「清原さん達の時平気そうだったのに、今回は、泣いてたから」
「…………有路さんは、慣れてるんですか?」
「え……」
穏やかだった顔が、少し引きつる。
「清原さん達の時も、今回も、どうして普通に死体を見たり、触ったり、そして何より、どうして血だった物を、平気で触れるんですか」
「……………………」
少し言い過ぎたかもしれない。
でも、耐性があるにしても限度がある。
それに、今まで、有路さんの発言には、疑問に思う事が何度かあった。
クスッ
え…………?
今、笑った?
「確かにね。慣れてるかも、しれないね」
「どういう、意味ですか?」
有路さんはいつもの笑顔で言う。
本来なら安心出来るはずなのに、今は少し、怖い。
「落ち着いたようだし、僕は部屋に戻るよ」
質問に答えず、有路さんは出て行こうとする。
「まっ……「いずれ、教えてあげる」
そう言った笑顔に、少し寒気がした。
「あ、そうそう」
有路さんは胸ポケットから何かを取り出す。
「これ、渡しておくね」
そう言って私に手渡した。
受け取って見た瞬間、体に悪寒が走り、それを落としてしまった。
そして私の体も膝から崩れ落ちる。
それは、星の写真。
また誰かが死ぬ。
もしかしたら自分かもしれない。
そんな恐怖に、また、目から光る涙がこぼれ落ちる。