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常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第六章 再び常世の国へ
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桜の森の満開の下 その3

「あらら! そのアイテム、もう期限切れたのぉ?」

「くっそ!」

 朝日はさっきみたいに古銭を投げつけたが、回避されてしまう。大和は足を思い切り振り回して、逃れようとする。遥華の顔に焦りが浮かぶ。木の実の功徳か、大和の力が強くなった上、朝日の攻撃のために、力を分散させねばならない。神は老木の周りを廻るように這っている。桜の木が折れて、露子たちの頭上に落ちてきそうになった。朝日の掛け声でなんとか避けたが、まずい状況だ。


「手こずらせるなぁ! 馬鹿神! 好き勝手暴れてないで! 娘さんを誑かす悪い虫をやっつけなさいよ……ああ……うるさい! うるさい! 私のせいだって? ノータリンのくせに! 娘と服の区別もつかないの! うっ!」

「外れた! Aとの区別……? この服か?」

 ずっと持っていた買い物袋、その中のセーラー服。これは一日Aが着ていたはずだ。なんだか変な気持ちになるが、あのモンゴリアンデスワームの認知力が低いなら、利用できそうに思えた。


「朝日! ほら! ほしがってたやつ!」

 大和は模造刀を朝日に放り投げた。

「俺がモンゴリアンデスワームを引き離す! お前らでイカレサイコ女をやれ!」

「お兄ちゃん! 大丈夫なの!」

「平気だよ! 体軽いからなぁ! 超キモイ虫には絶対捕まりやしねえよ! ほらぁ、パパ! こっちよ!」

 

 大和は手を叩いて、デスワームを挑発して、森の奥へと進んでいった。残された朝日は、刀をかざして、遥華と向き合う。

「霜鳥さん、Aちゃん、下がっていてください!」

 怯えて混乱したAと体の小さな露子を戦力としてカウントすることはできない。ここは自分がやるしかないと思った。汗の雫が地の花びらに滴る。

「はぁ……きれーな兄妹愛ねぇ~朝日ちゃん!」

 遥華は桜吹雪に身を隠し、千枚通しを飛ばしてきた。朝日は刀を振って叩き落とす。しかし、落ちた千枚通しはまた跳ね上がり襲い来る。狙われやすい急所は辛くも防げるが、肩や足をはじめ全身が傷だらけになる。


「いつまで続くかなぁ? 大和君とそろって調教してあげるね? 陰気眼鏡女は飽きちゃって!」

 朝日は近づくに近づけない。なんとか能力を避け、少しずつ少しずつ間合いを詰めていく。挫けない朝日に、遥華もうろたえ始めていた。

「あたし……あたしは……なんなの……! 人間じゃなくて……」

 Aはボロボロと涙を流していた。露子は胸がきゅうっと締め付けられた。楽しそうに笑って、いろいろなものに興味を示していたAが、こんな風になっているのが堪えられなかった。朝日も傷だらけになって、戦っている。


「私も……何か……ハルハルの言葉……名前……名前をつける……Aさん!」

「ツユコ……」

「Aさん、Aさんは……私たちと一緒がいいんですよね」

「うん……でも……コワい……うねうねなのに……」


「違います。うねうねなんかじゃありません。もし、うねうねでも、敷島君も朝日さんも、私も、嫌いになったりしません! あなたが優しくて元気で、素敵な子だってみんな知ってるから! だから、名前をつけましょう。言ってたじゃないですか。名前がほしいって!」

 露子はAの目を真っすぐに見つめた。黒曜石が露子の真剣な眼差しを反射する。


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