Move -18- ~有路 真輔side~
一菜に連れられ、最初に来たのは香坂さんの部屋。
彼女は躊躇せずノックをする。
「はーい。ちょっと待ってなぁー」
ガチャとドアが開く。
「どーしたん? なんかあった?」
目を擦りながら香坂さんが出て来た。
もしかしなくても寝ていたらしい。
「……寝てました?」
一応確認の為に聞いてみる。
「うん。寝とったよ?」
そう言って欠伸をする。
「じゃあ、誰がクリアしたか……聞いてませんね」
一菜はがっかりした様に言う。
「えっ!? 誰かクリアしたん!? 誰!?」
「今、それを聞きに回ってるんです」
まじかぁ……と香坂さんは少し落ち込む。
「四宮さん。次、聞きに行った方が良くない?」
「あ、そうですね。香坂さん、お邪魔しました」
2人でお辞儀をして立ち去ろうとする。
「待って待って! おれも行く! せっかく集まったんやし、 寝落ち組で行動しような」
「「え?」」
最後の一言に、僕も一菜も振り返る。
その振り向きに驚いたのか、香坂さんも少し動揺している。
「えっ ちゃうの? 聞いて回っとるって事は、2人共聞いてなかったって事やろ? だから、寝てたんかなって思っとったんやけど……。ちゃう?」
「いや、あってます」
一菜が少し詰まりながらも答える。
相変わらず鋭いな…………。
「じゃ、そゆ事で、行こか!」
「そうですね!」
………………………。
日輪君と平井さんは、部屋にいなかった。
他の部屋も見ていく。
ある程度の部屋を見てから、香坂さんが口を開く。
「ここまで探して、どっちにも会わんのって、おかしない?」
「そうですよね。どっちかになら会ってもおかしくないのに」
「まだ行ってない部屋におるんか、入れ違いか、もしかしたら最悪……」
「待った! 嫌な事は考えないでおきましょう! まだ出会えてないだけですよ!」
一菜は明るく言ってみせるけど、その作られた笑顔は、心配色に曇っている。
「四宮さんの言う通りですよ。このお屋敷、広いですから」
笑顔でそう言うと、一菜は少し安心した様な顔をした。
だけど、その“最悪”だと、僕は思うんだ。
中庭になっている部屋より、二回り小さいドーナツ型の池の、中央の陸部分で、2人を発見した。
……既に息を引き取った状態で。
一菜が隣で嗚咽を漏らしながら泣く。
僕と香坂さんは水に入り、2人の遺体をこちら側の陸へと運んだ。
その時、それまで2人の周りを飛んでいた蝶も、泳いでいた魚も、まるで電源が切れてしまったかの様に動かなくなった。
地面に落ち、水面に浮いている。
もう二度と、動く事は無かった。
僕は一菜の背中をさする。
「2人は、おれが安置室に連れていっておくわ。一菜ちゃん、ちょっと部屋で落ちついてき。有路君、一緒におったげて」
「はい」
香坂さんの図らいに感謝しつつ、僕は泣く一菜の肩を持って支える。
そして一緒に一菜の部屋へと向かった。